第74話:妹より優れた姉などいない

side.ぐすくはる

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 キャンプからもう早一週間。

 ラインでのやり取りは少しあるくらいで、これと言って進展なし…!!


 先日冬凪先輩に会って偉そうなことを言ったが、私自身不木崎に何も仕掛けられていない。

 いや、何度か遊びに誘おうかとも思った。思ったんだけど……思っている以上に遊びに誘うことの心理的ハードルが高い!

 そもそも私は普段から超が付くほどのインドアだ。


 外での遊びなど知らない。


 もしも私が誘ったデートで不木崎につまんない女だと思われたら……!死んじゃう。

 仮に私の部屋でお家デートをした場合、私はきっとイチャイチャしまくるに違いない。そうなると、不木崎からして見たら、もはや拷問である。


 もちろんネットでも調べた。調べたが、男の子とデートに最適な場所なんてどこも値段がおかしいくらいに高額な場所ばかりで、ただの女子高生の私には一切参考にならない。…やはり男の子とのデートは富豪の遊びなのか。


 椿に聞く、という案も一応あった。2秒で却下されたが。

 プライドが許さない、という小さな話ではない。あいつのことだからきっとついてくるに違いない。そうしたらどうだ、せっかくの不木崎とのデートが台無しである。それでは意味がない。


 ……できるだけ、二人っきりになれる場所がいい。そうしたらきっとあのときみたいに……。


 思わず下半身に手が伸びる。


 いけないいけない。暇すぎて最近こればかりしてしまっている。

 盛りのついた猿じゃないんだから…。


「おねえちゃーん!ゲームしよー!」


 椿がコントローラーを両手に持って、部屋に突撃してくる。

 ……私今してたら見られてたよね。あぶねー……!


「あ、もしかして、今から一人エッチしようとしてた?時間置こっか?」

「ぜ、全然しようと思ってねーし!全然ゲームの気分なんだけど?」

「ふーん、ま、いいけど!ほら!これやろ!」


 妹が持ってきたソフトは桃鉄だった。二人で……桃鉄!?

 多人数でやるから楽しいゲームなのではないだろうか。


「……まぁ、いいけど」

「よっしゃー!50年でやろうね!夏休みだし!」

「嫌!二人でやるには長すぎるっていうか、もはや拷問じゃん!」

「お母さんにキャンプの時の動画送っちゃおうかなー」

「……ちょっとだけね」


 50年やるんだからちょっともクソもないのだが、屈したくないため必死に取り繕う。

 椿はニヤニヤと笑みを浮かべてゲームをスタートさせる。

 いつの間にか、お菓子や飲み物が乗ったお盆が私たちの間に置かれていて、準備は万端らしい。


「あ、そういえば、桃鉄で賭けしない?」

「賭け……?」


 嫌な予感がする。

 椿は基本的に勝てる勝負しか提案してこないし、しかも私が乗らざるを得ない勝負しか提案してこない。つまりすごく性格が悪い。


「うん、私ふっきーとデートの約束してるんだけど、もしお姉ちゃんが勝ったら譲ってあげる、私が勝ったら私一人で行くから邪魔しないでね!」

「は……はぁあああああ?」


 コントローラーを思わずたたき割りたくなる衝動をこらえる。

 こいつ、私が悶々と一人で悩んでいたことをいとも容易くやってのけやがった…!

 しかも私がデートするってなったら絶対に邪魔するくせに、自分の時は邪魔するなだと…?冗談も休み休み言え……!


「なんで椿がふっきーとデートすることになってるの!」

「お姉ちゃんが泣きながら公園に逃げ込んだことあったよね?」

「う、またその話?」

「その時に、場所教える代わりにデートしてねって約束したの」

「悪魔!」


 にししし、と椿は口を押さえて笑う。

 しかし、私が一番悪いのだから強くも出れない…。


「そう言わないでよー。黙って行ってもいいのに、こうしてお姉ちゃんにもチャンスを分けてるわけだし」

「……ま、まぁ……確かに」


 椿の言う通りである。

 あくまで椿とふっきーの間で約束した話だ。私は関与していない。

 それをこうして真正面から話してくれているのは、椿なりにフェアを貫こうとしているのではないか。


 もしそうなら、お姉ちゃんがうじうじ言っていても情けない。

 真正面から来るなら、真正面から打ち崩すのみ!


 桃鉄は実況動画でちょろっと見たことがある程度だが、それは椿も一緒だろう。

 ……一人でするゲームじゃないだろうし。


「で、やる?」

「お姉ちゃんより優れた妹なんていないんだよ…?」

「おっ、やる気満々じゃーん!一つアドバイスね。物件はなるべく店舗をまとめて買うのがいいよ。あと、こういう利益率が高い店舗を買ったほうが儲かるからね!」


 椿が1,000万円のラーメン屋を見せながら説明してくれる。

 これは初心者の私でも道理が理解できる。


 この店舗を購入し、利益率が100%なら、その年に入ってくる金額も1,000万円ということになる。非常に単純なゲームだ。


「よし!簡単なゲーム説明も終わったし!すたーと!」



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5年経過


「うわーお姉ちゃん1位かー!やっぱインドアはゲーム強いなー!」

「インドア言うな!って言っても椿が農林系のすっごく利益率が低いものしか買わないからでしょ?なんで店舗買わないの?」

「よし!次行ってみよー!」


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15年経過


「あれ…何このキングボンビーってやつ」

「あーボンビーが進化しちゃったね」

「てか椿、なんでカードマスにしか止まらないの?」

「カードマスじゃなくてナイスマス駅ね!ほら、カード欲しいし」

「絶対先にゴールしたほうがいいと思うけど…」


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25年経過


「ボンビーに……物件全部売られた……!」

「うわー大変だー(棒)お姉ちゃんが零した店舗は私が拾うよ!」

「わ、私の店舗が!」



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50年経過


「うーん……ほとんど全部買っちゃったなー。あれ、お姉ちゃん買えるとこもうなさそうだね!」

「……何で……?どこで歯車が……?」


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 勝敗は火を見るよりも明らかで、私の惨敗だった。

 まるで魔法のように椿にお金が舞い込んでくる。最終結果のグラフは私を含めたCPUが一番下で蠢いていて、椿のグラフが飛びぬけて高いものとなった。


 不正はなかった…。私も一緒にやってたんだから…!


 空が明るんで、朝日がカーテンから漏れてくる。

 もう眠気は限界まできていて、今にも倒れそうである。


「そ、そう言えば椿…デートっていつ行くの?」

「え?今日だけど」

「今日!?」


 驚くも、眠気には打ち勝てず、すぐに船をこいでしまう。


「お姉ちゃんは昔から夜更かしが苦手だもんねぇ」


 ニヤニヤ笑う椿の顔が次第にぼやけていく。

 こいつ……全部計算して……。


「お休み、お姉ちゃん」


 椿の言葉を最後に、そのまま意識が途絶えた。


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