第2話 魔王の国2

 この世界の文明はまだまだ低く、絶えずどこかで戦乱が起こっている。それが俺達魔族の国を脅かすことになる。

 大陸中央部に広がる獣人の国、パルゲア皇国。古い政治体制で一族の直系がその国のトップに立つ。


 俺が数少ない眷属を得て小さな里を作った時も、俺達の姿形を嫌い近くの領主が里を潰そうとした。それに反発して、眷属と共にヴァンパイアの力を使い撃退していった。

 必死に戦い、撃退するたびに領地は広がり、今では北東部の一部の地域が魔族領となっている。


 今回はその南東に位置する鉄鉱石の鉱山の町を手に入れるべく進軍してきた。

 計画通り兵で町を包囲した後は俺の出番だな。黒い翼を広げ、町の高台にある城の上空へと飛ぶ。


「地面を這いずる、ドブネズミどもよ。我が魔族にこの町を明け渡せば良し、さもなくばこの魔王の手でひねりつぶしてくれよう」


 足元に群がる、城の兵士に言い放つ。この声は魔力波に乗せたもので、この城の周囲の者達全員に聞こえている。闇属性の魔法だそうだが、魔王としての威厳を示すための練習をしていたら、自然とできるようになっていた。


「お、お前が魔王か! この化け物め。この町は吾輩の町だ。お前なんぞに渡してなるものか」


 あの太った奴が領主か。城の中庭や城壁の上に、何人もの兵士が出て来て攻撃してくるが、こんな矢や魔術程度で俺が傷つくことは無い。予定通り城を破壊するか。


 まずは派手めな稲妻を落としてみよう。一条の光が城の塔の先端へと落ち、それと同時に轟音が鳴り響き塔が崩れ落ちる。何事かと城下町の住民もこの城に注目するだろう。

 続いて火魔法で城を包み、巨大な岩石を落として城自体を破壊する。おっと、これ以上は城以外も潰しかねんな。


 まあ、これだけすれば戦意も喪失するに違いない。メディカントのために西の城門も壊しておくか。「我ら魔族に敵対するものは容赦せんぞ」などと言いながら町の上空を飛び西門へ向かう。

 城と城門を破壊され街中の兵士も右往左往している中、魔族軍が町に雪崩れ込む。

 住民に手を掛けることなく兵士だけを倒して、主要部署を制圧し町の占領は完了したようだな。


「お疲れ様でした。魔王様」

「俺の悪役ぶりはどうだったかな。ピキュリア」

「それはもう、素敵でしたわよ。これで反抗する者はいなくなるでしょう。無駄な血を流さなくてよくなりましたわ」

「鉄の生産設備も壊れていません。今後の町の運営も楽になります。ありがとうございました」


 後はリカールスに任せれば、占領後もスムーズに運営できるだろう。これでやっと安定した鉄の生産ができるようになる。


 町の占領も上手くいき、俺達の魔王城でのんびりとお茶を飲みながら、周辺の状況などについて聞いてみた。


「リカールス、東の鬼人族の国との交渉は上手くいっているのか」

「はい、魔王様。元から獣人族の国とは仲が悪く。我々の行動に干渉するつもりはないと言ってきています」


 領土が大きくなるのはいいのだが、国境を接する国も出てきた。外交交渉というややこしい仕事もしなければならない。


「鉄の生産体制や内政の事も、リカールスに任せっぱなしですまないな」

「いえ、いえ。魔王様のお役に立てるのでしたら、これくらい大したことではありませんわ」


 魔族と呼ばれる俺の眷属の数は少ない。一人何役もこなして、この国を支えてくれている。現在の眷属は二百人余り。単に俺が血を吸って眷属にできればいいのだが、そうもいかず慢性的な人手不足は解消していない。


 眷属の間では子供が生まれる事もない。その辺りは医師でもあるピキュリアに研究してもらっている。


「子供ができないと言う訳ではないのですよ。ただお腹の中にいる間に魔素に犯されて死産となってしまいますの」


 妊娠後、三ヶ月を待つことなく全ての胎児は成長できず死亡してしまう。人間は魔素への耐性が低く、この世界で生きる事を困難にしている。俺と眷属の間でも子供は生まれない。こちらは受精すらしないようだ。


