初期クラスが自宅警備員であるため一歩でも宿から出ると経験値が全く得られなくなるらしいので、自室に引きこもります!
イ尹口欠
聖痕収集編
1.世間的には無職の自宅警備員である。
実家の自室で快適な余生を過ごしている。
……なんて言ったらヨボヨボのお爺さんを想像されそうだな。
俺の名は藤田
別に貯金を作って早期リタイアしたわけじゃない。
大学まで行って、IT系の大手システムインテグレーターに就職後、うつ病で退社し、障害者手帳を取得して障害年金を受け取りながら親のスネをかじっているというだけだ。
そう、世間的には無職の自宅警備員である。
生来の怠け癖も手伝い、俺は現状に甘んじていると言って良い。
二ヶ月に一回、心療内科に通う以外は自宅から出ることはない。
幸いと言っていいのか分からないが、父は弁護士で母は専業主婦という裕福な家庭に生まれたために、かじるスネはいくらでもある。
今の時代、パソコンとネットがあれば娯楽には困らない。
ゲームは基本無料のものから季節限定で安売りされるPCゲームを嗜み、漫画は電子書籍で読み、アニメは動画サイトで無料で観れる。
いや、ほんと引きこもるにはいい時代になったものだ。
夏真っ盛りの八月。
冷房をガンガンにきかせた部屋でPCを弄っている。
今ハマっているのはオープンワールドのMMORPGである。
有り余る時間と自由に使える金を使って、俺はサーバー内でも有名なプレイヤーとして認識されていた。
公式が実装しているメインストーリーは終盤に差し掛かっている。
普通ならばメインストーリーの更新なんて徐々にされていくものだが、このゲームは違った。
最初からすべてが揃っているかのような出来であり、その完成度からユーザーから圧倒的な支持を得ているゲームなのである。
追加コンテンツはサブストーリーばかりで、NPCの過去話であったり、寄り道的なクエストで強化素材を集めるためのボスの追加であったりと、本筋のメインストーリーのクリアに必要ないものばかりが実装されている。
だがオープンワールドということもあってか、メインストーリーの難易度は高く、未だにクリアしたというプレイヤーはネット上にも現れていない。
しかし俺は順調にヒントを集めて、メインクエストをクリアしていきながら、遂にラスボスの居場所を掴んだのだった。
……ソロで勝てるか?
課金しているので、AI操作の仲間が三体いる。
もちろんプレイヤーには劣るが、自操作のキャラクターと合わせて四人。
フルパーティである六人には届かないものの、レベルは十分に高い。
……試しに一度、挑んでみるか。勝てなければプレイヤーを募ろう。
メインストーリーを真っ先にクリアしたいという欲求に駆られて、俺はラスボスの元へ行くことにした。
ヒントをすべて集めた結果、最初の街にいる主人公の師匠である魔法使いがすべての黒幕であると示唆されていた。
俺は師匠の元へ向かい、話しかけた。
いつも通りのメッセージの後、選択肢が現れた。
……来た!!
ラスボス戦への分岐だろう。
俺は「師匠の正体を告げる」という選択肢を選ぶ。
そして師匠は、すべてを見破った俺――プレイヤーキャラクターを抹殺せんと、襲いかかってきた。
師匠は魔界から召喚した多数のデーモンを周囲に展開しながら、自身も高レベルの攻撃魔法をバンバン撃ってくる。
これまでに戦ったどの敵よりも強い。
俺はとっておきのエリクサーを惜しみなく使い、デーモンを順番に処理しつつ、範囲攻撃で師匠のHPも削っていく。
デーモンをすべて処理した後に、さらに過激な行動パターンになった師匠の猛攻に耐えつつ、ダメージを与えていく。
AIのヒーラーでは回復が追いつかないため、アイテムを惜しみなく投入。
ダメージはAI操作の味方にかなりの部分を任せながら、俺も隙を見て攻撃する、という形でなんとかHPゲージを削っていく。
一時間にも及ぶ熱戦が終わった時、こちらのリソースはほとんど尽きかけていた。
すべての悪事の黒幕を倒したことで、エンディングが始まる。
……やった、このゲームで初のクリアプレイヤーだ!!
俺は湧き上がる歓喜とともにエンディングを堪能する。
最高の時間だ。
長いスタッフロールを見終えると、暗転した画面の右下に「Fin」と表示された。
そして通知欄に「メインストーリーを初めてクリアした者」というユニーク称号を得て、満足感は頂点に達した。
いや、いいゲームだったなあ。
さっそく、ネットの掲示板にクリア報告でもしようかと思ったら、ゲーム画面が切り替わる。
お、まだ何かあるのか?
簡素なメッセージウィンドウには、「あなたこそ選ばれし者。このゲームは選別の儀式。さあ新たなる冒険の始まりがあなたを誘う」という表示。
おいおい、公式。
クリア後にも何か仕込んであるのか?
ワクワクしてメッセージを送ると、画面が白く輝き、まばゆい光がディスプレイから発せられる。
俺は眩しくて思わず目を細めて――奇妙な浮遊感を味わった。
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