明日は(ショートショート)
もとやまめぐ
明日は
もう錆びてボロボロ
触ると痛いらしく
子どもたちもだんだん使ってくれなくなり
私の周りは雑草の背がぐんぐん伸びてきた
誰も使ってくれないこの公園も
少し前までは賑やかだった
午前中はベビーカーに赤ちゃんを乗せたお母さんたちがやってきた
まだ歩き始めた頃の子と親も集まってきた
お昼にはその子たちが去り
午後は小学生たちが
夕方には中学生たちが
代わる代わるやってきた
子らはよく私を取り合った
順番を決めるのに皆苦労していた
それが微笑ましかった
中学生にもなると友人の話や恋の話
相談や愚痴をたくさん聞いた
私に乗ってゆらゆらとしながら
長い時間話し続ける子もいたもんだ
今は誰も来ない
草が高くなりすぎて
みんなが座った場所はもう見えないだろう
このまま朽ちるのか
なんとも虚しいな
夕方
公園の横に一台の車が止まった
珍しいこともあるもんだ
大人が何人か降りてきたらしい
この公園を指さし、何か話し合っている
ここを取り壊すのかもしれない
ああ、最後に子どもたちに
もう一度使ってもらいたかったな…
朝
鳥たちの声がして
ふと辺りを見回すと
公園の周りが高い柵で覆われていた
いよいよか
私も覚悟を決めよう
楽しかったじゃないか
これでいいんだ
大人たちが草刈りを始めた
丁寧に隅々まで草を取り除いていく
日照りの中、汗を垂らして懸命に作業している
私の周りも、とても丁寧に
とても綺麗に草を取り除いていった
1人が私に手を添えた
私を見回し、他の遊具も見に行った
何人かと話している
もういっそ覚悟を決めた今
壊すなら今やってくれ
日が暮れ、私たちは残された
久しぶりに見通しがよくなった公園
夜風が通り
私も揺れる
いつぶりだろうか
こんなに穏やかな夜は
せっかく草がなくなったんだ
子どもたちに見せてやりたかった
いつの間に寝たのだろう
気づくと大人たちが私の周りで作業をしていた
とてもくすぐったい
誰かが合図して
他の遊具の元へと移動していく大人たち
ああ、なんだ、そうだったのか
この町には子どもが増え
公園は整備し直された
塗り直され、補修された遊具
草刈りされ、土もならされた広場
この場所に再び
子どもらの声が戻った
明日は(ショートショート) もとやまめぐ @ncRNA
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