第4話 美人母娘は一人の男に興味を示す

 流れてくる大量のコメントに俺と妹はただただ口を半開きにしている。

 

『にしても妹ちゃんめっちゃかわいい!』

『兄もおしゃれしたらいけるで』

『中卒なのに最強ってのはギャップがあって格好良すぎるう!』

『友梨ちゃんと奈々ちゃんがURL貼ってくれたので見にきました!』

 

 ていうか、いつの間に俺たちの顔出てたんだ。


 顔バレはしないように気をつけてきたつもりだけど、もう何が何だか知らない。


 と、俺がスマホの画面を見て驚いていると、慌てふためく理恵がスマホの画面を見てかっと目を見開く。


「お兄ちゃん……もしかして、助けてくれたのって友梨先輩と奈々先輩なの?」

 

 妹に問われた俺は考える仕草をしながら答える。


「そういえば、二人を襲った金髪イケメンっぽい人とカメラマンがそう言ってた気がする」

「めっちゃ綺麗な姉妹だったよね?」

「あ、ああ。そう。本当に綺麗な人たちだった」

「わわわわ……お兄ちゃん」

「うん?」

「いつも私に親切にしてくれる人って、友梨先輩と奈々先輩なの」


「な、なに!?!?」


 開いた口が塞がらないとはまさしくこのことか!?


 妹と同じ制服だったから驚いたけど、まさか俺の妹によくしてくれた人だったなんて……


 まず状況を正確に確認する必要がある。


 俺は震える手で捕まえているスマホに向かって話す。


「あ、あの……とりあえず、配信は一旦切ります。想定外のことが起こりすぎていて……まず頭を整理させてから後日またやらせていただきます!」

 

 俺が言うと、コメントがものすごいスピードで流れ始める。


『伝説の拳様!いつでも待ってるぜ!』

『友梨ちゃんと奈々ちゃんのファンとして、本当に感謝する』

『今度はちゃんと収益化してからライブやってほしいな。今なら審査すぐ通ると思うよ』

『スパチャしたいけど、伝説の拳様、まだ収益化してないんだよな』

『私も、妹ちゃんが無事に学校に通えるように助けたい!』

『待ってます(๑╹ω╹๑ )』

 

 俺は安堵のため息をついて、ライブ放送を終了させる。


 単なるスマホと睨めっこしただけなのに、どっと疲れが押し寄せてきた。

 

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、妹の理恵が急に俺の腕を抱きしめて自分の体を俺に寄せる。


「お兄ちゃん!」

「ん?」

「友梨先輩と奈々先輩はすごい人たちだよ!」

「す、すごい?」

「うんうん!二人ともnowtuberで、チャンネル登録者数500万超えの超絶人気インフルエンサーよ!特に友梨先輩は英語も達者だから海外からのファンも多くてチャンネル登録者数1000万超えなの!」

「いっせんまん!?」

 

 あまりにも非現実的な数字を口にするものだから、俺は目を丸くして早速nowtubeを漁る。


「ほ、本当だ……すげ……」


 友梨さんは『ゆゆゆり』、奈々さんは『なななな』というチャンネル名で活動している。


 二人が撮った動画の内容をざっと見ると、ダンジョンでの様子を配信したものや、日本ダンジョン協会の偉い人にインタビューしたもの、イケイケなイケメン探索者たちとコラボしたりと種類は実に多岐にわたる。


 俺、こんなすごい人たちを助けたのか。


 だとしたら、このすごい美人姉妹にひどいことをした人は一体誰だろう。


 そういえば、コメントの中で


『さがくん、いい人だと思っていたのに、友梨ちゃんと奈々ちゃんにあんなひどい事を……まじ許さん』


 と書かれたものがあった気がする。


 さがくんだったか。


 俺はnowtubeでさがくんを検索してみた。


 すると、


「あ、出た出た」

「さがくん?この人もめっちゃ有名な探索者nowtuberじゃん。この人がどうした?」


 妹が俺に体をくっつけたままスマホを指差して問うた。


「この人とこの人のカメラマンと思われる人が友梨さんと奈々さんを襲ったんだ」

「え?」

「ミノタウロスに命を狙われた時、もう死ぬと諦めた二人がやけになって行動に走ったんだろうな」

「さがくんって、いつも困っている人とかかわいい動物を助けたり、日本ダンジョン協会からも認められたりしていて、結構人気ある探索者なのに……」

「ああ。俺もやつの動画を見たことあるよ。属性を二つも持っているAランクの探索者だろ?」

「うん」


 さがくんを実際見た時、見覚えのある顔だと思っていたけど、俺がnowtubeを始めるにあたって参考にしたnowtuberがさがくんだった。


 非の打ちどころのないアイドルのような探索者だったのに、

 

