第1のゲノム 熱砂の邪蠍蟲 ~ジェスタビオン~

……タス、ケテ……

 俺たちのいるゲット山脈から『ゲノム』が現われたというサラマン自治領まで、通常であれば7日はかかる距離である。

 それを、『ラグナー』で飛んでいけば、ものの数時間で着いてしまった。コイツ、とんでもない飛行速度だ。


「……パッと見、それらしいものは見えねえぞ?」


 モニターに見える景色から砂漠をざっと見降ろす。しかし、それらしい姿はない。どこを見ても、一面黄色の砂ばかりだ。


「やい、ジジイ! 何もいねえじゃねえか!」

『……慌てるんじゃない。こちらのレーダーからも消えている。今、探っている最中だ』

『解析、急いで!』 

『砂漠の砂嵐の影響もあるかもしれない。ソナーの誤差修正! 早く!』


 冷静に言うジジイの後ろで、キュールたちの騒がしい声が聞こえている。何だよ、向こうも緊急事態なんじゃねえか。


『どうする、いったん戻るか?』

「バカ抜かせ! あんな啖呵切っといて、みすみす帰れるか!」

『……なら、いたずらに飛び回って、エネルギーを消費するか?』

「ぐっ……!」


 サイトの冷静な言葉に、俺は詰まった。勢いで飛び出してきてしまった以上、飛行に必要なエネルギーもさほど十分ではない。このまま飛んでいても、砂漠に落ちてしまうのは時間の問題だった。


「……だったら、どうするってんだよ」

『――――――決まっている。補給線を確保だ。キュール、ここから一番近い集落を教えてくれ。一旦そこに着陸し、調査を行う』

『……ええ。わかったわ。現在地点から西に、小さい集落がある。距離は……200ってところかしら』

『了解した。……ターナー、聞こえたな? 移動しろ』

「いちいち命令調で言うんじゃねえ! わかってるっつーの!」


 そう言い、俺が西に進路を取ろうとしたときだ。


 ……ズズ……ン!!


「……何だ? なんか今、揺れなかったか?」

『地震か? いや、それはないか。ワシら、飛んどるわけだし……』

『……東に距離800の地点で、爆発あり!』

「何だって!?」


 通信の報告に、俺たちは驚く。距離800って言ったら、今行こうとしていた集落から4倍も離れている。集落は目に見える位置ではないので、その4倍。かなりの距離だが、そこからの爆発の衝撃が、ここまで来たというのか。


「……サイト、進路変えても文句はねえな!?」

『うむ、行った方がよかろう。もしや『ゲノム』やもしれん!』

『……好きにしろ』


 サイトの声を聴き、俺は内心してやったりと思いながら、全速で東に進路を取った。


******


目標地点近くまでは来たものの、「『ラグナー』を大っぴらに人に見せるわけにもいかない」というジジイの言葉に従い、俺たちは目標地点付近の岩陰に機体を隠して、目標地点に向かった。


「……何だこりゃ……!」


 そこにあったのは、おそらくサラマン自治領の中でも大きな町である。


 おそらく、というのは、今は見る影もなくなってしまったからだった。

町で一番大きかったであろう建物は、上半分だけが倒壊している。恐らく、下半分が吹き飛んだのだろう。ほかの建物もばらばらに砕けており、木々は燃えていた。


 そして、町には爆発に巻き込まれた人々が、血を流しながら建物から這い出ている。


「……ひでえな、こりゃ」

「こりゃいかん! すぐに治療せねば!」


 アヅマは頭から血を流している男性の元に駆け寄ると、「治癒」の魔法をかける。熊みたいな体型をしているから勘違いしがちだが、このオッサンは僧侶だ。


「……じゃあ、俺たちは……」

「……俺は、情報収集に回る。お前は好きにしろ」

「あ、おい!」


 俺が呼び止める間もなく、サイトは去って行ってしまう。ポツンと残された俺は、どうしようかと思案していたのだが――――――。


「……タス、ケテ……」


 か細い声にぱっと振り向くと、建物の下敷きになっている少女の姿があった。


「……ええい、クソ!」


 迷っている余裕はない。俺は少女の方へと駆け寄ると、瓦礫を片っ端からどかし始めた。

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