[第二章:惹かれあう心/育む彼女]その2
[浮遊都市兵庫]上部、[神戸]の最下層内の大型輸送用通路内。
今は使われていないその場所を動く、三の漆黒があった。
「…」
進む三機全てが、ニロイの装着していた装備と近い形状のアーモンド型の装甲群を付けている。
が、うち一機はクレーンアームとコンテナを、それぞれ肩部、腰部に追加で装備していた。
さらにもう一機は装甲内に多数の重火器を。先頭の軽装の一機は装甲内に多数の剣など近接兵装を格納している。
「…」
装甲を同間隔でレール上に並べ、内側に向かってスライドさせた巡航形態。
その状態の先頭の一機の誘導に従い、同じ形態の後ろの二機は動く。
進む鋼鉄の通路は横幅が十メートル、高さが七メートル。
装着している装備を含めても二メートルと少しの三機…舞踏姫たちのとっては広めの通路となる。
使用されていないためか電源は落とされており、内部には人も機械の姿もない。
埃も積もっており、彼女らがゆっくりと動くだけでも周囲を舞って非常に汚かった。
(この先百メートル直進の後、右三十五度に。その後上方へ二十メートル。さらに六十メートル先に)
「…目的のルートが存在する」
暗闇の中で赤く光るモノアイ。それが組み込まれた、索敵用強化情報集装置である漆黒のゴーグルをつけた彼女らは、先頭の機体がシミュレートした通りに誰もいない道を進んでいく。
そして数分後。
「第一目的に到着。これより侵入のため、作業準備に入る」
「了解」
「了解した」
先頭の言葉に後ろの二機が装甲の内部で頷く。
と同時に、三機が同時に装甲を展開。今までは移動用の推進器として使っていた脚部で鋼鉄の床を踏みしめる。
そんな彼女らの目の前には、巨大な壁のようなものが存在している。
…いや、それは普通の壁ではない。十年近く放置され、埃やゴミがたまり続けたことで隙間が見えなくなっていることで、周囲の壁と一体のものであるかのようにも見えてしまうが、そうではない。
あるのは隔壁、つまりはシャッター式の扉である。
過去に閉じられ、以降一度たりとも開けられていないそれは、例え電気が通ったところで、整備不良で開きはしない。
であるならば、その先に行かねばならない彼女らがとる手は一つである。
「装備選択、作業実行」
言葉と共に、先頭の機体が左右の装甲をスライドさせ、目的の装備を左右から一つずつ内部から取り出す。
握りこまれると同時に、刀身を溶岩色に淡く発光させるそれらは、二振りの溶断ブレードのようだ。
先頭はそれを隔壁に突き刺し、縦にゆっくりとおろしていく。それが終われば、今度は横に。
すると、隔壁には金属の融解後の辺で形作られた長方形が出来上がる。
大きさは彼女ら三人が一人ずつ通ることができる大きさだ。
「溶断完了を確認。不要物を取り除く」
クレーンアーム持ちが、歪な長方形の金属板をクレーンで弾けば、その先への道が開ける。
「作業完了。これより侵入開始」
『了解』
言うが早いか、全機が傘型の巡航形態に装甲を変形。脚部から推進剤の光を僅かに出しながら、くり抜いた穴からその奥へと入る。
「チェックポイントクリア。これより目標地点へ向かう」
彼女らが今行くのは、レールの敷かれたトンネル内。今なお使われている場所である。
普段は浮遊都市内での物資輸送のために使われる列車が通っている。
この世界の現在の技術力であれば、ホバー移動する車両での運送も可能だが、それはできない。なぜかと言えば、ホバー車両を生産するにはコストがただの列車よりもかなりかかることと、使用する特殊な部品が都市を浮かせるために必要なものであるため、都市の浮遊維持の方に使われている。
そういった事情で、肩の古いレール式の輸送列車が使用されていた(実際問題、これでも輸送力、時間は十分なのでこれ以上のものを使う理由もない)。
「我々のいる都市で、セラフィムとの戦闘が開始するまで、残り五分」
「把握している。目的地へ」
「急行」
そう言い、速度を上げる彼女らはどこに向かっているのか?その答えは単純。
現在いる都市内の大規模基地にある、格納庫である。
「周囲索敵、問題なし。障害はない」
彼女らは昨晩から、そこに至るために密かに動き出していた。
「基地内物資搬入口まで、あと三分」
彼女らが通ってきた廃棄通路。あそこはかつて、セラフィムとの戦闘時に意図的にこの[神戸]から分離された、廃棄区画と繋がっていた場所であった。
廃棄後は道が途中で途切れ、外部に露出。そこからの敵の侵入を防ぐため、金属板などで封鎖し、現在に至る。
三機の舞踏姫たちはそこに侵入するため、[能勢口]から一度外に出、都市の外周部を飛行、到達する必要があった。そのため、暗さゆえに敵の活動も消極的になり、味方の監視網からも比較的逃れやすい夜に、外に出てきたのであった。
ちなみに、[能勢口]から出る際に使った通路は、エンジェルとニロイの戦闘時に部分的に破壊されており、穴が開いている。そして、彼女らが外に出る際に開けられた隔壁との角度が偶然にあった結果、日没の後に月明かりが渚を照らすことになった。
すぐに月明かりが届かなくなったのは、三機が出た後に隔壁が閉められたためである。
…しかし、わざわざ穴の開いた道(誰かに三機が行くのが見つかる)を通るのは、隠密行動のセオリーから外れる。誰かに見られていたり、都市内の管理用の監視カメラに映像が残っていれば、三機の行動目的を踏まえると、いざというときに不味いというのに。
それを彼女ら…の指示者が見過ごすのは、見過ごせるのは、いったい何故なのか。それはまだ、分からないことである。
「…予定時刻。戦闘開始される」
三機が、トンネルを抜ける。
その先にはすぐ、目的地と………、奪取するもの(・・・・・・)が存在している。
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