「魔王様の子供が生めないのは残念ですけど、愛していただけるのは光栄ですわ」

「私も魔王様とのひと時があるから、頑張っていられるんですよ。寵愛に感謝しています」


 結婚という形式は取っていないが、この二人とは夜のパートナーとして過ごす事もある。この世界、力あるものは一夫多妻が普通のようで、二人とも違和感はないようだ。

 メディカントは伴侶は作らず、フリーの女性の元を数ヶ月おきに渡り歩いている。特定の者とずっと一緒に過ごすのは苦手なようだな。

 眷属達は法律や形式に縛られる事もない。気に入った者同士気ままに暮らしている。より良い環境を作って皆には幸せになってもらいたいものだ。


「そのためにもオレらが力を示さんとな。魔族の力に憧れて眷属になりたいと言って来る連中もいるんだろ。国として大きくなりゃ、安定した生活を送れるからな」

「そのためにも軍備の増強は必須だ。メディカントには、新しい迫撃砲の開発を頼んでおいたが、どうなっている」

「魔王様が言っていた、戦車というのはまだまだ難しいが、今までよりいい物が作れそうだ。今回の攻略で鉄が大量に作れるようになったからな。期待していてくれ」


 この世界では、未だに火薬すら発明されていない。その中にあって、前世の知識で造られた俺達の兵器は群を抜いている。そのお陰で魔法が使えない眷属でも、戦う事ができる。


 その後、メディカントから敵国の情報がもたらされた。


「そろそろパルゲア皇国が本腰を入れて、オレ達を潰しにかかってくるようだ。南に大部隊を集結させようとしている」

「魔王様が領土を拡大させて三年余り、巨大な皇国からすればほんの一部の領地だと言うのに、なぜ獣人達は私達を目の敵にするんでしょうね」

「わたくしたちが神に背いているからだそうですわ。何でも自分達獣人は神に選ばれた存在だとか言ってますからね」


 宗教的な迫害は相当根が深い。まったく合理的、科学的でない事でも集団で排除しにかかる。それを皇国上層部が利用しているという面もあるのだが……。


 その標的として、俺達魔族を根絶やしにしようと言う動きがある。内政面が上手くいっていない時に、外に目を向けさせると言う手法なのだろうが、それに神話というものを絡めてくる厄介な国だ。


 俺はこの世界の宗教の事は分からん。側近三人も元鬼人族に妖精族、リザードマンだから獣人族のウエノス神というものをあまり理解していない。


「このパルゲア皇国は、オレ達の姿形が神に反するって言ってんだろう。それじゃ交渉も何もできやしねえ」

「だから他の種族とも対立しているんですよね。外交の難しい国ですね」


 各種族にはそれぞれの神が存在すると信じられている。それぞれの教義があり、他者を受け入れようとはしない。

 その中にあって上手く落としどころを見つけるのが政治というものなのだが、獣人族はかたくなに俺達を拒否し、魔王、魔族と呼び迫害してくる。


「こうなれば、全面戦争も致し方ないでしょうか……」

「そうですわね。生存自体を脅かしてくる者には、徹底して対抗しないといけませんしね」

「軍備は整えてきているが、国内の兵器生産量が厳しいんでな。魔王様、もう少し時間稼ぎできねえか」


 その点は、ピキュリアとも相談しよう。新兵器と俺のヴァンパイアの力を有効に活用すれば、大軍であっても退ける事は可能だ。

 引き続き皇国軍の情勢は、内政と外交を束ねるリカールスに情報収集してもらい、兵器開発は将軍メディカントに急いでもらう。

 頼もしいこいつらがいれば、恐れるものはない。



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【あとがき】

 お読みいただき、ありがとうございます。

 明日からは毎日2回、12時30分と17時30分に投稿を予定しています。


 よろしくお願いします。

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