第6話 二人は獲物に会いたい

「お、おはようございます!友梨先輩!奈々先輩!無事で何よりです!」


 理恵は丁寧に頭を下げ、二人に挨拶をした。

 

 すると、姉である友梨が口を開く。


「無事……ということは、伝説の拳様があなたのお兄様で間違いないのかしら?」

「は、はい。そ、そうですね」


 理恵は自信なさげに答えたのち、頭を俯かせる。

 

 すると、美人姉妹は頭を下げた。


「「ありがとう!」」


「え、え!?頭をあげてください!なんで私なんかに!?私は何もしてません!!」

 

 通りすがりの男女たちに見つめられる理恵は両手を強くぶんぶん振る。


 美人姉妹は頭を上げた。


 姉の友梨が話す。


「ううん。あなたはことをしてくれたの。だからね、私たちにとって岡田さんは尊い存在よ」

「いいえ……私なんか……」


 暗い表情の理恵。


 そんな彼女に奈々が亜麻色の前髪をかき上げて興味深げに言う。


「ふふふ、理恵ちゃん!今日は久しぶりに一緒にご飯食べよっか?私たち、理恵ちゃんといっぱい話がしたいんだ。お兄ちゃんのことも含めて!」

「そ、それは……できません」

「え?なんで?」

「……」


 困っている理恵に友梨は柔らかい表情を向ける。


「岡田さん。言ってちょうだい。私たちがあなたのお兄さんに助けられたように、私たちもあなたを助けたいわ。迷惑でなければだけど……」


 友梨の言葉に理恵は難しい顔で返答する。


「お金がありませんので……」

「「え?」」


 実は昨日の理恵の千円は、お小遣いではなく、昼食代だった。

 

 兄が落ち込んでいたので、慰めの意味も込めて一緒に牛丼屋に行ったので、理恵は昼食代をもらう日まで昼は何も食べずにいるつもりだった。


「それなら、私が理恵ちゃんの分奢るね!なんなら奢ってあげるね!」

「いいえ!そんな!迷惑をかけるわけにはいきません!」


 と、理恵が頭を横に振った。


 すると、友梨が理恵を真っ直ぐ見つめながら言う。


「岡田さん」

「は、はい」

「っ!」


 なるで自分の耳を舐めるような声音のようで理恵は上半身を一瞬ひくつかせた。


「じゃ!決まりね!昼になったら学食来てよね!」


 と、奈々は小悪魔っぽく言って、姉の腕を抱き締めつつ歩く。


 理恵は美人姉妹の後ろ姿を見て思う。


 とても綺麗で不思議な雰囲気を漂わせる人たちだと。


「いい香り……あ、早く行かなきゃ!」

 

 理恵はクラスへと向かう。

 

 伝説の拳について聞いてくるクラスメイトたちの勢いはすごいものがあった。


 気疲れしながら授業を聞くことしばし。


 気がつけば昼休みだ。


 なので、理恵は早速食堂へ向かう。

 

 すると、多くの人たちの中で異彩を放つ存在が二人いる。


「はあ……やべ……いつ見てもめっちゃ綺麗な姉妹だ」

「俺は大人しい感じの友梨先輩派」

「僕は小悪魔っぽい奈々ちゃん推しな」


 その二人に羨望の眼差しを向ける男たち。


 中には


「昨日のライブ見た?下着姿の二人ってまじセクシーだったよな。胸めっちゃでけーし」

「俺、それ見ながらめっちゃ捗ったぜ!」

「はあ……死んでもいいから、あの二人とやりて〜」



 性的な言葉を吐く男性陣に軽蔑の視線を向けていると、


「あ!理恵ちゃん!こっちこっち!」

 

 妹の奈々が手を振って理恵にウィンクした。

 

 三人は注文を済ませ、テーブルに座って食事を始める。


「いただきます!」

 

 理恵は凄まじいスピードで昼食を食べてゆく。


 彼女の食べっぷりがあまりにも良いものだから姉妹二人は頬を緩めて理恵に優しい視線を向けてきた。


「岡田さん」

「ひゃ、ひゃい?」

「足りないならもっと頼んで良いわよ」

「ん……そんな……申し訳ないですよ」

「いいの。私もなの」

 

 姉の友梨は自分のソーセージエッグ定食をじっと見つめながら言った。


「あはは……じゃ、お言葉に甘えて」


 妹が食事を再開すると、今度は妹の奈々が妖艶な表情で自分のオムレツをスプーンでいじりながら言う。


「私は、こうやって好きなんだよね。ふふ」


 奈々はスプーンでオムレツを優しくなでなでしたのち、突き刺してご飯掬い、自分のツヤのあるピンク色の口の中に入れて唇を動かす。


 理恵はそんな二人の様子など気にせずに、唐揚げ定食を凄まじいスピードで食べてゆく。


 食事を終えた三人は、校舎裏へ行き、古いテーブルの椅子に腰掛けた。


「学校にこんなところがあったんですね!」

「そうよ。ここは人いないから、昼休みにはお姉ちゃんといつも来るんだ」

「え!?二人だけの空間!?私、ここに来て良いですか!?」


 理恵が驚いたようにいうと、姉の友梨が理恵の耳に向かって呟く。


「っ!!」

 

 突然耳元で囁かされたので、びっくりする理恵に奈々が笑いながら言う。


「あはは!理恵ちゃん反応かわいい!」


 理恵の反応を見た友梨は含みのある表情で口を開いた。


「ええ。かわいくてもっといじりたくなっちゃうわ」

「……」


 理恵は家族という単語を聞いた瞬間、暗い表情をした。

 

 友梨は理恵の表情を見て、ハッと我に返って話を切り出す。


「岡田さん、その……一つお願いしていいかしら?」

「な、なんでしょうか」


 理恵は不安そうな表情で友梨を見つめる。


 が、友梨は理恵の手をぎゅっと握りし締めて言う。


「岡田さんのお兄さんにお礼が言いたいの。会わせてくれないかしら……」

「おお……」


 理恵は目を丸くする。


 チャンネル登録者数1000万超えの超絶人気インフルエンサーが兄に会いたいと願い出ているのだ。

 

 いつも思う。


 自分の兄は過小評価されていると。


 もし、この出会いによって兄の評判が上がるのであれば……


「はい!もちろんです!お兄ちゃんはカフェでバイトをしていてですね……えっと住所は……」

「アインで送って。交換しよう」

「は、はい!」

「あ、ずるい〜私も理恵ちゃんと交換するの〜」


 という経緯で、三人は連絡先を交換した。


 普段、学校でこの美人姉妹とはよく話す方だが、連絡先を交換するとは思いもしなかった。


「それじゃ、学校終わったらすぐ行きましょうか」


 友梨は青い目を光らせて言うが、


「あ、そういえばお姉ちゃんってここ1週間、ずっと日本ダンジョン協会とのコラボあるじゃん!」


 妹の指摘に友梨はキョトンとしながら拗ねたように言う。


「そうね」

「ふふ、お姉ちゃんらしくないね。まあ仕方ないと思うけど。私が行くよ」

「……」


 不服そうな姉に小悪魔っぽく笑う奈々。


「会えるんだ……」


 誰にも聞こえないような小声で言う奈々の顔は次第にピンク色になり、裕介が治療してくれた自分の太ももの内側を右手でさする。


 それと同時に、メスのフェロモンが奈々のスカートから出てきて、風と共に広がって行った。




追記



次回濃密な絡み







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