勝手に黙って出て行くからそんなことになるんだ!
「――――――で、何で
「こっちのセリフだ」
「……聖女テラス様直々の依頼よ。サラマン自治領含む「帝国」砂漠地帯で、ここ最近、原因不明の爆発事故が多発しているの」
カナによれば、この数日の間に実に数十件もの爆発事故が起こっているそうだ。規模は様々だが。
「……これほどの規模の爆発は、さすがに初めてだけどな。テラス様は、魔王軍の仕業かもしれないということで、こうして調べに私を寄越したんだ」
「……なるほどな」
確かに、これほどの事件、魔王軍による攻撃ととらえてもおかしくない。
……おそらく、ハズレだが。
「それより、お前だ、ターナー! なんでこんなところにいるんだよ!」
「あ? そりゃ、お前……」
『ゲノム』のことを話そうとして、ふと思い出した。そもそも、何で『ラグナー』を隠して、俺たちがこの町に来たのか。
それは、ジジイの言葉に起因する。
――――――絶対に、『ラグナー』のことを、他人に話すな。お前たちがパイロットであるということも、絶対に控えろ。
「……何でだよ?」
「『ラグナー』の存在を3国が知れば、必ず奪い合いになる。足を引っ張られるのはごめんだからな」
実際に『ゲノム』と闘い始めた時、『ラグナー』の存在を隠しきるのは無理だろう。だからこそ、保険はかけているものの『ラグナー』に乗っていることは知られない方がいい。
それを思い出した俺は、ぼりぼりとわざとらしく頭を掻いた。
「――――――あー……観光、だよ……暇に、なっちまったし……」
「観光ぅ?」
我ながら苦しい嘘だ。カナは俺の胸倉を掴んだまま、じっと俺の顔を見る。下手に逸らすと「嘘だ!」と言われそうだから、目線は切らない。
しばらくじっと俺を見やったのち、カナはパッと手を放した。
「――――――何だよまったく、間の悪い奴だな。勝手に黙って出て行くからそんなことになるんだ!」
……信じやがった、コイツ。こんな見え見えの嘘を。
「ま、お互い、いい大人なんだ。そういう事なら、必要以上に干渉したりしないよ。……まあ、危険だから早めにこの砂漠から去るんだな。お前なら大丈夫だと思うけど」
カナはそう言うと、「さてと、じゃあ、私は行くよ」と言って、路地裏から去っていく。完全に姿が見えなくなったのを見て、俺は「ぶはぁーっ」と息を吐いた。
(……まさか、こんなところで出くわすとはなあ)
最初からこんな調子では、今後の『ゲノム』との戦いも先が思いやられる。
がっくり肩を落として、俺はアヅマのいる救護所に戻っていった。
******
「いやあ、いい宿をもらえてよかったな。やはり人助けはするものよのう」
「……いい宿って言っても、屋根があるだけマシってだけだけどな」
町の救護活動を一通り終えた俺たちは、この町の跡を拠点にすることにした。情報収集から戻ってきたサイトとも、すり合わせを行うためだ。
アヅマが率先してけが人の治療をしてくれたおかげか、町の人たちは大層感謝してくれた。そして、残っている建物の一室を拠点として提供してくれたのである。
「……博士には、俺から連絡しておいた。補給も、砂漠のオアシスを確保している」
『ラグナー』のエネルギーは、基本的には魔力だ。それも、かなり純度の高い自然の魔力を、直接注ぎ込む必要がある(と、マニュアルに書いてあった)。
この砂漠地帯においては、集落付近にあるオアシスの水。混じりけのない水には、潤沢な魔力が宿っていた。それを補給することで、『ラグナー』はエネルギーを補給できるのである。
「……しかし、「勇者」とは厄介じゃのう。というかターナー。お前さん、「勇者」と知己だったんかい」
「……まーな」
「いずれにせよ、「勇者」に『ラグナー』の存在を気取られるわけにはいかん。慎重に、連続爆発事件の真相を調べるほかないだろう」
サイトの言葉を締めに、俺たちは休むことにした。何しろ、もう夜だ。
砂漠の夜は驚くほどに寒い。屋根ありとはいえ、爆発で穴の開いた宿では寒くて仕方ない。非常に嫌だが、男3人、身を寄せ合って眠る羽目になった。
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