第14話 骨織警部と此処堀巡査


 web小説投稿に励む、幼馴染の二人。

 二人は同じマンションの住人で部屋が隣り合う。


 年下のボクが、小さな賞に引っかかる幸運に恵まれた。

 シェロが祝いごとを企画。ボクを彼の部屋に招き入れた。

 とある土曜日の午後。昼食を済ませた後のことだ。



 企画内容は知恵比べ。



 互いに知識や常識といったものに抜け目もあるかもしれない。

 自分の考案したものに矛盾点がないか、互いを試す。



 早速、ボクは出題を受けていく。



「題して天才クイズだ。これ答えられたら天才だと認めるよ」


「なんかムズかしい計算とか、させられそうだけど」


「いやいや簡単な謎解きだ。いつも通り気楽にいこうか」



 それなら喜んで受けると言ってしまったけど。

 そんな意地悪問題ではない、気を楽にしようとシェロが言うものだから。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 【黒耳シェロの天才クイズ】


 少年がひとり部屋のなかに居た。

 少年はある空想をしていた。

 空想の内容は、殺人事件だ。

 少年の頭の中で殺人事件が起きた。


 すると少年は、現実の世界で110番通報をした。

 すぐさま警察隊が出動してきた。


 警察官たちは、他殺の線で捜査に乗り出した。


 さて警察はなぜ、殺人事件の捜査を始めてしまったのか?



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




「えっ……ちょっと待って坊や。なんかおかしくないか、このクイズ」


「お巡りさんたち、謎解きは得意じゃん。さあ頑張って答えてよ!」



 警察は出題自体に矛盾があるのではないかと眉根を寄せる。



 変に思えなければ謎解きをする気が起きないでしょ、とシェロも言ってた。

 いや出題はこのように短文だ。

 導き出せる明確な解答も用意されているはず。

 そこへの疑問符を心の片隅に残しつつ。



 ボクが思いついたことを口にしていったのと同様に。



 いまは警察隊がボクの口から語られるクイズに挑戦?してもらっている。

 失踪したシェロの直前の行動が失踪の手がかりになるのではないか。


 これまでの聴取で、シェロのクイズにメッセージが隠されてはいないか。

 そう考えた警察はボクの所にあれからも毎日のように足を運んで来る。



 秘伝ひでん カムイ、13歳。



 あの日から警察との問答は、なかなか終わらない。

 次の日も。



「事件が起きたのは少年の空想の中だけ?」



 いやそうじゃない──。


 そうじゃなければ成立しないのが、この謎解きなのだ。

 そう考えてあの日のボクも瞳に力を込めた。

 そんなボクの元にやって来た担当警官の、


 骨織ほねおり 損三郎ぞんざぶろう、44歳。警部──も頭をかきだした。


「少年が通報したら、偶然にもお隣で通報内容に似た事件が起きていたんだろ」



 ボクが出した答えと一緒じゃん。



「きっとそっちの捜査を始めたんじゃないの?」



 ちょっと何言ってんの、……まあ人のこと言えないんだけど。



 警部の後に言葉を継いだのは、此処堀ここほれ 腕次郎わんじろう、24歳巡査。


 警部の部下の警官。



「ほねおり警部。さっそく想像力を働かせてきたね。うん、悪い推論じゃないけど。それってあくまでも可能性の話だね。けど断定するには薄すぎない?」


「そう言われてもだね坊や。可能性、薄すぎって。私のこたえはどのへんが矛盾しとるのかね?」


「そもそも出題には、ご近所の話なんて出てないよ」


 ボクがそう言うと。


 なるほどね、と此処堀ここほれ巡査が相槌を打った。


 なにやら見当違いの推理をしていないか、とその先を少しだけ知るボクもそう言わんばかりになる。だが、ここは順序通りに進めていく。


「確かに。そのように断定できる言葉が出題の中には出ていませんね、警部」



 巡査の言う通りだし、それはシェロの意見でもある。



「だがねぇ、ココホレくん。想像力で答えを導き出せというのなら私の推理も的外れとも言い切れないのではないかね?」



 警部の意見はかつてのボクの心の声だったな。



「このような短文の出題では、はっきり言って明確な解答を導き出すこと自体が不可能に近いと言わざるを得ないですが……シェロくんの言っていることを順に追うのがいいかもしれません」



 こっちの巡査に任せたいな。

 警部に促すと、



「かまわん、きみが言ってみたまえ」





 ここは黒耳シェロの部屋だ。


 シェロの失踪から五日ほどが過ぎて、いよいよ警察も失踪事件で捜査をしている所である。


 ボクは立会人だけど、警察の位置づけでは重要参考人であるらしい。

 補導も拘束もない。保護者からの承諾は得られている。

 あくまでも捜査協力を依頼されているだけだ。


 シェロを連れ去った犯人がいるなら危険が降りかかる可能性もある。そちらへの保護も込みであった。



 ボクの父親も、シェロの母親もあれから急ぎ就職をした。



 生活費を稼がなければいけないから。

 ボクの家も夕飯時まで留守になる。

 それはシェロの家も同様だった。



 学校への登校もするけど、午前中だけの授業で引き揚げてくる。

 事情が事情だけに。そうするようにと周囲の理解もあった。



 ボクの所へは、二人の警官コンビが担当で来てくれる。

 担当者の刑事さんはどちらも少年係だそうだ。



 警部の骨織 損三郎さん、44歳。

 巡査の此処堀 腕次郎さん、24歳。

 もちろん、どちらも男性だ。そして私服警官だ。



 そしてボク、秘伝カムイを加えたこの三人でシェロの追跡の捜査を開始することとなった。


 

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