第54話 会長の最後

「じゃ、お前を生かさないといけない理由を私に教えて」


 蘭子は上から目線で会長に質問を投げかける。


「そ、それは……俺が死んだら日本は大混乱状態に陥る!」

「ふっ、お前の代わりなどはいて捨てるほどいる。随分と傲慢な態度ね」

「っ」

「いっそのこと、秘書ちゃんにやらせたら?無能力者だから、日本をよりいい方向に導く点においては、お前より有能かもね」

「……なに馬鹿げたことを」


 蘭子のなめくさった態度に会長の顔の小皺は増える一方だ。


 そんな彼を指差して蘭子はみくびるように言う。


「金があって、コネがあって、学歴がある能力者は評価され、そうじゃない能力者や無能力者は徹底的に排除される。少人数が富や名誉を独占し、持たざるものを嘲笑う。お前はこんな仕組みを着実に作り上げたわけだ」

「……それの何が悪いんだ!」


 大声で返した会長は卑屈な表情になり語り出す。


「血の女王、世の中はそういうものなんだ。誰しもが平等?そんなのは幻だ。君の組織はそれを実現させるために動いてるんだろ?これは年長者としての助言だ。君が夢見る世界は絶対訪れない。ここは天国じゃないからな」


 会長の言葉を聞いた蘭子は、面倒臭そうにため息をついては、会長を馬鹿にしたような視線を向ける。


「ふっ、私をそんな純粋で真っ直ぐな人だと思ってんのか?」

「なに?」

「確かにこの世は天国じゃない。でも、今よりマシな世の中にすることはできる。方法は簡単だ。教えてやろうか?」

「……」

「恵まれてない能力者と無能力者への差別と関わりのある権力を持つものをを殺すこと」

「ふっ!革命でも起こすつもりか!?生憎治安が不安な発展途上国ならできるかもしれないが、この国はできすぎているんでね。君たちの出る幕はないんだよ」


 ふっと鼻で笑う会長。


 蘭子は微動だにせず口角を少しあげていう。


「ううん。革命ではないのさ。殺すだけ。私は何も得ることがないわ」

「え、え!?」

「私と私の組織は何も得ない。まあ、資金源は必要だけど、お前らみたいに肥大化して既得権益を作るつもりはない」

「っ!何も得ないんだったら何で君たちは動いてるんだ!!」


 唾を吐く勢いで問い詰める会長。


「言ったでしょ?恵まれてない能力者や無能力者が差別されない世界を作るためだって。ふふ、お前たちを殺したら、また権力に目が眩んだお前みたいな奴らがハエのように寄ってきて既得権益を作るんでしょ?それが今みたいな差別を生み出すのなら、そいつらを全部殺す」

「馬鹿な……」

「そんなことを数えきれないほど繰り返したら、いつかはなるのさ。そんな世界に。私とでんこさまのような矛盾した存在が現れない世界にね」

「君は狂っている……」

「ううん。狂っているのはお前たちさ。これまで気持ちよかったよね。頂点に立って、好き勝手探索者たちを管理して、お前の王国を作り上げてね。でもさ、」

「……」

「お前が探索者たちを管理するように、お前もまた、


 蘭子の言葉に会長は悔しそうに歯軋りする。


 それからまた卑屈な表情で両手を上げ彼女に語りかけた。


「これはこれは……俺の降参だ。まあ、そこまでいうのなら、俺が君たちの願いを叶えてやろう。俺の権力の全てを使って。差別をなくしたいんだろ?小卒でも中卒でも探索者になれるように仕組みを変えよう。そして、名門校を出なくてもいい依頼を受けられるように独占禁止法案を作るように俺が国会議員らに働きかけよう」


 突然すぎる会長の敗北宣言。


 隣にいる秘書は目を丸くして驚く。


 だが、


 蘭子の赤い瞳は動かない。


「な〜に人殺しておいて、もう反省しました、これからいいことします。みたいなこと言ってんだ?怖いよね。これまで享受してきたものが失うかもしれないから」

「っ!」

「お前が不正なやり方でダンジョン関連企業から得たお金、名門校の校長や親からもらった賄賂、ダンジョン協会で働けるとチラつかせて若い女の子に手を出したその小さないもの、不正なやり方で貯め込んだお金を隠すための仮想通貨資産、外貨預金、コンサル名目で立ち上げた怪しい会社、不動産、株、地金などなど……お前が持っている全ての資産は把握済みよ。延約535億円」

「っ!!!!!!!!」


 会長は急に腰が抜けたようで、尻餅をつく。


 驚愕した彼。


 そんな彼に蘭子は


「お前が持っているもの、全てでんこ様に渡しなさい。そしたら殺さずにお前のことを一度は信用してあげるわ。うふふふ。まあ、断っても奪ってでんこさまに献上するつもりだけど」


 サイコパスのように笑う蘭子。


 会長は


 すでに小皺だらけになった顔を隠すこともせず叫び散らかす。


!!!!!!!!!!」


 会長はスーツの内ポケットからナイフを取り出して、それに魔法をかけた。


 白く光るナイフを手に持ち、蘭子に向かって突進する。


「殺す殺す殺す殺す!!!!!俺のものには指一本触れさせねええええ!!!」


 醜悪な頬肉が揺れ、バーコード髪は乱れている。


 蘭子はそんな会長をチラッと見ては小さく言う。


「なんで権力ある奴は例外なくこうなんだ?本当に不思議。お兄ちゃんと瓜二つ」


 蘭子は指を動かし、彼に斬撃を飛ばす。


「ぶっ、おっ!ヴエ!!」


 ズブ


 彼女の斬撃は会長の体のありとあらゆるところを切りつけ、彼は倒れた。


 すでに血まみれになった会長。


 そんな彼を


「このくそやろう!!」

「っ!」


 これまで二人のやり取りを見ていた秘書が踏ん付ける。


「能力者だけど、なんのコネもない弟を餌に、散々私の体を好き勝手に!!!貴様は私と弟にとって……日本にとって害悪でしかない!!」


 怒り狂って秘書は会長を踏み続ける。


「ぶっ!あっ!」


 10分後、


 会長は死んだ。


 血まみれになった秘書と蘭子。


 蘭子はサイコパスのように笑いながら秘書に言う。


「秘書ちゃん」

「はあ……はあ……はい」

「楽しいよね?」

「……はい」

「ずっと我慢すると、こんな奴らがすぐ調子に乗るんだよ。差別もいじめも性犯罪も同じ。だから、もし誰かが秘書ちゃんの大事なものを奪おうとするなら、秘書ちゃんも

「とても素敵な話です」

「でもね、秘書ちゃん、これも知っておいた方がいい」

「なんでしょうか」

「もし、秘書ちゃんが誰かの大事なものを奪ったら、秘書ちゃんも誰かに大事なものを奪われるよ」

「……」


 秘書は複雑な表情をする。


 すると、


 壁が爆発によって壊れた。


 壊れた壁から現れたのは、


 精鋭部隊を含んだ特殊部隊の人たちだった。


 中には渡辺率いる4人の部下もいる。






追記



みなさん、心配や応援のコメント、本当にありがとうございます。


力になります。


おかげさまで書けそうです。



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