第5話
パリ、モンフェルナ学園も例に漏れず、高校卒業資格兼、大学入学資格、通称バカロレアの取得に高校生達は躍起になる。大きく分けると、普通バカロレア、技術バカロレア、職業バカロレアとなり、どれかを取得するわけだが、食に関するものは職業バカロレアになる。
そしてCAPと呼ばれる適正資格の取得を目指すのだ。ちなみにCAP持っていなくても、パティシエやショコラティエになることはできるが、独り立ちして開業する時や研修生の受け入れなどで優遇されるため、大半の者が目指す。
フランスではショコラティエの地位はかなり高く、国家資格となっている。ショコラティエになるためにはパティシエの資格も必要なほどで、合格するためには英語やフランス語といった基本的な能力が必要。
さらに地理や宗教もわかるとして、スポーツもあり、その種目がなぜか卓球の試験があるところが多い。当然、卓球で落ちると全てが水の泡だ。つまり、パティシエやショコラティエになるには、卓球ができなければならないのだ。
「……ふっ!」
真上にあげたボールが落下中に、ラケットで下側を擦るようにスイングする。回転が多くかかりスピードはないが、一度自分のコートでバウンドしたボールは、相手コートでバウンドした瞬間、相手のラケットから逃げるように角度を変える。相手は触れることができず、サービスエース。
「サァッ!」
学園敷地内の体育館で吠えたジェイド・カスターニュは、非常に真面目に授業を受ける。動きやすい上下、アディダスのジャージ。目指すは世界的なショコラティエールだが、今、この時だけは、卓球のサーブに全てをかけ、返されたらカットマンスタイルで相手のミスを待つ。ちなみに、体育館がある学校は非常に稀である。
「世界卓球録画して、サーブの研究してるショコラティエール志望はあんただけよ」
苦笑いしつつ、対戦相手で友人のポーレット・バルドーは拍手を送る。さすがにそこまで卓球に賭ける情熱を、彼女は持ち合わせてはいない。楽しいスポーツ、程度だ。
しかしジェイドは一切手を抜かない。手を抜くことは相手に対して失礼にあたる。そして、日本ではスリッパを使った卓球もあるという。ショコラの本場はヨーロッパだが、職人の腕は日本が世界一。すでに常識となっている。ならいつか行かなければならない。そして、卓球でも遅れをとるわけにはいかない。
「ふっ、私のウィキペディアが出来たら、学生時代はヒットマンスタイルだったって書いておいてくれ」
汗を拭いながら、未来の自分を想像する。世界を飛び回る有名なショコラティエ。サインも考えておかないと。
「どこ目指してんの。あと、カットマンね。ヒットマンは殺し屋」
「サーブ一撃で仕留めてるし、実質殺し屋みたいなもので間違いないけどね」
「はいはい」
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