第43話 蘭子さんが会いに来た

 999万円という驚きの額と鳥肌を立たせる怖いメッセージを見て、俺は身震いした。


 500円とか1000円あたりの少額なら笑顔で『ありがとうございます』が言えるが、これは次元が違うのだ。


 俺が何も言わずにいると、また誰かがスパチャを投げてくる。


『名無しさんが1000万円を投げました』


「ああ……」


『名無しさんからのメッセージ:Rさん、私のでんこ様に手出さないで(笑)たとえ身内だしても掻っ攫うのは許さないわよ』


 なんじゃこりゃ……


 俺が戸惑っていたら、すかさずまた誰がスパチャを投げてくる。


『名無しYさんが1000万円を投げました』

『名無しNさんが1000万円を投げました』

『名無しYさんからのメッセージ:Rさん、誰?』

『名無しYさんからのメッセージ:R、まじぶっ殺す。でんこ様に手出すな。でんこ様は私のものなの』


「い、いや……みんな……落ち着いて……」


 か細い声で場を丸く収めようとするも、


『炎上だああああ!』

『でんこ様のお尻をかけた熾烈な攻防戦!燃ゆる〜╰(*´︶`*)╯』

『金持ちの中年社長たちに愛されるでんこ様wwww』

『金額エグすぎいいいいい』

『名無しYさんって、女口調?金持ちのおじさんが書いたと思うと、鳥肌立つわ』


 まずい。


 この時、どうすればいいか。


 俺は目を瞑って考えた。


 そしたら、それっぽい解決策が出てくる。


 そう。


 何事においても欲張るのは良くない。


 俺はドヤ顔で言う。


「今日はスパチャ禁止!!」


 俺は早速スパチャを投げれないように設定を変更した。


「スパチャは本当に嬉しいですけど、争うのはダメですからね!これからはモンスターを狩に行きますよ!」


 俺は浮遊魔法でスマホを動かし、俺じゃなく前を移すようにした。


『炎上の次はSSモンスター狩りか。ここはコンテンツ豊富すぎてわろた』

『面白すぎw』

『配信者の神様がでんこ様を助けているで』

『ちゃんと格好いいところ見せて、でんこ様のお尻の株を上げよう!!』


 よし!


 さっきの炎上騒ぎを鎮める意味でも張り切ってやるぞい!

 

 おおおおお!!


 おおおおおおおお!!


「ワンインチパンチ!」

「ぐえええええ!」


 俺はミノタウロスを倒した。


「ワンインチパンチ!」

「キオオオオオオ!!」


 俺はキング鷲を倒した。


「ワンインチパンチ!」

「ムオオオオオオ!!」


 グレイトダンジョン水牛も。


 こんな感じで2時間ほどがすぎた。


『かっけええええ!!』

『これは男でも惚れる』

『ダンジョン協会所属の能力者が全員挑んでも、でんこ様の足元にも及ばないんだろうな』

『こんなに楽しませてくれる配信者はいないぜ!』

『いつみてもえぐいよな。でんこ様が倒したモンスターは全部つよつよSSランクのモンスターだぞ!』


 どうやらご満足いただけたようだ。


「今日はこのくらいにさせていただきます!またお会いしましょう!」


 俺はライブ配信を終える。


 倒したモンスターをダンジョン協会に行って売るのも面倒くだい。


 大金を稼いだから、妹と三人に食わせる肉以外は全部燃やそう。


 俺は早速作業に入る。


 ミノタウロス肉とキング鷲の肉とグレイトダンジョン水牛肉。

 

 三つともとても上品な食材だ。 


 早苗さんは料理好きだ。


 この肉を使った料理を作ってもらおうか。


 そんなことを考えながら肉を切ってゆく俺。


「祐介、今日も格好良かったよ」

「っ!」


 気配がしなかった。


 あり得ない。

 

 この俺にバレずに近づける人間などいるはずが……


 いや、


 いる。


 まさか


 俺が素早く後ろを振り向く。


 そしたら、長い金髪に鮮烈な赤い目をした高身長の美女が佇んでいた。


「うふふ……祐介を見ているとね、祐介の強さを上回る愛を注いであげたくなっちゃうわ……永遠に……ジュル」

 

 蕩け切った表情の彼女は理性を失った目をしている。


 大きすぎる胸ははだけたワイシャツによって強調されており、ひっついた紺色のズボンは、彼女の脚線美を際立たせる。


「なんでスパチャ禁止にしたの?私、もっと投げたかったのに……」


 彼女は残念そうにスマホを取り出した。

 

 あれ?

 

 待ち受け、俺の写真?

 

 俺があげたnowtube動画で俺の顔をスクショして待ち受けにしたのか。


 蘭子さんは俺の写真が写っているスマホ画面を舐め始める。


「れろれろ……」

「ななな、何をやって……」

 

 俺が相当当惑しながら問うと、彼女はにっこり笑う。


「会いにきたよ。でんこ様」

「……名無しRさん」


 敵意があるようには見えないが、行動が全然読めない。


 俺は蘭子さんから漂う雰囲気に圧倒されていた。





 

 




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