不幸の連続

夏梅

不幸は連続して起こる。

「呪われている」


彼女はベッドに横たわり、天井のシミを数えながら呟いた。

彼女がそう非科学的に嘆くのも無理はなかった。今年に入ってからあまりにも不幸が続いているからだ。

一月は父方の祖母が死去、その月に勤めていた会社が倒産してニートに。そのまま二ヶ月ニート生活を送った末に、就職できた会社でもまた不幸が続いた。同僚は顧客とトラブルになり飛び彼女の負担が大きくなった挙句、その翌月には店長までもが心身の不調を理由に退職となった。

さらには採用条件と異なることに嫌気をさした彼女はエリアマネージャーに採用条件を確認したところ、なぜかいじめられる事態に発展することとなった。


そして、現在彼女はコロナを患っていた。

熱からくる頭の重さと、常にガラス片を飲み込んでいるような喉の痛みにイライラしていた。

「なんで私ばかりこんな目に遭わないといけないの」

彼女は何も悪いことはしていなかった。

常に会社のためにどう売上を取れるか意識し続け、前年比を大幅に更新するも、彼女のことを毛嫌いしているエリアマネージャーからの賞賛はない。それでも、負けるもんかとさらに売上を増やしリピート客を増やし続け、彼女の名前をあえて指名してくる顧客だって作ってきたと言うのに。


ズキン。


喉に強烈な痛みが走る。唾を飲み込んだからだ。

ここ数日まともに食事は取れていなかった。喉の痛みで食欲は半減し、8kgも体重が減ってしまった。

「チョコレートなら」

体を起こし、机の上に置いてある通勤用の鞄の中に入れていた、一口大のチョコレートに手を伸ばす。これもまだ嫌われていなかった頃にエリアマネージャーがくれたものだった。

「みんなで食べてください」

外装に付箋で綺麗な字で綴られいた。

「何が気に障ったんだろうな」

少し悲しくなったが、チョコレートに罪はない。ツイストされた外装を剥き、彼女はチョコレートを口に放る。溶けたチョコレートを飲み込む瞬間、緊張が走る。

「あ、痛くない」

彼女は安堵の表情でまたベッドに横たわった。ゆっくり溶けていく間、彼女は喉の痛みから解放された喜びに包まれていた。

「ん?」

口の中で溶かしたチョコレートに何か入っていた。それは小指の爪ほどの大きさだった。ナッツ系の類かと思い、噛み切ろうとするもの噛み切ることができなかった。

彼女はベッドの横にかけてあるティッシュケースからティッシュを数枚だし、それを吐き出した。軽く拭き取り、ティッシュの上に置いた。


ビニールに包まれた紙切れだった。


「え」

数秒思考が停止する。

目の前にある紙切れにさまざまな憶測が交差する。

「異物混入?チョコレートから出てきた?カバンに入れてたから会社のゴミと一緒に混ざっちゃった?あ、それあるかも。そうだよ。だってこれ個包装じゃないもん」

彼女はカッターを取り出し、ビニールを剥く。

ぎちぎちに折り畳まれた紙を千切らないように広げていった。それは、小さな黄色の付箋で、赤い文字で彼女の名前と「呪」と書かれてあったのだった。


その付箋は、どこにでもある、普通の付箋だった。

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不幸の連続 夏梅 @otibi6

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