第55話 不穏な動き

「血の女王だ!!」

「か、会長が……死んでる」

「血まみれの血の女王……」


 特殊部隊らは血まみれの蘭子を見て早速攻撃の体制に入る。


 だけど、


 秘書は蘭子の前に立って庇いながら叫ぶ。


「「「っ!!」」」

 

 驚く特殊部隊員らは血まみれの秘書を見て固唾を飲んだ。


 秘書は声の限り叫ぶ。


「この会長は殺されるべくして殺されました!!!血の女王様のやることは全て正しい!!!」


 彼女の言葉に驚愕する特殊部隊員らは目を丸くする。


 そんな秘書のことがかわいいのか、蘭子は秘書の頭に手を乗せる。


「あらあら、秘書ちゃん。あなたはまだまだのようね」

「え?」

「この世の中に正しいことなんか存在しないわ。だから私を崇めるのはしないでちょうだい。私は私のやりたいことをするだけ」

「……」

「世の中には国民を守るフリをして、でんこ様のようなお強い方を徹底的に排除して、自分たちは国民が払ってくれた血税で贅沢の限りを尽くす無能どももいっぱいいるのよ。そんな無能どもがいるから、キングアイスドラゴン一匹も倒せないのよね」


 と、蘭子はわざとらしく目を細めて特殊部隊員らに馬鹿にするような視線を向けてくる。


「はあ!?」

「俺はSランクの探索者だ!!」

「馬鹿馬鹿しい!テロリストの分際で!」

「多勢に無勢だ。血の女王、そんな綺麗な顔で悪戯すると、後で痛い目に遭うぜ」


 蘭子に怒りを募らせる特殊部隊の人たち。


 彼女は彼らを見て鼻で笑う。


「ふっ、お前たちに私を殺す権利などないわ。もうお前たちを支持してくれるものは、権力を持っている一部の耄碌ジジイだけだからね」


「「「っ!!んだと?!」」」

「「「……」」」


 反応は二つに分かれる。


 侮辱されたことで憤怒するもの、蘭子の言っていることの意味を察して落ち込むもの。


「テレビだと、お前たちのいいところしか流さないけど、SNS、nowtube、tiktukでは、先日のキングアイスドラゴンの時にお前らが見せた恥ずかしい所を収めた動画や画像で溢れているのよね」


 蘭子は自分のスマホを取り出して、小悪魔っぽく挑発しながら特殊部隊員らをディスるnowtube動画を見せる。


 PVはすでに7000万を超えている。


「優秀な探索者を集め、国民の安寧を図る組織が、国民を差別し、混乱を招くという矛盾。でも、いいよね?あんたたちは選ばれたんだもの。いい給料、社会的地位、みんなに憧れの視線を向けられるという快楽。劣っているように見える人を見下すことによって得られる優越感。そんな遊びに陶酔するのは楽しいものね〜でも、もうすぐお前たちは


 ブラッディメアリーを連想させる悪女ぶり。


 美しい美貌から放たれた言葉は声色こそ優しいが、背筋を凍らせるほどの冷たさがあった。


 だが、


 特殊部隊員らは、


「クッソがあああ!!調教が必要みたいだな!」

「つけあがるな!!精鋭部隊をなめんだよ!」

「しつけてやるよ」


 精鋭部隊の男3人は、理性を失って蘭子を襲い掛かる。


 3人は、


 蘭子の胸と股間を見ながら、口角を吊り上げる。


「うふふふ。特権を奪われたくないから、必死に足掻いているようにしか見えないんだよね……あと、私の体を好きにできるのは、祐介だけだよ」


 蘭子はまたサイコパスのように笑い、小さく唱える。


「フューリーブレード」


 紫色の光が彼女の手を包み込む。


 だけど、祐介と一線交えた時と比べたら威力は十分の一以下だ。


「お前らにかまける時間はないわ」


 蘭子は紫色の光からなる剣を軽く振って紫色の斬撃を飛ばす。

  