 今や


「え?お兄ちゃん、さがくんのチャンネルの動画、全部非公開になっているよ」

「そうだな。多分SSランクのダンジョンから脱出して、バッシングを受けたくないから非公開にしたんだろう」

「……」

「いい人だったのに……」


 妹はショックを受けたように、深々とため息をつく。


「まあ、こいつがいい人だろうが悪い人だろうが関係ない。とりあえず、俺たちはご飯を食べないといけないんだ。ダンジョンへ行ってくる」

「ま、待て!」

「ん?」


 俺を呼び止めた妹。


 妹は口角を吊り上げて財布から千円札を取り出した。


「今、牛野屋で牛どんキャンペーンやってね!大盛り定食が500円なの!」

「い、いや……その千円って一体どこから手に入れたんだ?」

「こんな時もあろうかと思って、残ったお小遣いを貯めておいた!」

「お小遣いと言っても、俺がくれたお金ってお小遣いと言えないほど微々たるもんだろ……それを貯めていたのか……」

「お兄ちゃん……これからは。今日くらいは肩の力抜いて、いっぱい食べようね」

「……」


 妹のこんなところを見るたびに、俺の至らなさが浮き彫りになって本当に申し訳なくなる。


 俺が目を逸らしていると、理恵が俺に自分の体をこずってきた。


 俺はそんな理恵の柔らかい黒髪を優しくなでなでしてあげる。


 余談だが、牛野屋で理恵があまりにも勢いよく牛丼を貪るものだから、俺の分も半分譲って、店長もサービスしてくれた。


X X X


警察署


 二人の姉妹はSSランクのダンジョンを出るや否や警察署に駆け込んだ。


 警察も裕介のライブを見ていたため、経緯を全て把握し姉妹を保護してくれたわけである。


 そして、二人の母である躑躅早苗は警察署にやってきては娘二人を見た途端にぎゅっと抱きしめて泣いた。

 

 綺麗なドレス姿の躑躅早苗は二人を自分の車に乗せて家へと向かう。


「お母様……ごめんなさい。主演の映画関連のイベントでお忙しいはずなのに……」


 後部座席に座っている姉の友梨が申し訳なさそうに青い目を潤ませながらいう。


 隣にいる奈々も顔を俯かせながら反省の色を見せる。


 そんな二人をルームミラー越しにみている早苗は、自分の亜麻色の瞳をうるっとさせて妖艶な唇を動かした。


「いいのよ。本当に……本当に無事でよかった。むしろ悪いのはこっちよ。仕事が忙しくて二人の面倒をちゃんと見てあげられなかったわ。あの子、長年の付き合いだから大丈夫だと思っていたのに……そういう子だったなんて……」


 早苗は悔しそうにハンドルを握る手により一層力を入れてきた。

 

 その反動なのか、ドレスの胸のところを力強く押し上げている凶暴な膨らみがより強調されてしまう。


 落ち込む自分の母の姿を見た妹の奈々は、何かを決心したように口を開く。


「確かにひどいことをされかけましたけど、それを上回るいい出来事もありました」


 言い終えた奈々は、いきなり頬をピンク色に染めて体をモジモジさせる。

 

 そんな妹の様子を見て、姉である友梨はスカートをぎゅっと握り込む。


「お母様、私たちはみたいに」


 友梨の色っぽい表情を見て、早苗は目を光らせる。


「私ものライブ見てたわよ」

 

 一旦切って、早苗はもどかしそうに自分の美脚を動かしつつ唾液が糸を引いた唇を動かす。


「はあ……何も求めずに潔く去ってしまったわ……しかも、亡くなった両親の代わりに妹を養うなんて……これはをしないと亡くなった主人が悲しむわね……」


 母の艶美をルームミラーで確かめる美人姉妹は興奮を抑えながら言う。


「お姉ちゃん……私、信じられないの。まさか、あの方が理恵ちゃんのお兄様だったなんて……」

「うん……本当にこれは奇跡よ……私、とっても嬉しい……」


 二人の会話を聞いた早苗は


「友梨、奈々。私にも話してちょうだい。あの方についてもっと知りたいから。


 まるで獲物を狙う鷹の如く目を光らせる早苗を見た二人は


 目の色彩がなくなり、口角を吊り上げる。


「「いっぱい話します」」


 最初こそ、この車の中には悲しみや心配といった負の感情で満ち溢れていたけど、


 今や


 一人の男への興味から生じるドス黒い感情でいっぱいだ。



追記


これから本格的に始まりますのでよろしくお願いします!





 

 

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