デザート・シャークかよ!
移動に『ラグナー』を使うわけにもいかないので、俺たちは砂漠の移動に違う乗り物を用意しなければならなかった。徒歩での移動は、いくら何でも過酷過ぎる。
そして、俺たちが乗るのは。
「……デザート・シャークかよ!」
用意された動物はデザート・シャーク。シャークとは言うが、背びれを出して泳ぐ様がそう見えるだけで、実際は竜の類の魔物である。別名、「砂に潜む殺し屋」。一応乗れるように調教は可能らしいが、あまり人気のある乗り物用ではない。
「集落間をすばやく移動するなら、ラクダよりこっちの方がいい」
「……乗り心地最悪なんだよな、コイツ」
泳ぐように砂の中を移動するので、スピードはピカイチだ。だが、ラクダのように荷物を運んだりには向いていない。なので不人気なのだ。
だが、俺たちはこいつに乗らないといけない理由がある。
「……『ラグナー』を、ずっと放置するわけにもいかんだろう?」
「わかってるよ、チクショウ」
何かあった時に、『ラグナー』を動かす必要がある。しかし「勇者」が出張っている以上、あまり積極的に空を飛び回るわけにもいかない。なので、サイトを見張りに残し、俺とアヅマで自治領の首都に情報収集に向かうことになったのだ。何かあった時にすぐ戻れるよう、スピードに長けたデザート・シャークでの移動が必要なわけである。
「……じゃあ、サイト。博士たちとの通信と、見張りを頼んだぞ」
「その前に、ほれ。持ってけ」
サイトが俺たちに放り投げたのは、小型の通信機だった。
「『ラグナー』のパーツから造った。機能的にも、博士に確認を取ったから問題ない。これで、博士たちとの通信も可能だ」
『……そういう訳だ』
「あ、ジジイ!」
通信機からサノウのジジイの声がして、俺は大声を出した。幸い、聞いている町の人は、周囲にはいない。
『話を聞いた限りだと、おそらく『ゲノム』は砂漠全体がテリトリーらしいな』
「そんなことわかってんだよ。問題はどうやって探すかだ」
『そう焦るな。奴らの目的が破壊ならば、破壊すべき対象がある場所に必ず現れる。先回りできれば、尻尾はつかめるだろう』
「……つまり、まだ破壊されていない首都に向かうのが、どっちみち得策か」
サラマン自治領の首都には、おそらくカナたちもいる。まーた変な勘繰りされねえように気を付けないといけねえ。
「……しょうがねえ。とっとと行くか」
「うむ。それがいいだろう。いつ、どこで出てくるかもわからんからな」
そう言い、俺たちはデザート・シャークに乗って、砂漠を突っ走る。俺の持ち物は最低限の携帯食糧と砂除けのフード、町の残骸に落ちていた剣と弓矢くらいだ。アヅマも同じ格好で、武器は自前の錫杖1本。砂漠を高速移動するのにぴったりの軽装備だ。
「遠慮はいらねえ、全力でかっ飛ばせ!」
デザート・シャークに檄を飛ばし、俺たちは超高速で砂漠を突き進んでいく。本気を出したこいつらなら、町から首都まで1時間もあれば到着するだろう。
並みの人間なら振り落とされてしまうだろうが、俺やアヅマは頑丈なお陰で、手綱を落とすことはなかった。というか、『ラグナー』のGに比べればこんなのそよ風だ。
そうして、あっという間に首都の影が見えてきた、そんな時だ。
「―――――――ガブァアアアアァアアアアアアアッ!!?」
「うおおおおおおっ!?」
「ターナー!?」
デザート・シャークが悲鳴を上げて、急激に進路を変える。さすがに俺も遠心力に負けて、砂漠へと放り出された。
「ぺっぺっ、ちくしょう! 何しやがる……」
そう言い、砂を吐きながらむくりと立ち上がると同時。
――――――明確な、「死」の気配がした。
(……何か、いる)
俺は剣を抜き放ち、周囲を警戒した。周囲は一面の砂。それらしき姿は見えない。
懐に忍ばせていた通信機から、かすかに声がした。
『――――――ナー! ターナー! 聞こえる!?』
「……ああ。キュールか」
『周囲に、微弱だけど『ゲノム』の反応があるわ! 警戒して!』
言われなくても、俺の警戒心はマックスにまで高まっている。
砂漠の生態系の上位であるデザート・シャークが怯えるほどの怪物となれば、『ゲノム』しかいないだろう。
(……どこだ、どこに居やがる……!)
剣を構えて周囲を見回す俺の視界に、ちらりと映ったものがあった。
足元に、ちょこんと近づく、紫色の小さな
そいつの姿を見たとたん、俺の「死」の予感は最高潮に達した。
「―――――――うわあああああああああああああああああああああ!!」
砂に足を取られるのも構わず、俺は後ろに跳び、そのまま弓矢を蠍にめがけて放った。
蹴り飛ばすなり、剣で突き刺すなり、他にも方法はあったろう。だが、本能で、俺はこの小さな蠍に対し、遠距離攻撃をする、という手段を取った。
それが功を奏した。
弓矢で射抜かれた蠍は、俺をさらに後方へと吹き飛ばす、大爆発を起こしたのだ。
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