大国の国王様は今日も眠る。

葉叶

第1話

ある所に大きな大きな国がありました。

その国は他の国が戦をしていても、病に犯され弱っていても、干渉をする事はありませんでした。

しかし使者を送っても不思議と使者は国に着く事は出来ず、気付けば森の外へと戻ってきているのです。

どこの国とも繋がらない不可思議な大国。 

王の姿も、国の全貌も見る事すら叶わぬ大国。


これはそんな大国のとある王様のお話。


窓からさす陽の光が、黒髪の男の子を温かく包み込み、男の子は気持ち良さそうに陽の光を受け入れ、すぅすぅと寝息を立てていた。

そこへバタバタと足音を立て、誰かが部屋へと向かってきていた。


バンッ


「ゼン様!!!」

「…んむぅ……うるさいなぁ……」


気持ち良さそうに寝ていたゼンの顔は思わぬ乱入者によって歪められていた。もぞもぞと動きながら耳を塞ぐゼンを見て、乱入者はゼンの近くまで行き、耳元で怒鳴った。


「うるせぇじゃないです!!meは過労死しそうです!」


ゼンの耳元でキャンキャン吠えるのは、ゼンの使い魔だった。


「大丈夫。お前ならできるよ、みぃ」


みぃと呼ばれた使い魔は、腰に手を当てて怒りを隠しもせずに、まるで子供に落書きされたかの様な顔を顰めた。


「お前ならできるよってドヤ顔してる場合じゃないです!!

ゼン様の気まぐれで国をお作りになったのに、何故国民を連れてこないのですか!!me達が全部の仕事をやってるんですよ!?」


ポカポカとした太陽の光は、みぃが大声をあげていてもゼンの体をゆっくり温めていく。

はぁー…あったかいなぁ、このままもう一度寝れてしまいそうだ。

重たい瞼に逆らわず、成り行きに身を任せようとした時だった


「ちょっ!寝ないでください!!とにかく!!早く国民を連れてきてください!!じゃなきゃ、me達は全てをボイコットしますから!!」


みぃの先程よりも更に大きな声により、渋々閉じかけていた目を開ければ目の前には、腕を組み鼻息荒くこちらを見るみぃが居た。

どうやら少し本気で怒ってるようだ。


「ふわぁーあ、面倒だけど動くか…」


あくびをしながら起き上がり、ズルズルと落ちていくズボンを直しながら部屋から出た。


みぃ達は家畜の世話から城や街の掃除、それに僕のご飯まで全てをこなす万能生物であるが、正直みぃ達の種族はわからない。

適当にやった実験で、たまたま出来た三匹の生物。

それが、【みぃ】【デス】【ネネ】である。

俺の適当さが出たのか丸い頭に適当な顔、俺の膝くらいまでの身長しかないのに、牛や家等を軽々と持ち上げる腕力。その癖細かい事も熟していくみぃ達にボイコットされてしまうと、とても困る。


「デスー、出かけるよー」

「何処まで行くdeathか?」


ポヒュンッという少し間抜けな音と共に現れたデスは、小振りの赤いリュックを背負い直し、ポテポテ歩きながら僕を見上げる。


「あー……んぅーー…適当に?」


首を傾げる俺を見て何かを悟ったのか、わかったdeathと言ってピョンっと俺の肩に乗った。


俺は出かける時はデスを必ずと言っていいほど連れて行く。

というのもデスが一番転移魔法に長けているのだ。

因みにみぃは身体強化に、ネネは解析魔法に強い。

俺はゆるーく適当に魔法を使うから、転移魔法の様な細かい制御が必要な魔法を使うと、思ってたのと違う所に飛んでしまう。

なので出掛ける際はデスを連れて、というのが三人とのお約束みたいなものだ。


「それでは、'転移'death!」


体を包み込む闇が晴れれば、周りの景色が城から街へと変わる。


「それにしても国民探しかぁ…どういう人が一番働いてくれると思う?」


肩にいるデスの方を見て言えば、デスはリュックからローブを出し、僕に渡した。


「その姿だと周りに見られるので、これを着てから大通りの方に行くdeath。」


そう言われて自分の姿を見てみれば、ゼンは大きな寝間着のままだった。

大人しくローブを羽織り、追加で渡された靴を履く。


「さっきの質問ですが、貧困層がいいと思うdeath。今の暮らしより私達の国のほうが暮らしやすいのは確かdeathし」


そうデスに言われて少し考えてみたが、確かにそうだろうなぁとしか思えなかった。

国と名乗ってはいるが、ゼンの国は人口0人である。

みぃ達と国王だけで住まうには大き過ぎる国だが、資源に困る事は無い。

故に他国との交流もなく、自国だけで生きていけるのだ。

国民が増えたとしても、税を搾り取らなくても生きていけるだけの土台は既に作られているし、仕事は沢山あるし報酬もちゃんと渡す事はできる。

スラムで生きていくよりは良い人生になるのではないかと思う。


「貧困層って事はスラム街だよね。それじゃあ行こっか!

