第2話
―――芹はその名を徳川晃伸と言った。普段は女として過ごし、ことがあると、壊れ掛けの江戸幕府の中、将軍の弟として男として力を発揮する。そんな日々だ。
「白としてのお自覚はございますか? 芹殿」
「もちろんじゃ。だが、どうにもおのこの姿は窮屈でたまらぬ。政務のためにおのこの恰好をしているが、やはり女で、わらわはいたい」
「おたわむれを。バレたらただでは済みますまい。自分の愛人の振りをして女として過ごすなど。家蔵殿に知られたら殺されますぞ」
「どうせ、儚い命よ。兄上も、わらわを殺して、貧乏くじの当代になってしまった溜飲をさげよう」
徳川晃伸が家を継いだ家蔵の弟だということはわかっていた。
徳川家は、家を16代保った秘訣として、後継者以外を殺さない選択を取っていた。
前の当主が後継者を決めるときに、長兄で継ぐのではなく、優秀な兄弟で競い合って、40歳まで結婚もさせずに
当主の能力を示したものが当主になる。それをバトルブラッドという。それで徳川は16代という治政を守っていた。
―――そこに以蔵は川出の雨氷として侵入していた。もちろん、桂小五郎の手引きである。
「というわけで、おぬしがつくのは、貴族のご長女であらせられる芹殿だ。殿がねんごろにされていて、10日に一度はセックスをされる。子供は作れぬ仕来りとなっているが、大切な役割の方だ。徳川の永遠の繁栄はこれにある。しっかりお世話して差し上げろ」
「はにゃ? 愛人というと妻とは違うのでござろうか?」
「剣の腕は立つと聞いたが、ずいぶん間の抜けた男だな。川手の雨氷。将軍家には白というのがある。それは当主を引かれた方のセックスを受け持つ場所よ。そこがあるから徳川家は16代まで家系争いもせずに続いたのだ。
外国では当主の座を争って野蛮な殺し合いをしているが、考える知恵を知らぬものよ。子なしのセックスの保障だけですむものを。
バトルブラッドの後処理として作られた大切な施設が白よ。それは当代の家蔵殿も使っておられる」
「白? なぜ白でござるか?」
「白旗の白よ。当主には逆らわぬ。子ものこさぬ。相談役として死ぬまで力を貸すというあかしよ。
長兄相続などしている外国はバカなものよ。優秀な子種はバトルブラッドで残る。後で負けたものが白。
それが親を殺さぬ子を代々作り続け盤石の体制を作る秘訣よ」
「なるほど。それで、白の方はどちらに?」
「ついてまいれ。決して粗相のないようにな。お前は護衛役だが、あくまで雑用係ということを忘れるな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます