第8話

「てか、なんでそんなにショコラティエールにこだわるの? 国家資格だから? ベルギー人はやっぱりみんな一度は目指す?」


 さらに混んできてはいるが、それでもエディットは会話をやめない。カフェ客も増えてきた。さらに、洋梨や柚子など、三〇種類以上の様々なフレーバーのボンボンショコラを個包装し、透明なビニールに入るだけ自由に詰める、袋詰め売り客もごった返してきている。接客スタッフも増えたが、それでもキリキリ舞いだ。


 ジェイドも隙を見て会話を続けるが、さすがに限界。あとで返そう。しかし、なぜショコラティエにールこだわるのか。彼女自身あまり言いたくない。位の高い仕事だから。ショコラが好きだから。ベルギーに生まれたから。きっとこんな予想をされる。そんな時は、


「まぁそんなところです。ルレ・デセール目指してるんですよ」


 と、お茶を濁す。目指しているのは本当。ショコラも好き。だがそもそも、ショコラティエールは彼女にとって、


「××××だから」


 誰にも聞こえない小声。大きな声で答えられたら、とても気が楽になるのに。

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