第6話 皇国との戦い4
「それはわたくしも考えたのですよ」
翌日、ピキュリアとリカールスに来てもらって、メディカントの案を相談した。
「あのですね、魔王様。屋敷は西地区などにも点在してまして、それだけを破壊するのは難しいんですよ」
二人は既に調査していて、物流や産業につながる施設も破壊する恐れがあるからと諦めたそうだ。
「城を破壊した後、逃げていく特権階級の者を地上戦で叩くつもりなんですの。あの者達は逃がすわけにはいきませんので」
ふむ。眷属達の安全と今後の事を考えた作戦案と言う事か。
「ならば、俺がこの屋敷を潰しに行こう」
「魔王様! それは危険です。帝都には九万もの兵が居るのですよ!」
「俺を誰だと思っている。魔族の王、ヴァンパイアなのだぞ。造作もない」
そうは言ったが、二人は俺の身を案じて尚も強硬に反対する。それならば反撃の少ない夜間に帝都内を攻撃するという案を出して、何とか了解してもらった。
「すまない魔王様。オレがあんな話を持って行ったばかりに、危険な役割をさせちまった」
「構わんさ、メディカント。夜間の城攻め、しっかり頼むぞ」
「おお、それは任せておけ」
飛行艇を三十機従えての夜間飛行だ。それにも危険は伴う。しっかりと訓練をしてもらわんとな。
――作戦当日の夜。
「魔王様。くれぐれもお怪我の無いように」
「ああ、分かった。お前達も夜明けの追撃で怪我してくれるなよ。では行ってくる」
真っ暗闇の中、翼を広げて帝都の中央にある城へと向かう。灯火管制を敷いているのだろう、城壁に僅かの光があるだけで帝都内部は真っ暗だ。こんなときは俺の目が役に立つ。
城の周りに建つ四つの塔。そこに音もなく降り立ち、サーチライトのように上空にだけ光が出るランプに明かりを灯し設置していく。これを目標に飛行艇が爆弾を落としてくれる。その攻撃中に俺が帝都内の屋敷を破壊すればいい。
暗い夜空。五機編隊でV字型に並ぶ飛行艇の微かな明かりが、こちらに向かって飛んで来るのが見えた。後続の飛行編隊も続き、本格的な作戦が開始されたようだな。
轟音と共に城への爆撃が始まった。炎に照らされる帝都内、こちらも屋敷を潰しにかかろうか。今は真夜中、特権階級の連中も邸宅で寝ているはずだ。巨大な岩で押しつぶせば逃げる事もできまい。帝都内に散らばる屋敷をことごとく潰していく。
時間が経ち、逃げようと馬車を準備する屋敷も出てきているな。屋敷内の馬車も、街中を走る馬車も見つけ次第破壊する。
あらかたの屋敷を潰し、西の倉庫街を飛び帝都の外を見ると。
「んん? 西の川に浮かぶあの船は……」
荷船ではないようだが、船上には箱型の部屋のようなものがあるな。人を運ぶ船? 特権階級の獣人が逃げ出したか……。
西の川に飛び、船首に降り立つ。
「こんな夜中に、川遊びでもしているのか。俺も混ぜてくれんか」
甲板に兵士らしき者が現れ、いきなり火魔法を撃ってきやがった。やはり逃げ出した連中か。その兵を倒し、どんな奴が乗っているのかと船上にある部屋前面の壁を風魔法で切り裂く。
「何とも豪華な部屋だな。そこに座っているのは皇国の天子様とお見受けする」
煌びやかな部屋に、王妃と並んで豪華な椅子に座っているのは、この国のトップ。どの町にも飾ってある肖像画の男だ。
「おかしいな。あんたは今燃えているあの城に居るはずなんだがな。地下の抜け道でも通って来たか?」
そう言って部屋の方へと進むと、周りを固めていた近衛兵らしき兵士が気合の声と共に槍を投げ、矢を放ち、魔法を撃ってくる。
その程度の攻撃がヴァンパイアである俺に通用するはずがない。一人ずつ片付けながら天子の居る部屋へと入っていった。
「お、お前が、あの呪わしき魔王か……」
声は震え立ち上がる事もできないようだが、なんとか威厳を保って俺に問う。歳は三十そこらの若造だが王は王と言ったところか。
「何が呪わしいのか知らんが、神の子孫などと言う、嘘つきのお前よりはましだ」
「予が嘘をだと……予は正当なる神の血を受け継ぐ者じゃ」
「それが虚言なのだよ。俺は実際に空にいる神とやらに会っている。お前達オオカミ族とは似ても似つかない者だったぞ。どちらかと言えば俺の眷属に似ていたな」
「な、何をバカな事を。神を侮辱するのか」
この天子という人物が、自分を本当に神の子孫だと信じているかは分からん。取り巻き連中が実権を握っているのかも知れんが、それによって人々を支配し、俺の眷属に危害が及ぶことは許せるものではない。
殺気をはらんだ目を向けると、隣の王妃と周りの側近連中が逃げ出そうとした。手を横に振るい風魔法でその者達の首をはねる。
「お前ら一族には、ここで死んでもらおう。悪く思うな」
「貴様ら悪魔にこの国を渡してたまるか」
剣を手に俺に向かって来る。その心意気はいいが、力不足だ。
手刀で首をはねる。痛みを味わう暇もなかっただろう。
リカールスが言っていた通り、この国の為政者は話が通じない連中のようだな。最期まで俺の言葉に耳を貸そうともしなかった。やはり根絶やしにする他なかろう。帝都に残っている屋敷を全て潰しにかかる。
朝日が昇ったと同時に持って帰ってきた天子の首を晒して、勝利を宣言する。それを見た皇国軍はさしたる抵抗もせず、武装放棄していった。
その後、為政者は全て見つけ出し首をはね、パルゲア皇国は滅んだ。
「やりましたね、魔王様」
「これでやっと、枕を高くして寝られるぞ」
「魔王様、ありがとうございました。わたくし涙が止まりませんわ」
これで念願であった、この大陸最大の国となる魔族の国を作る事ができる。
これでやっと平和が訪れると思っていた矢先、南に隣接するリザードマンのガゼノラ帝国が国境を越えて侵入してきた。
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【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
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