男に戻りたいタマキちゃんVS嫁にしたい邪神ちゃんVSまたしても何も知らない旧支配者

サン角ハイ【ブラックニッカ】

プロローグ:彼女の呼び声

0.ウ=ス異本


 Q.神はいると思う? A.ネットで見た。


 インターネットミームでこういったものがある。

 そんなことをふと思い出した“彼”は、なんやかんやとすっかり見慣れてしまった視線の先にいる“神”に対して思うところがあったのだろう。

 ベッドの上で上体を起こしている彼の視線の先、ベッド脇の椅子に座るのはまごうことなき美女だった。


「あらまぁそんな顔をして、まろび出てしまった内臓はしっかり戻ってるのに……どこか痛いところでもあるの? 医者をおよびする?」


 蜂蜜色の金髪を揺らし、女性は“彼”の顔を見ながら眉を顰める……と言っても、その双眸は伏せられており、見えているんだかいないんだかわかりはしないが、彼女にそのような常識が通じるわけもない。なんたって“邪神”なのだから。

 視線を落とした彼の視界に、大きな膨らみと、彼女と同じ色の自身の髪が映り込む。


「どうしたのタマキ?」

「あ、いや、えっと……痛くは、ないけど」


 そう応える彼……タマキに対し、女性は不安そうに下がっていた眉が機嫌を取り戻し、口元には笑みが浮かぶ。


「それじゃあ話の続きだけれど、えっと、どこからだったかしら」

「ああいや、その話なんだけどもうさ」


 そもそもその話を聞いていたからこそ気が遠くなって余計なことを思い出してしまったのだ。

 だが、彼女がそれを気づく様子もないのは明白、間違いなく目の前の“邪神”は浮かれているのだろうと、そういう空気であると、ここ数ヶ月ですっかり理解しきってしまっている。

 故に、申し訳程度にその話を辞めさせようと抵抗するが、無意味であろうことも理解しているのだ。


「それじゃあ最初から……さきほど“私の教徒”から押収したものの中に私×タマキものの薄い本があって」

「ナマモノ……っ」


 思わず顔を覆うのも仕方のないことである。

 自らが題材の“薄い本”など、悍ましさしか感じないことであろう。


「私のお気に入りの箇所は……」

「しかも読んでるっ」


 神に常識は通用しない。


「でもやはりシュブ×タマ本は」

「略称まで……!」


 ツッコミだしたらキリがない。


「ホモサピエンスって本当に想像力豊かよねぇ」

「こんなところで感心されてもなぁ!」

「でも、やっぱりタマキ受けばかりねぇ」


 そこは問題ではないと思うが……いや、やはりタマキにとっては問題かもしれない。

 彼らの周囲の知人たちは誰も疑問に思わないだろうし“この世界”においてのタマキ立場を考えれば当然のことではあるのだが、タマキにとってはそうではない。

 自身のアイデンティティに関わる重大な問題なのである。


「でもタマキはカワイイし、仕方ないわねぇ」

「カワイイ言うなっ」

「えぇ~、でもタマキはカワイイって評判じゃない……私に似て!」


 余計なひと言がついてくるが、そこは問題ではない。

 実際に似ているし、知らない者が見れば“母娘”……いや、“姉妹”と思われても不思議はないのだが、やはり彼にとっての問題はそこではないのだ。

 胸筋というには少しばかり無理のあるだろう豊満な胸を揺らし、タマキは搾り出すように言葉にする。


「オレは男だっ!」


 そう、だが彼女である。否、“彼”は“彼女”になったのだ。

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