政府専用ダンジョン

「これは……」


 ダンジョンゲートをくぐった俺は、目前に広がる光景を見て、思いがけず数秒間立ち尽くしてしまった。


「これが、ダンジョンのなか……?」


 詩織も同じく、目の前の風景に唖然としている。


 ――そう。

 ごく一般的に、ダンジョンの内部には〝洞窟の世界〟が広がっているもの。

 壁面に設置されている松明以外はなんの照明もなくて、どこまでも薄暗い通路が広がっていて、時たま豪勢なボスエリアがある……だけのはずだ。


 なのにこのダンジョンには、俺でさえ困惑するほどの世界が構築されていた。


 端的に表すとすれば、巨大なブロックが規則的に動く空間となるだろうか。


 ゲームではよくあるギミックのひとつだが、定期的に動くブロックをうまいこと乗り継いで、ボスエリアへと向かっていくダンジョンっぽいな。


「…………」


 念のためブロックの下を覗いてみるが、そこには文字通りなにもなかった。


 ただただ暗闇の世界が広がっているばかりなので、万一にでも落ちてしまったら――まあ、洒落にならないことになるだろうな。最悪、俺は《瞬間移動》でどうにかなると思うけど。


 そして視線を上向ければ、橙色の空が地平線の彼方まで続いている。


 普通のダンジョンなら、そもそも空なんて見えないはずだけどな。狭苦しい洞窟の天井だけが広がっているはずなので、これもまた異質だ。


「ははは……。驚くのも無理ないさ」

 言葉を失っている俺たちに、飯島が苦笑とともに話しかけてきた。

「ここを政府専用のダンジョンに指定した〝本当の理由〟はこれさ。この空間そのものが、他のダンジョンと一線を画しているんだよ」


 なるほど。

 一般のダンジョンとはそもそも構造が違うわけだから、採取できるアイテムが異なるのも当然ってわけか。


「そして初めてこのダンジョンを発見した時、職員がダンジョンの名称らしきものを発掘してね。たしか……《レンディアスダンジョン》だったはずだ」


「――――っ‼」


 レンディアスダンジョン。

 その言葉を聞いた瞬間、俺はまたしても胸部に激烈な痛みを覚えた。


 なんだ……?

 初めて来た場所のはずなのに、俺はその名前を聞いたことがある……?


「れ、怜君……!」


「大丈夫だ。俺のことは気にするな」

 駆け寄ってくる詩織をなんとか制しつつ、俺はなんとか立ち上がる。

「レンディアスダンジョン……。その名を発掘したというのは、いったいどういうことですか」


「職員が言うには、そう書かれた石板を見つけたそうでね。今は彼とコンタクトも取れない状態だから、それがどこにあるのかはわからないが……」


「…………」


 この先には、いったい何が待ち受けているのか。

 そしてなぜ、俺の身体はこんな異変を起こしてしまっているのか。


 詳しいことは何もわからないが――ひとつはっきり感じられるのは、このレンディアスダンジョンが一筋縄ではいかないこと。


 いかにカンストしたステータスを誇っているとはいっても、決して油断はできないだろう。


「……いきましょう。俺ができるだけ全員を守っていきますが、初めて来たダンジョンです。不測の事態に備えて、各自気をつけてください」


「了解です!」


 俺の指令に、刃馬が大声で応じるのだった。



★  ★  ★



 思った通り、ここレンディアスダンジョンは一筋縄ではいかない場所だった。


 広範囲に大ダメージを与えてくる金色の天狼や、あらゆる状態異常を付与してくる妖しき魔女など。


 俺でさえまったく見たことのない魔物たちが、そこらじゅうをうろついていたのである。


 ダンジョンに入る直前、「ここでは配信をしないでほしい」と飯島から釘を刺されたが――それもまあ仕方のないことだろうな。


 光景といい魔物といい、ここは他のダンジョンとは明らかに違う。おいそれと公にできるものではないだろう。


 もちろん、俺はすでにレベルカンストの領域に達している身。


 たとえ未知なる魔物が襲い掛かってこようとも、返り討ちにすることはできるんだが――。


「そらっ!」


 頼もしいかけ声とともに、魔導銃を抱えた飯島が銃弾を放つ。


 当然、これはダンジョン内でのみ適用される専用武器。自身のMPを銃弾に変換することで、遠距離から攻撃できる優れものだ。


「さすがに驚きましたよ。刃馬はともかくとして……まさか飯島さんまでもがダンジョン内で戦えるなんてね」


「はは、そうでもないさ」

 額に流れる汗を拭いながら、飯島がにいっと笑ってみせる。

「レベルは30しかないし、探索者ほどダンジョンに潜っているわけじゃない。君たちには明らかに劣るだろうさ」


「いや、そういう問題じゃないんですが……」


 俺はまだ学生の身だが、飯島は多忙であるはずの事務次官だ。


 それでレベル30に達しているなんて、よっぽどダンジョン探索のセンスがあるんだろうな。


「すごいのは君のほうだよ。レベルカンストの領域――まさかこれほどとはね」


「いえいえ。俺の取り柄はこれだけ・・・・ですからね」


 ちなみに刃馬のほうはレベル40。


 ナックルを用いて直接相手をぶん殴る、まあ刃馬らしい戦闘スタイルと言えるだろう。


「やぁぁぁぁあああっ!」

「ギュアアアアアアア……!」


 そして詩織は詩織で、以前オリハルコンスライムでレベリングした成果を活かして、そこらの魔物をしっかり討伐してくれているな。


 この調子であれば、道中の魔物はおそらく問題なし。


 残すはダンジョンの最奥部――すなわち、ボスエリアのみか。


「…………」


 なんだろう。

 初めて来た場所のはずなのに、まだ寒気がする。

 この先に行ってはいけないと、身体が震えている気がする。


 今の俺はレベル9999。どんなトラブルが起きたとしても、絶対に負けるはずがないのに――。


「怜くん」


 そうしてゆっくりダンジョンを歩き続ける俺の手を、詩織がぎゅっと握ってきた。


「大丈夫。なにが起こったとしても、私が絶対、あなたを守ってみせるから」


「……は。言うようになったじゃねえか」


「当然よ。あなたがたとえどこに行ってしまっても――私は絶対、あなたを追いかけてみせるから」


「そりゃ頼もしい限りだな」


 こんな俺をここまで好いてくれるなんて、やはり変な女だが……。


 それでも今は、その変人っぷりに救われている自分がいる。


 そんなことを感じながら、俺たちはとうとう、ボスエリアの扉まで辿り着くのだった。



――――――


先ほど近況ノートにもあげましたが、

本作レベルカンストがLINEマンガさんにて冒頭無料公開されました!!


タイトルは「俺だけレベルカンスト~ダンジョン無双で億バズ配信~」となっております。


めちゃくちゃ面白い内容となっておりますので、ぜひともチェックくださいませ…!!

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