睡魔(2)

 コンビニからの帰り道


 「だいぶガタがきてるなコイツも」


 調子の悪いすこし錆びついた自転車を‘キコキコ’と音をたてて漕いでいると“カスッカスッ”という音が妙なリズムを刻んでいる。


 高校入学の際に定期代等を考えて近場の高校を選んだがそれでも徒歩で通うには多少距離があったので母が無理をして買ってくれた黒い自転車だ。

 気が付くとブレーキがタイヤに接触しているので整備という名の力技で調整しているが寿命かもしれない。


 しかし母に買ってもらったその自転車を手放す事ができずにいた。


 家の近所の公園にさしかかると、妙な笑い声が聞こえてくる。


 それはあまりにも妙な笑い声で漕ぐ足を緩めると声の方に目をやる。公園の街頭にいくつか照らされた影と光の明滅に煙、どうやら花火をしているようだ。


 季節的には花火をしていても珍しい季節ではないが手持ち花火など最後にしたのはいつだろう?それに時間が時間だ。


 こぐ足を止めて花火よりもやはり妙な笑い声が気にかかり人影のほうにを目を凝らす。


 花火の光に照らされて見えた恐ろしい光景に自転車からおりる。


 ‘ガチャン’と音を立てて自転車が倒れる。



 「おい、お前らなにしてるっ」


 思わず叫んで駆けだす。


 花火の光に照らされていたのは3人の人影と地面に転がる小さなナニカだ。


 そのうちの一人はナニカに花火を押し当てているように見えた。


 公園の入り口からは少し離れている。構わず公園内に進入するため膝丈ほどの小さな柵を越えると背の低い植木を飛び越えて花火で照らされた人影に向かって走った。


 そこでの信じられない出来事に目を疑う。ビニール紐でグルグル巻きにされて公園の電灯のポールに繋がれ動けないようにされた生き物。犬か猫かもわからない状態まで花火を押し当てられ溶けたビニールが焼けた肌にはりつき手足や尻尾などが露出していなければそれがいきものだとはわからないような状態ので横たわっている。


 「…おい、やべぇって逃げろるぞ」


 1人の男がそう言っておよび腰になるが逃げようとしない。


 1人は棒立ち状態で震えてるようにも見える


 そしてもう1人、フードを深めにかぶった男は変わらずに花火を押し当てて笑っている。


 「おいなにしてるっ」


 声を荒げて男の腕につかみかかると手を離させる。



 「邪魔するなぁ」


 少し華奢な男だが、すごい力でつかんだ手を振り払われる。


 当然火のついた花火を持ったままだったので火花が俺に向かって飛んでくる。

 思いもがけない力と火花にうまく踏ん張れず尻餅をついてしまう。

 男を見上げる格好になり転がった花火に照らされた一瞬に表情が見える。


 中学生くらいだろうか?


 思っていたよりも随分若いが恐ろしさを感じすぐに立ち上がる。


 「いきものををいじめちゃダメだって、、、」



 努めて平静を装い立ち上がりながら‘パンッパン’と土ぼこりを払いつつそこまで口にすると言葉に詰まった。


 『いきものをいじめるのはいけないことなんだぞ』などと、言おうと考えたがどう考えても動物虐待の範疇は大きく超えているこの状況でこんな事をする子供にどう伝えればいいのか?


 そもそもこのいきものは生きているのか?

 生きていたとして病院に連れて行けば助かるのか?

 悠長にお説教をしてこの子が更生しこの生き物が助かるのか?


 様々な考えが頭をよぎる。


 ただここまできて関わってしまった以上この状況をどうにかする気しかない。


 考える。


 「…どうしてこんな事をしたんだ?」



 考えた挙句このいきものを病院に連れていく事に要点を絞った。まずコイツをどうにかしなきゃならない。


 努めて優しい表情、口調で少年に問いかける。


 「うるさいっ僕は害虫駆除をしているだけだ」


 大きな声で少年が叫ぶと体当たりされると目の前が真っ暗になる。

 たいあたりされた胸のあたりにからだを何かが伝う暖かさを感じる。

 頭が締め付けられたようになる。なにが起こったかわからない。




 「お前も害虫だ。だから僕が駆除してやる」



 何を言っているかわからない突進してきたであろう少年が離れると胸に何かが刺さっている。



「マジでヤベェって逃げるぞっ!なぁっ!おいっ!」



 および腰だった少年がフードの少年の服の袖を掴み腕を引くがフードの少年は動こうとせずそのまま微動だにしない。


 俺はそのままその場に膝から崩れ落ちるように倒れる。




 「、、、生き物1匹救えず死んじまうのかよ。」




 少年たちが何か言い合い揉めている。何を言っているか聞き取れない。何だか眠い。目を開けていられない。


 死ぬのって眠る感覚に似てるのかもしれない。


薄れゆく意識の中でそんなことを考えると睡魔のような物に勝てずにそのまま目を閉じた。


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