舞ってみた

ta-rŭ-da

1

むかしむかし、


川で洗濯機用の水を汲むおじいさんと、


鬼ヶ島へ鬼退治へ出かけるおばあさんが、


いたらしいが、


それはもうかなり昔の日本話だ。




世は令和になった。


ITが幅を効かせ、


情報が次から次へと流れゆき、


Zだかαだか名付けられた世代がデジタルなしで生きていくなど到底想像することもできない、


そんな時代がやってきたのだ。




「ああっ……くそっ……」




俺もまた、Z世代のデジタル民族のうちの1人であった。




「あー、彼女に振られたかぁ……」




暇な休日を彼女とのデートに使わず、部屋で1人でスレ廃していたところ、彼女から別れましょうLIMEが届いてしまった。




「あー……」




別に彼女に特別深い執着があったわけではなかった。


俺はイケメンだ。


その気になれば彼女なんてすぐ作れるはずなのである。




「……」




というわけで、


旅に出た。




夏といえばやはり、海だろう。




都内から海を目指すために織田急線に飛び乗った。


ちなみに駆け込み乗車はちゃんと控えた。




ガタンゴトン。


揺れる車体。




カタンコトン。


眠気で揺れる俺。




「次は、まT田、まT田。乗り換えのご案内ですーー」




たくさんの人が一気に電車の外へ出る気配がして、目を覚ました。




「あー、いい旅だ」




そう呟きながら、大きく伸びをしていると。




「いい旅……?」




前の座席に座っている人物が俺の言葉を繰り返した。




「今、いい旅って言った?」




俺は前にいる人物に目のピントを合わせた。




サイドチェストをキメた、推定年齢アラサーの男が、仲間にしてほしそうにこちらを見ていた。

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