第119話:今どきの男の子
side.
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放課後。
多目的教室と呼ばれる少し広い教室に、全学年の男子生徒が集められた。
その数なんと20人にも満たない。
そもそも男性を見る機会がほとんどないから、ある意味懐かしいという謎の感情が湧いてくる。それぞれ、くねくねきゃぴきゃぴしながら楽しそうに談笑していた。
うん、キツイ。
思ったよりもこの状況はキツイ。何がキツイかって、想像以上に教室にいい匂いが充満しているということだ。見た目は普通に男なのに、全員フローラルな香りを漂わせている。軽く拷問だ。
春みたいにたまに滅茶苦茶いい匂いがする女子もいるが、大半は無臭か女臭い。いや、俺的には全く臭いと感じない爽やかな香りなのだが、この世界の男子は臭いと感じるらしい。
ここら辺も男女逆転しているのだ。
「それじゃ、タクトくんとボクで体育祭の注意事項と、対策についてのミーティングをしたいと思います!よろしくお願いしまーす」
元気に冬凪先輩が言うと、男性諸君も楽しいのかはーいと間延びした声で答える。
「じゃ、タクトくん。今回の種目の決定の経緯を教えてあげて!」
壇上にいる先輩に促される。
俺はプロジェクターでスクリーンに昨年度の事例を表示させる。
「1年の不木崎拓人です。今回生徒会からの指名で体育祭実行委員に選ばれました。拙いところもあるかと思いますが、よろしくお願いします」
俺が挨拶をすると、控えめに拍手が起こる。
「やば…間近で見るとイケメン度合い異常じゃない?」
「あ、これ僕イケるかも。不木崎くんにならご奉仕したい。どういうプレイが好みかな…?縄とか?」
「しかもさっきすれ違った時滅茶苦茶いい匂いしたよ…。何のシャンプー使ってるんだろ…脇の匂い嗅がせてくれないかな…?」
囁き声だったが、はっきりと耳に入ってくる。切実にこの場から逃げ出したい。
この世界の女子がアブノーマルなのがデフォルト過ぎて、男子たちもきちんとアブノーマルな性癖を受け入れてしまっている。
心を無にしなければ発狂してしまいそうな空間である。
「それじゃ、まずは昨年度起こった事案についてです。大綱引きの際、男子生徒に必要以上に密着した女生徒が問題になりました」
「ほんっと女子ってキモイよね」
「あいつらってものごと全部下半身で考えてる節あるよな…」
「密着とか……気持ち悪すぎて想像もしたくない」
反応はやはりネガティブなものが多い。
俺だったら喜んで応じるのだが、彼らは基本的に女子を目の敵にしている。おっぱいを一度でも触れば世界が広がるというのに…。
「これを機に、生徒会が今年の体育祭より、男子限定の種目をつくりました。それが、男子玉入れです」
「今年の生徒会はちゃんと仕事してるよね」
「一時期生徒会長不登校だったって聞いてたけど、大丈夫なのかな…?」
「でも玉入れって考えたの絶対女子だよね。発想がマジで下品だし」
生徒会の動きは割かし高評価らしい。
そこから出席している男子生徒は俺を除いて全員玉入れに参加することが確認された。
誰一人として混合競技を選んでいないことから、この世界の歪さが伺える。
次にする話はどうすれば問題が起きないか、の対策である。
普通に種目を固定するだけで問題なんか起きなさそうではあるが…。
「全然その対策じゃ足りないと思います!」
「不木崎くんはまだ1年生だから女どものどう猛さを知らないんだよ!」
「ていうかなるべく同じ空間にいたくない。女子って汗臭いし」
ダメらしい。汗臭くはないと思うが…こう、特有の女臭は感じるが。
「なら、何か対策はありますか?」
俺が尋ねるが、なかなか手は上がらない。
まぁ、難しい。徹底するのであれば体育祭そのものを男女別にすべきだが、そこまで言う男子はこの場にはいないようだった。
「はい!」
一人の男子が手を上げる。
あいつは確か俺の脇の匂いを嗅ぎたがってたやつだ。警戒レベルが一番高い男だ。
「どうぞ」
「えっと、男女のテントを別々にしたらどうでしょうか?種目は違うし、テントを分けたら女子と接点がある瞬間も消えると思うんです」
「却下で」
「え……?」
あ、思わず否定してしまった。
こいつ何て余計なことを言うのだろう。女子まみれのテントにポツンと男子が一人とか楽園じゃないか!腕まくりしたり、服の裾ぱたぱたさせたりしておっぱい見えたり、そういう特典がついてるのだ。それを野郎だけのテントにするだって…?
「タクトくん、ボクも彼の言う案は筋が通ってると思うんだけど…?」
冬凪先輩が怪訝な顔で俺を見てくる。いやいや、貴方は女の子でしょ…?
ヤバイ。これでは女好きの変態野郎と男子集団からレッテルを貼られてしまう。女子以上に男子の方が、こういう集団心理が左右されやすい傾向にある。いじめられるまではないだろうが、無視くらいは平気でされるだろう。
「春ちゃんと一緒にいたいんだ…」
ポツリ、と冬凪先輩が皆には聞こえないようにつぶやく。
別にそういうわけではない。野郎の中に混じるのが嫌なだけで…って説明してもなぁ。
仕方ない。これ以上ごねても特になることはひとつもないだろうし…。
手招きして冬凪先輩の耳に手を当てる。
「先輩が隣にいてくれるならいいですよ。流石に野郎ばっかりはキツイですから…」
「んっ!……うん、いいよ……」
せめて本物と発覚した美少女が隣にいてくれるなら耐えられそうと判断して、先輩に約束を取り付ける。くすぐったかったのか、少し頬を紅潮させて内またになっている。どうやら先輩も耳が弱いらしい。
「それじゃ、今の意見に賛成の方は挙手をお願いします」
結果は満場一致だった。
女子のこと嫌いすぎだろ…。
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