――――――ターナー……?

「こ、これは……何だ?」


 岩の上にへたり込んだ「勇者」は、腰が抜けて立てずにいた。目の前の巨人の圧倒的な戦いぶりに、目を離せなかった。


(……何だ、この巨人は。テラス様の遣わした召喚獣か?)


 数多くの召喚獣すらも使役できるという、聖女テラス。しかし、その姿を見たことはない。この巨人然としたものが、魔王の卑劣な攻撃に対抗しうる―――――――?


(……いや。それにしては、野蛮、すぎる……ような……)


 長槍を生み出し、振り回し、切り裂き、突き立て、投げる。大雑把なようで、確実に獲物を殺すために特化された、洗練された技術。


 というか、あの動きは、まるで。


(――――――ターナー……?)

「――――――カナさんっ!」


 後方から名を呼ぶ声に振り返ると、「勇者」パーティのメンバーが息を切らして集結していた。皆無傷とは言わないが、とりあえず5体満足ではある。


「良かった。お前たちも、無事か……」

「ええ。突然、蠍たちが誘爆を起こして……で、何ですかアレは!?」


 そして「勇者」の元にやって来たメンバーたちも、当然『ラグナー』の巨大な姿を目の当たりにする。


「もしかして、あれって……聖女テラス様の、召喚獣?」

「そうよ! この危機に、聖女様が遣わしてくださったんだわ!」

「さすが聖女様!」


 そう解釈した仲間たちの顔色が、パッと明るくなる。

 その様子を見て「いや……」と口を挟むことを、「勇者」はできなかった。


 それほどまでに、先ほどまでの絶望的すぎる状況に、自覚以上に気力を奪われていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る