 その斬撃は襲ってくる3人の体を包み込む。


「アアア!」

「ヴアア!!」

「オオオッ!」


 彼らはSランクの探索者だ。


 ゆえに動きには無駄がなく、緻密に計算された行動をしたはずだが、


 蘭子の赤い瞳はそんな彼らの打算や行動パターンなどを読み取り、彼らよりも無駄のない動きを見せたのだった。


 蘭子の斬撃によって血まみれになった3人はあえなく蘭子の前で倒れる。


「ううう、うあああああ!!!」

「っ!」

「なんだ……今のは!!!っ!あああ!」


「弱い。とても弱い。私の部下の方が強い」


 言って蘭子は会長室へ向かう。


 それを逃げと踏んだある男が呼び止める。


「待て!!」


 静観していた渡辺である。


 また挑戦するものがいるのかと、心底面倒臭そうに後ろを振り返る彼女に渡辺は言う。


「祐介君と組むのか?」

「……」


 若干驚いた表情で渡辺を見つめる蘭子。


「お前に言う筋合いはない」

「もし祐介君と組む気なら、やめてくれ……日本がとんでもないことになってしまうんだ……形を変えるのは良くない……気持ちはわからなくもない。だが、現状維持によって救われる人もいるんだ……」


 渡辺は頭を下げる。


 中年おじさんが20代前半のような見た目の血まみれ美女に頭を下げる。

 

 なかなかシュールな光景に、蘭子は一瞬目を丸くするが、面白そうに笑う。


「ふふ、あなたは優しんだね」

「……」

「でもさ、優しい奴は利用されるだけだよ。ダンジョン協会の偉い人にとってお前は逆らわない都合のいい忠犬。あなたみたいなのがいるから、無能な上の奴が調子に乗るんだよ」

「っ!!」

 

 まるで図星を言われたように渡辺は目をカッと見開いた。


「他にいるかしら?私と人。うふふ。ジュル」


 悪女のように下で唇を舐める蘭子。


 誰も彼女の前に立つものはいない。


 探索者の中で優れた一部の人間しか入れないダンジョン協会管轄の特殊部隊。


 彼ら彼女らは圧倒されてしまったのだ。


「じゃ、バイバイ」


 残された数人の特殊部隊員らに蘭子は別れを告げて、会長室にある窓から彼女は飛び降りた。


 取り残された7人の特殊部隊員。


 彼ら彼女らは


 


 血の女王に完全敗北したのだ。


 最も優秀なSランクの精鋭部隊の人3人は血まみれのまま息が止まっている。


 これまで自分らが大事に守って来た何かが徹底的に破壊された気分だ。


 薄々気付いてはいたが、血の女王によって認めたくない現実を告げられた。


 蘭子に助けられた秘書は、この場面を目の当たりにして、とても満足したように頷く。


「血の女王様のために、頑張ろうかしら」


 と小さな声で言っては、絶望する特殊部隊員らにバレないように密かにここを抜け出した。


 

 振り向き様に秘書は恵まれた彼ら彼女らを見て嘲笑った。


X X X


とある国会議員side


 恐怖に怯えるある国会議員は警視庁に逃げ込んだ。


 同僚が殺されたと言う連絡を受けての判断だった。


「くそ……くそ……くそおおおお!!!!」


 体の震えが止まらない彼。


 自分の本能が告げ知らせているのだ。


 自分の命が危ないことを。


 彼はスマホを取り出して誰かに電話をかける。


「お、俺だ……血の女王から日本国民を守るためには伝説の拳様の力が絶対必要だというふうに世論を誘導してくれ。伝説の拳はこっちの味方だと、我々の英雄だというイメージを作るんだ……」


 白髪に覆われ、皺だらけのおじいさんだが、その貪欲さは顔に全部出ている。


「世論操作だ」









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