第198話 決勝(サッカー10)

『さあ、ついに来ました決勝戦。地区予選決勝、東方高校対中央高校の一戦。実況は私坂本、解説は元Jリーガーの大野さんでお送りします。大野さんよろしくお願いします』


『よろしくお願いします』


『ついに決勝が始まりますね』


『ええ、非常に面白い試合になりそうで、年甲斐もなく今からワクワクしています』 


『未だ無失点の守護神、理外の怪物、武藤武の鉄壁を王者、東方高校がうち破ることができるのか? 注目の一戦はまもなくキックオフです』

  

  

  

「ついに決勝戦だ。正直ここまでこれたのは武藤のおかげだと思ってる。だが武藤だけで来られなかったのもまた事実だ。自信過剰になるのは駄目だが自信を持つことは重要だ。俺達はこの決勝の舞台に立つ資格はあるはずだ。勝っても負けても悔いの残らない試合にしよう」


 キャプテンの真壁の声に武藤以外のおおーという声がグラウンドに響き渡る。ちなみに武藤は負けるつもりはないので賛同の声をあげていない。

 

 

 

『さあ、ついに始まりました決勝戦。果たしてどんな試合になるのでしょうか。地区予選とは思えない超満員の観客の中、今キックオフです!!』


 東方高校側から始まった攻撃はここ2試合と違い、非常にゆったりとした始まりであった。中盤をじっくりとパス回しで時間を使いながら、東方高校は非常に余裕のある攻撃を行ってきた。


(この決勝でなんて余裕!! これが名門か!!)


 菅野はあまりに冷静な相手高校の中盤選手たちを見て非常に焦る。本当におなじ高校生なのか?……と。

 

(そういえばもっと理不尽なやつうちのチームにいたわ)


 武藤のことを思い出し、不意に菅野は緊張が解け、動きの硬さが取れた。しかし、いくら菅野だけ動きが戻っても他のメンバーは未だに動きが硬いままである。結局中盤を崩され、そのまま4壁のところまでボールを運ばれた。

 

(!? 早い!!)


 真壁は焦っていた。あまりに正確で早いパス回しに。まるで針に糸を通すかのように狭いところに非常に早いパスが通る。あっという間に裏を通され気がつけばフリーでシュートを打たれていた。

 

『と、止めたあああああ!! やはり鉄壁!! 今日も武藤は絶好調です!! 果たして東方高校はこの牙城を崩せるのか!!』


『いや、簡単に止めてますけど、フリーの一対一ですよ? 8割は決まっていてもおかしくない状態なのに武藤選手は普通に止めるんですよね。しかも飛び出したところに上を通そうとしたのに打つ瞬間に武藤選手後ろに下がりましたからね。それで浮き上がるボールを驚異的なジャンプで片手キャッチってあんなのどうすればいいんですかね。そりゃダンクシュートもできますよあのジャンプ力なら』


 解説者も武藤の異常さに半ば呆れ始めていた。

 

 そしてここ2試合と違い、試合は一進一退の攻防が続いた。この試合は、しっかりと中央高校も攻めることが出来ているのである。もちろん点には繋がらないが、しっかりと攻めることは出来ていた。

 

(なるほど……あれが連携ってやつか)


 武藤は東方高校の守備を見て感心していた。サッカーの素人である武藤でもわかる。と。 

 

(選手を挟んでキック方向を絞り込んでキーパーの居るところに蹴らせる。なるほど理にかなってる)


 そもそもキーパーと一対一の状況で止めるほうがおかしいのである。本来ならシュートコースを限定させて、キーパーが届くところに蹴らせるか、ボールを進ませないようにするのがディフェンダーの役割である。

 

(そういえばうちもなんかそんな動きしてるな)


 武藤は全く気にしていなかったが、今考えれば、そういえばシュートコースを狭めるような動きをしていたなと思い当たった。敵選手のやや離れた横を走っているのはパスコースを潰していたのかと。そう考えると4壁の動きもそういうことかと理解できた。

 

(サッカーって奥深いな)


 武藤はここに来て初めてサッカーの奥深さを感じたのであった。

 

 

 それからも一進一退の攻防が続いたが、武藤は何かに気がついた。

 

(なんか……探ってるな)


 東方高校の攻撃がいろいろなパターンで何か探っているような動きだと武藤は気がついた。それは武藤の弱点を探すとも言うべき動きであり、センタリングからのシュートやコーナーキックのセットプレイからのシュート等、様々なプレイで中央高校ゴールを脅かしたが、そのすべてを武藤が粉砕した。

 

 そしてお互い無失点のまま前半戦が終了した。

 




「やべえ、さすが東方、守備が硬すぎる」


「全く隙がねえ。うますぎるだろあいつら」


 攻撃陣は息も絶え絶えに愚痴をこぼしていた。ちなみに東方が攻めさせていたのはわざとである。カウンター特化の中央高校は攻撃陣があまり動いていなかった為、先の2戦では後半までスタミナが温存されており、かつ相手高校はずっと攻撃し通しであるが故に中盤より前の選手はスタミナが切れていた。後半、如実にその結果が動きに現れていた為、東方高校は中央高校攻撃陣と中盤のスタミナを奪う為にわざと動かしていた。

 

 中央高校の攻撃陣は全くそれに気が付かず、ただ今までの強豪校とくらべて攻めやすいなあくらいにしか思っていなかった。全国一とも言われる守備に絶対の自信のある東方高校ならではの作戦であった。

 

「武藤を攻略しようと色々と試してるみたいだね」


「パス回しも早いし正確だし、位置取りもうまい。さすが全国優勝何度もしてる高校だな。今までで一番強いわ」


「武藤がいなかったら何点とられてたかわからんな」


「でもまだ本気じゃないぞ」


「え?」


 キャプテン真壁の言葉に他の選手たちは驚いて固まった。

 

「10番が出てない。去年のインターハイで1年にして優秀選手に選ばれた小野が」 

 

 1年生のインターハイで優秀選手ということは、高校入学してわずか4ヶ月足らずで結果をだしたことになる。そんなエースを東方高校はまだ温存したままであった。

 

「怪我とかじゃなくて?」


「前半終了間際にベンチでアップしてたぞ」


 どうみても後半出る気まんまんである。

 

「……やばくね?」


「つまり後半は組織力だけじゃなく、個人技も合わせての攻撃になるってことだ」


 キャプテン真壁の言葉にディフェンス陣達に緊張が走る。

 

「ファールにだけは気をつけよう」


「特にペナルティーエリア内な」


 ペナルティーエリア内で相手を倒したりするとPKを与えてしまうことになる。いくら武藤といえど、PKなんぞそうそう止められるものではないのだ。


「これに勝てば全国だ。いくぞっ!!」


 キャプテン真壁の声に「おおー」という声があがり、中央高校は後半へと挑むのだった。 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


今日はもう1話更新します。

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