…………………………スラム街どっち?」

「あっちdeath!」


人混みを離れ、暗い路地裏へと向かえば、先程までとはガラリと景色が変わる。


「んー、何人連れてけばみぃは満足するかな?」


薄汚れた子供やこちらを見てヒソヒソする大人達。

数を数えてみれば結構居るようだ。悪い者はもちろん除いて数えてるが、100人とか言われた訳でなければ、新しい国に行く必要はなさそうだ。


「最低でも10人は欲しいdeath。今の最優先は家畜の世話や街の清掃をやってくれる人death!」

「ふむふむ、なるほどね」


って事はある程度の汚れ仕事も出来て、元気な人が良いということか。

誰にしようかと周りをキョロキョロしていると一人の大きな男が後ろに取り巻きのような物を連れてゼンの前へ立った。


「此処はガキが来るようなところじゃ「うわ、くっさ!!!!ちょっとそれ以上僕に近寄るのやめてよね!」


思わず鼻を塞ぎ距離を取るほどの臭いに、自然と顔が歪む。


「あぁ!?てめぇナメてんじゃねぇぞ!!」

「''捕縛''…。知ってる?俺これでも綺麗好きなんだよ?」


ゼンが捕縛と小さな声で呟けば、半透明な紐がシュルリと男達に巻き付き、ぎゅうっと締め上げられた。


「はぁ、何か面倒くさくなってきたー…帰るにしても見られちゃったし…消すしかないかなぁ…」


早く帰ってもふもふに包まれて眠りたいし、お風呂に入りたい。

そんな願望から肩に乗るデスに聞いていると、人混みから少年が飛び出してきた。


「お父さん達がすみませんでした!!!本当にごめんなさい!!!

こんな事頼める立場じゃないのはわかってるけど、お父さんを許してあげて下さい!!

僕にできる事なら何でもします!!う、家には病気の妹がいるんです!!お父さんが居なくなったら…生きていけないんです!!」


捕縛された男達を庇う様に立つ少年の体は微かに震えていたが、燃えるような赤い瞳は真っ直ぐゼンを見つめていた。


「ジン!隠れとけって言っただろ!?」


一番最初につっかかってきた男が慌てた様に少年の名前を呼ぶ。

どうやら彼の父親の様だ。ゼンは黙ったままいつもは抑えている力を少しだけ解放すればズシリと空気が重くなる。

それでも少年は父親の前から退くことはなかった。


その姿が過去を思い出させて、恋しくもあり妬ましくもあり、哀しくもあった。


「…デスこれは洗えば使えるかな?あぁ、ネネに来てもらった方が早いな。デス、ネネ呼んで?」

「了解death!ネネ'強制転移'」


ポンッと現れたネネはあまりの臭いに顔を顰め、眼鏡をクイッと直した。


「此処臭いNe…」

「ネネ、あいつら使える?」


鼻を摘みながら男達をジロジロ見るネネは、半透明なパネルに何を入力していた。


「初級魔法程度なら使えるし、肉体労働に向いた体つきだNe。

中でもこの男の子はレアな属性持ちだからぜひ確保したいNe」


ネネはつぶらな瞳をキラキラと輝かせて、父親を庇った少年を見ていた。

レアな属性とかには興味はないけれど、ネネが興味があるなら持って帰るのもありかもしれない。それに少年はさっきとても持ち帰りやすい言葉を口にしていたしね。


「ねぇねぇ、君さっき何でもするって言ったよね?」

「う、うん」


力を抑え、男の子の目線にあわせて話し掛ければ、未だ少し体は震えているが、変わらずまっすぐとゼンの目を見た。


「じゃあお父さん達を許してあげる代わりに、君には僕の国へ来てくれる?」

「駄目だ!!俺の大事な息子なんだ!俺と違って賢くて未来がある!!やめろ!ジン!」


突然の大きな声に思わず耳を抑える。キーンと響く音は何度味わっても慣れない。


「お父さん。僕が行けばお父さん達許してもらえるんだって。

お父さん達が生きていれば助かる人がいる。僕が行く事でどうにかなるなら、僕行くよ。」


今にも泣きそうに笑いながら、大丈夫だと告げる少年は伸ばされた父親の手を握る。


「ジンっ…」


耐え切れなかったのか父親の瞳からは大粒の涙が零れ落ちていく。

ゼンはそれを不思議そうな顔で見ていた。


「何でそんな泣いてるのかわからないけど、来たいなら君達も来ればいい。ただし、僕の国では僕以外は働かざるもの食うべからず。

そのかわりちゃんと働くなら家も与えるし給料もあげるよ。」

「今の暮らしより裕福になるdeath」

「これ契約書Ne。こっちの国に住む人は記入してNe」


準備のいい二人は即座に書類や机を準備する。


「デスー、俺帰るー」

「了解death!'転移'」


自室に帰ってきたゼンは衣服を脱ぎ捨て、お風呂場へと向かった。

体を綺麗に磨き、新しい寝間着に着替え、フワフワのベットへと倒れ込み、目を閉じた。

頭に思い浮かぶのは真っ直ぐゼンを見つめる瞳。


「…………ちゃんと、僕の眼を見た人………あの人以来だなぁ……」


ゼンは大きなベットの真ん中で自分の体を抱き締めるように小さく丸まりながら眠りについた。

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