第27話

「お、わかってくれる? なら、こっちも質問していい?」


 質問には質問で。ヒントをくれるなら、それこそ同級生でも誰でもいい。様々な意見が欲しい。あ、でも練習時間……。


「どうぞ。私もお役に立てるかわかんないけど」


 許可が出たので、このまま続ける。


「いいよ、参考だから。『フランス』らしいショコラって、なんだと思う? 観光客が飛びつくような」


 言ってみて、あまりに抽象的すぎてジェイドも頭に「?」がつきそう。しかし、曲に香りを求めてくる質問には、いい勝負なんじゃないか? などとも考える。ベルギー人の自分とは、フランス人は考え方が違うのかもしれない。様々な角度から、この問題に立ち向かう。


「……漠然としすぎてて、どれも選べないというか、どれも選べるというか」


 予想通りの女性の答え。ショコラにいろんな種類があるのは、女性も知っている。その中からフランスらしさがあるもの……と考えても、ボンボンもプラリネも、『らしさ』がある気がする。だが、それが求められているものではない気がして、女性は言葉を濁した。


 ジェイドは頭を抱えつつも、やはり、と想定通りになってしまった。となると切り替え。人脈作り。


「やっぱりね。あー、どうするかー。なんかいい助け舟出してくれそうな人、知ってたりする? 見習いだから、あんま難しいこと言われてもわかんないけど」


 レダのような。なにか、自分と違う視点を持ち、なおかつ後押ししてくれるような。さらに励ましてくれるような。叱られるより褒められて伸びるタイプだし。


「それはわからない。ごめんね。ただ、私だったら、自分の得意な分野を、思いっきり尖らせる、かな?」


「? どういうこと?」


 女性の意味深な発言に、お? と、ジェイドは少し前のめりになる。こういうのこういうの。待ってたのはこういうやつ。


「他の職人達と味で勝負するのは無理でしょ? なら、勝ち目のある分野を伸ばすしかないんじゃない?」


 私ならブラームスだけで勝負する、みたいなね、と例を出して女性は解説する。と、同時に、でもショコラで尖ってるってなんだろう? と疑問も持つ。目線をジェイドに向けると、予想以上に困惑しているようだった。


「勝ち目……」


 口元に手を置き、ジェイドは脳の奥底までダイブする。今、なにかひとつ歯車が噛み合ったような。その正体はわからないが、フランスというものを形作るなにか。


 その様子を見て、女性は言葉を続けた。


「もし私が観光客だったら、その味が思い出せるような、印象に残るものがいいかな。お土産として買って帰りたい」


 もうひとつ、ジェイドの歯車が噛み合う。

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