世界で唯一レベルカンストしている陰キャぼっち、エクストラスキルで無双する

 目を閉じて気配を探ってみると、ここから遠く離れた位置に誰か・・がいるようだな。


 しかもその近隣には、邪悪なモンスターの気配が三つも感じられる。


 状況から察するに、先ほど悲鳴をあげた女が追い詰められているんだろうが――

 しかしさすがに、そこまでの距離が遠いな。


 いくら俊敏性もカンストしているとはいえ、間に合うかどうかが疑わしい距離間だ。

 現に、その誰か・・の気配は少しずつ弱まっている。


 なにか良い方法はないものか……。


「……あ」


 ここにきて、俺は新スキル《瞬間移動》のことを思い出す。


 まだ実際に使ったことのない能力だが、これが活躍する機会は今を置いてない。レベルをカンストさせてまで手に入れた能力なので、きっと弱いということはないはず……!


「スキル発動――《瞬間移動》」


 俺がそう唱えると、一瞬だけ俺の全身を淡い光が包み込み。

 そして次の瞬間には、俺はまったく別の場所に立っていた。


 目の前には、三体のデスデビルオーガ。

 姿かたちは人間と同じ二足歩行だが、その見上げんばかりの巨体、顔面に一つだけ存在する巨大な目、そして片手に握られた棍棒。


 通常のオーガと違って体色も漆黒に染め上げられており、その凶暴性、戦闘能力の高さから、Sランク指定のモンスターだったはずだ。


「ううううう……」


 そしてそのオーガに身体を握り締められているのは、やはり見たことのある有名配信者――ユリアだ。

 始業前にここらへんにいると噂になっていたが、まさか本当にこのダンジョンを訪れていたとは。


「仕方ない……!」


 俺は地面を蹴ると、デスデビルオーガの頭頂部と同程度の高さまで跳躍する。


 こいつはたしかに強敵ではあるが、最強格の《Sランク》のなかでは、そこまで強いモンスターではない。昨日の血染龍のほうがよっぽど強いレベルだ。


 なので取り立てて緊張することもなく――。

 ポケットに手を突っ込んだまま、適当に放った回し蹴りでデスデビルオーガを攻撃する。


「グゲッ‼」


 しかしそれでも、相手にとっては命にかかわる大ダメージになったらしい。

 醜い悲鳴をあげながら、いともたやすくその場に崩れ落ちる。


「ふむ……」


 デスデビルオーガ程度なら、はっきり言ってそこまでの強敵ではない。


 新能力を試すなら絶好の機会だろう。


 ――たしかさっき《瞬間移動》を使ったとき、モンスターたちの気配に向けてスキルを放ったはず。


 つまり《瞬間移動》の転移先は、場所というよりも、人やモンスターに対して発動されるということか。


「スキル発動……《瞬間移動》」


 俺がそう呟くと、一瞬にして俺の全身が光に包まれ――。

 そして気づいたときには、デスデビルオーガ二体の背後に立っていた。


「なるほど……これは便利だな」


 俺がそう念じれば、対象者の背後にも転移できるらしい。

 俊敏性がカンストしている俺でも、これは間違いなく有用なスキルだと言えた。


「「ガガッ……⁉」」


 急に背後を取られていることに驚愕したのか、二体のデスデビルオーガが素っ頓狂な声とともに振り返る。


 ――が、もう遅い。


「そらよっと」


 ポケットに手を突っ込んだままの回し蹴りが、デスデビルオーガの頭部にクリーンヒットしたからだ。



  ★



「さて、と。こんなもんかねぇ」


 俺は首をさすりながら、静かになったデスデビルオーガたちを見渡す。


 この程度のモンスターを仕留め損なうことなど万に一つもないが、問題なく倒しきることができたようだな。

 ユリアも無事、助け出せたと言っていいだろう。


「え……? え?」


 そして当のユリア本人は、まだなにが起こったのか理解できていないらしい。尻餅をついたまま、目をぱちぱちさせて俺を見つめているままだ。


 銀髪に色白の肌、そしてくりっと可愛らしい卵型の顔……。


 配信のために胸も露出しているのか、見るからにでかい谷間がここからでも見える。


 この美貌に加えて、探索者としても優秀らしいからな。たしかに動画投稿サイトで1000万人の登録者がつくのもわかる気がする。


「じゃあ、そういうわけだ。あんたも実力者なら、あまり危険なことはするなよ。じゃあな」


 手を振ってその場を立ち去ろうとする俺に対し、

「ま、待ってください‼」

 とユリアが背後から声をかけてきた。



―――


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