第216話 その後

『HAHAHA、タケシさっきは助かったよ』


「助かったよじゃねえよ。何してんだよあんなところで」


 ブレイバーとして活躍してすぐ、武藤は転移で自宅に帰りベッドに寝転がると件の俳優、アレックスから電話がかかってきた。

 

『いや、ちょうど次の映画の撮影場所がすぐちかくでね。許可の関係で大使館を訪れていたらあの男達がきたってわけさ』


(こいつの運の悪さも相当だな)


アレックスは妹の病気からの貧乏生活やら両親のことやら相当苦労をしている。それでも武藤に出会えたことで運も上昇方向に向かっているのでその辺りで相殺されて平均的になっているということだろう。


『実はさっきの件は報道管制がしかれていてね。まあタケシは大丈夫だけど一応他言無用でお願いするよ』


「あれだけ警察とか来てたのに?」


『どこかのヒーローがあっという間に犠牲者もなく、テロリスト達すら死者もなく制圧してしまったからね。なんとでも言い訳できるってわけさ』


(つまり報道したらまずいことがあった、もしくはそういうことがあったということを世間に知らしめることが目的だったという感じか?)


 わざわざ白昼堂々大使館を襲撃である。誰かを害するだけが目的ならすぐに逃げるはずだが、それをすることもせず人質をとって立てこもっていた。つまりなにか犯人たちには目的があったはずである。

 

(まあ、どうでもいいか)


 武藤は自分に関係ないだろうとそこで思考を止めた。ちなみにサッカー大会が終わった翌日である今日。武藤は移動時間も考えて本日まで仕事を入れていなかった。その読みは当たり、大会後は一泊して翌日朝からバスで移動であった。何しろバスでの移動で8時間もかかるのである。応援組も同じで翌日の移動であった為、同時に学校に到着している。つまり件の事件の前に武藤がのんびりと夏休みを満喫できた時間はわずか2時間であった。バスの中でのんびり出来たのではないか? などという疑問もあるかもしれないが、すでにサッカー部員ではない武藤は恋人達の乗るバスに一緒に乗っていた。つまり……そういうことである。

 

 

 

(今日まで仕事は無しっていったのに……)


 剛三に愚痴を零しながらも武藤は別にそれほど怒り狂っているわけではない。何しろ洋子という嫁の父親である為、剛三は義理の父親になるわけである。武藤は家族には甘いため、この程度のことでは文句は言うが怒るほどのことでもないと感じていた。武藤にとってイタリアに行って要人の救出は、近所に散歩くらいの感覚なのだ。

 

(そもそもアレックスの救出なら最初からそう言えよ)


 アレックスも家族である。わざわざ仕事にしなくても言えばすぐに飛んでいったのだ。



『それよりクリスは元気にやってるかい?』


 思考がだんだんとそれていった武藤の意識を件のアレックスが呼び戻す。


「元気だよ。ああ、すごく……元気だ……」


 大会中、武藤は恋人達の泊まるホテルに一緒に泊まっており、そこで毎夜おせっせに励んでいたのである。そこでサキュバスのように貪ってくるメンバーの中にもちろんクリスもいた。最初に恥ずかしそうにしていた姿はどこへやら。現在は自ら上に乗り、積極的に腰を振ってくるようになっていた。さすがに義理の兄とはいえ妹さんを上の口も下の口も娼婦どころかサキュバス並に仕込みました等と言うわけにも行かず、ただ武藤は元気だということを伝えるしかなかった。



 翌日から武藤は猪瀬の仕事で晴明として世界中を飛び回ることとなった。それにより世界中に転移ポイントを作ることが出来た。もちろんイタリアにも作成済みである。


 ちなみに異世界転移組女子達の異世界キャンプは今年は中止となっていた。なぜなら全員が一週間の休みを合わせることができなかった為だ。特に部活組は合うことがなく、部活組を除こうという話もあったが、やはり全員で行きたいとのことで今回は流れることとなった。思いの外1組2組の異世界組女子は結束が固いようである。

 

 そして武藤も1組2組の女子達には存外甘かった。呪いの解かれた武藤は以前のように百合以外に全く感心がないということもない為、可愛い女子が自分に本気で惚れており、なおかついいよってくるというのは悪い気はしないのである。胸を押し付けられて抱きつかれたりしたらマスクの下で鼻の下は伸びているし、なんなら下も元気になっていたりするのだ。

 

 今のところ恋人達が武藤の昼休みを占有しているため、恋人以外の1組2組の女子に手を出していないが、迫られたら食べてしまいかねないくらいには気を許している。

 

 そして新たに恋人になった六花であるが、5組の生徒にもかかわらず1組2組の異世界組にはすんなりと受け入れられていた。あの武藤が選んだ女であり、しかも同じ中学出身なのに今まで武藤を思って声をかけるのを控える程には配慮ができるので、人としてもできた人物で武藤が選ぶだけのことはあるとの判断である。そしてなにより真凜に匹敵する程小さくて可愛いのでマスコットとして人気を博していた。

 

 実は5組男子の中でも六花は密かに人気があり、最近は急に女らしさが出てきたとよくクラスでも話題にあがっている。誰のせいかはいうまでもないだろう。小さくて可愛いのにときおり見せる女の表情は非常に色香が漂い、同級生の男子生徒たちがそのギャップに惑わされるのも無理はなく、現在5組の男子生徒たちのおかず堂々第1位となっていたりする。

 

 だが六花はサッカー大会の帰りのバスでその妄想よりももっとすごいことを武藤にされていたとは5組の男子生徒は夢にも思っていないのであった。

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