世界で唯一レベルカンストしている怠惰な陰キャ、ダンジョン配信を切り忘れた有名配信者を助けたら、うっかりバズってしまう

どまどま

陰キャぼっち、レベルがカンストする

「ひぃ、ふう、みぃ……。なるほど、血染龍ブラッディ・ドラゴンが五体か」


 いま俺の目の前では、Sランクモンスターの《血染龍》が巨大な咆哮をあげて暴れまわっている。

 広範囲に届くブレス攻撃や、毒属性を帯びた爪攻撃。それはいともたやすく探索者の命を奪い取り、それでいて、全身を覆う鱗も極めて硬い。


 文字通り攻守ともに化け物クラスの、文句なしの有名モンスターと言えた。


 多くの強敵が出現するここ《真空のダンジョン》でも、上位に属するモンスターではあるが――。


「ゴァァァアアアアアアアアアア‼」


「うるせえな……」


 血染龍の胴間声に顔をしかめつつ、俺は空高く跳び上がる。


「おまえらのせいで耳がクッソ悪くなってんの。ドラゴンだからって安易に叫ぶのはやめろ」


 そう言いながら、俺は闇属性魔法、ブラックホールゾーンを唱える。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、と。

 静かな轟音をたてながら出現したブラックホールが、一帯にいる血染龍を勢いよく吸引しはじめる。


「ギャン⁉」


「ギュアアアアアアアア!」


 さっきまで威勢よく吠えまくっていた血染龍も、こうなってしまってはなすすべもないらしい。苦しそうな悲鳴をあげながら、なんとか吸い込まれまいと踏ん張っている。


「ははは、頑張るねぇ。じゃあ、もうちょっと魔力上げてやろうかね」


 俺がそう呟くと同時に、ブラックホールの吸引力がさらに強まっていく。


 これはダンジョン内のモンスターだけに適用される魔法なので、まわりにいる人間を巻き込んだり、関係のない岩や石ころを吸い込むことはない。


 ただただ徹底して、足掻き続ける血染龍を飲み込もうとし続けていた。


「ギュアアン‼」


 そして数秒後には、すべての血染龍が跡形もなく吸い込まれ。

 あれほどやかましかった《真空のダンジョン》最下層も、ようやく静寂を取り戻した。


 俺がいままで戦ってきたなかでも、血染龍はかなりの経験値を誇っている。

 それを五体も倒したのだから、そろそろあれ・・がきてもおかしくないと思うのだが――。


 そんな俺の期待に応じるかのごとく、軽快なサウンドとともに、俺の視界に次の文字列が表示された。



―――


レベルが上がりました。


大桃怜おおももれん 17歳 レベル9999


 物理攻撃力:99999

 物理防御力:99999

 魔法攻撃力:99999

 魔法防御力:99999

 俊敏性  :99999


――――


「よし……!」


 そのステータスウィンドウを見て、俺は静かにガッツポーズを取る。


 ついに念願のレベルカンスト。

 幼少期から徹底的にゲームをやり込む人間だった俺は、好きなゲームは特に、絶対にレベルをカンストさせなければ気が済まなかった。


 すべてのアイテムを集め、すべてのスキルを覚え、レベルをカンストさせて……。


 ずっとゲームばかりをやり込んできたために、昔から友達というものを作ったことがない。授業が終わったらすぐに帰宅してゲームを起動するし、休日はもちろんゲーム三昧。


 俗にいうゲーム廃人というやつだが、俺はむしろ、このことを誇りに思っていた。


 そして次に熱中し始めたのが、《ダンジョン探索者》としてのレベルを上げること。


 詳しい原理は不明だが、世界各地にダンジョンなる迷宮が出現したのが、いまから五十年前のことらしい。


 当時の人々はもちろん大パニックになったようだが、しかし時間が経つにつれ、少しずつダンジョンについての認知度が広まっていき――。


 現代の人々は、もう慣れたようにダンジョンと共存している。


・ダンジョン内には強力なモンスターが出現するものの、ダンジョンの外に来ることはない。


・ダンジョン内に入った時のみ、人も異能を手に入れることができる。

 先ほどのように各種ステータスが授けられたり、魔法やスキルを扱うこともできる。それを用いれば、モンスターと対等以上に渡り合うことも可能。


・ダンジョン内には貴重な資源が数多く存在する。

 電力を使わずに光を放つ魔石や、世の富豪たちが喉から手が出るほど欲する宝石など。

 またモンスター自身の素材も貴重で、特に強力なモンスターであればあるほど、非常に重要な各種材料になる。



 このような情報を把握したあとは、腕利きの《探索者》たちが多数出現し――。

 国力の強化に繋がることから、日本政府もこれに協力することになった。


 具体的には、ダンジョン内で入手できる素材の買い取り。強力なモンスターを倒した際の多額の報酬。そしてまた、ダンジョン管理省をつくって各地ダンジョンの管理など……。


 ダンジョン探索者に対して、数多くの待遇を施すことになった。


 とはいえもちろん、誰もがダンジョンで活躍できるわけでもない。


 有用なスキルを覚えなかったり、ステータスがあからさまに低すぎたり――そういった者には、そもそもダンジョン探索の許可さえ降りないのだ。


 それでいえば、俺はかなり恵まれていた。


 レベル1でありながら、当初からかなり各ステータスが恵まれていたらしく。初心者向けダンジョンで初めてモンスターに勝った瞬間から、こう確信したのだ。


 ――このゲーム、最ッ高に面白い――


 だから寝る間も惜しんでレベルアップに勤しみ続けた。


 絶好の狩場を見つけたり、通常より経験値を持っている魔物を探したり……。


 ゲームの攻略と違って、このダンジョン探索には命がかかってるからな。まだ世に出回っていない情報も多く、そんな新発見をした際には、夜も眠れぬほどに興奮したものだ。


 そんなこんなで、本日、俺のレベルはとうとうカンストすることになった。


 なにせどのSNSや掲示板を探しても、レベルをカンストしたっていうコメントはなかったからな。限界を極めた先になにがあるのか、自分自身でも見極めてみたかったのである。



――――


 レベルがカンストしたことで、エクストラスキルを獲得できるようになりました。


 今後はモンスターを倒してもレベルは上がりませんが、経験値は溜まります。その経験値が一定に達すれば、新たなエクストラスキルを覚えることができます。


 今回あなたは、


・瞬間移動


 を使えるようになりました。


――――


「ほう……?」


 瞬間移動か。これは興味深い。

 さっそく試してみたいところではあるが……。


「さすがに……寝るか……」


 ステータス画面を確認してみたところ、現在の時間はもう夜10時。

 今日は日曜ということもあり、朝6時からぶっ通しで経験値を溜めてきたので――さすがに疲れた。


 今日のところは帰って寝たほうがいいだろう。

 ここは強敵ばかりが出現するダンジョンだし、疲弊が溜っている状態で探索を続けるのもよくはない。


 そう判断し、俺は元きた道を引き返すものの……。


「明日、学校行きたくねぇなあ……」


 思わず、ぼそりとそう呟いてしまうのだった。


  ★


「クスクスクス……」

「うわ、あいつが四組の大桃……? 超きめぇじゃん」


 なぜならば、俺は学校にてひどい苛めを受けているからだ。




―――

新作を始めました!

初めてカクヨムコンに参加しますので、ぜひチェックくださると嬉しいです!!

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嫌われ者の悪役に転生した社畜、無自覚に聖人ムーブをしていたら、巨乳美少女たちが放してくれなくなった

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