第180話 付与師2
「名乗られたからには名乗らないとな。武藤武、中央高校1年だ」
「歳下!? 背たっか、同い年くらいやと思うとったわ。それにえっらい男前やなあ」
津雲はメガネをかけたままの武藤を見てもその素体からイケメンだと判断していた。伊達に芸大にいないのである。
「それで、これは金のためか? それとも承認欲求?」
「んーまあ半々やな。うちこれでも苦学生やねん。奨学金でなんとかやっていけてるけど、いずれ返さなあかんし、はよ有名になって金持ちになっておかんや妹達に楽させたりたいねん」
「それでこんなとこで売ってんの? ネットで動画作って宣伝したほうが早くないか?」
「もちろんそれもやっとるで。ただ無名の作品がそうそう売れるもんやないから、それで休みのたびにこうして出稼ぎに来とるっちゅう訳や」
「そうか。じゃあ金がもう一生困らないくらいにあったらどうする?」
「そうやな。家族連れて夢の国に行ってみたいわなあ」
「いや、仕事の方」
「んー趣味でちょくちょくとアクセサリー作りながらのんびりやるやろうなあ。うち絶対OLとか無理やろうし」
「そうか。奥さんいいお仕事あるんですけど」
「誰が奥さんやねん!! で、いい仕事って?」
「貴方の夢の通り、一生金に困らず、家族も養えて一生のんびりと好きな時にアクセサリーを作って生きている。そんなお仕事が!!」
「……絶対いかがわしいやん」
「全然いかがわしいことじゃないよ」
「じゃあなんなん?」
「ちょっと俺とえっちなことを――」
「いかがわしいの極致やないか!! むしろ全然隠さへんでよう言うたな!!」
そういって津雲は自身の胸を隠しながら武藤に叫んだ。
「ちょっと誤解があるようなんだが」
「誤解も6階もあるかい!! どストレートのこれ以上ないど真ん中の直球やろが!!」
「ただ君とえっちなことがしたいってわけじゃないんだ」
「どういうことなん?」
「俺の精液を君の中に注――「だっしゃああ!!」」
「ごふっ!?」
津雲の拳が見事に武藤の顔にクリーンヒットした。ちなみに武藤はわざと受け止めてのけぞったがノーダメージである。
「余計ひどくなっとるやろが!! どこが誤解やねん!!」
「武……その言い方じゃどう考えてもいかがわしいことにしか聞こえないよ」
「まあ確かに全部省いて要点だけを説明したらそうなるんだけどねえ」
武藤のあまりの言い方に百合と香苗が思わずツッコんだ。
「どういうことなん?」
「さっきのペンダントを見てもわかる通り、この世界にはまだ現代の人が理解できない不思議な力がある。それを私達は魔法と呼んでいる。魔法を扱うためには魔力というものがいるんだがそれを体内にそのまま蓄積できるのは女性だけなんだ」
「ほうほう」
「男性の場合は体内に留める為には特殊な技術が必要でね。おそらくこの世界では彼だけがその技術を持っている」
「へえ、そうなんや」
「そして魔力を蓄えるのに一番効率がいいのが、彼の精液を子宮で受け止めることなんだよ」
「……はあ?」
「自然の魔力を自力で蓄えるのには技術が必要で非常に難しいらしくてねえ。自然に溜まる分ではとても効果の高い魔法は使えないらしいんだ」
「で?」
「君の魔力が高まれば、それだけ効果の高いアクセサリーも作れるだろう? さっきのと違いもっと高く空を飛べるアクセサリーとか、病気が回復するアクセサリーとか、一体どんな値段で売れると思う?」
「!?」
「効果にもよるが、いくつか売るだけで一生困らない金額になると思うねえ。武くんはそういいたかったんだろ?」
香苗の言葉に武藤はうんうんと頷いた。
「だったら最初からそういえばええねん。なんやねん精液を注ぎ込みたいて。ド変態のプロポーズでもそないなこと言わへんぞ」
「それでどうだ?」
「断る!! うちをそんな安い女やと思わんといて!! 金のためとはいえ、うちはそうやすやすと体を売り渡したりはせん!!」
「そうか。じゃあ次の方法だけど「待てい!!」ん?」
「他の方法あるんか?」
「あるよ?」
「先にそっちを言わんかい!! いや、待って、まさかそっちもいかがわしいんじゃ……」
「単純に美紀に宣伝してもらえばいい」
「え? あーし?」
「美紀がSNSでつぶやいて紹介するだけで、生産が追いつかないくらい注文くるんじゃない?」
「あーそれは確かにくるかも」
「美紀? あっ!? モデルのMIKIやん!! 全然気づかんかった!!」
「MIKIでーっすよろー」
「MIKIが宣伝!? い、いくら払えばええん? うちそんなお金ないよ?」
「いや、お金がどうこうじゃなくて、注文に追いつけるの? 見る限り全部1点ものじゃん」
「確かにうちのはシルバークレイいうて銀粘土で作る1点もので量産には向いてへん。できたものから売るって感じやから……」
「まあそこそこは売れるだろうけど、すぐに頭打ちになるだろうな。量産できてればそれなりに儲かるだろうけど」
「ワックスつこうてやれば量産できるやろうけど、うちのスタイルやないし……」
「だから1点ものでものすごく高く売れるであろう最初の方法を提案したんだよ」
「ど、どれくらいで売れる予想なん?」
「最初は百万単位だろうけど、本物と分かれば億は余裕でいくと思う」
「億!? なんで!?」
「魔力がないと効果がないんだから、女性にしか効果がでない。じゃあ女性に売れるものっていったら……若返りの効果が一番じゃないかな」
「若返り!?」
「1回だけの効果で見た目だけの効果だけど肌の年齢が10歳若返ってリバウンドがあるわけじゃないってなれば、金持ちがこぞって買うでしょ」
「……でもどうやって魔力をもたせるん?」
「飲んでから排出するまで魔力が体内に蓄積される薬を同時に販売する」
「そうか、それなら飲んでる間だけは効果が――てちょっと待てい!!」
「ん?」
「それ、うちがその薬飲んでアクセサリー作ればええんやない?」
「……」
「おいっこっちみろや!!」
「いやいや冗談だって。本当は液体には一定以上の魔力は溶け込まないんだ。だから強い効果の付与はそれを飲んでもできないんだよ」
「……ほんまか? うちにいかがわしいことしたいから嘘付いてるんやない?」
「俺は冗談はいうけど嘘はつかん」
「……まあええわ、信じたる。で、実際どうなん? 私にそんなのつくれんのん?」
「俺が指導すれば作れると思うぞ」
「そうか……それあんたがうちの作ったアクセサリーに魔法を入れるんじゃあかんのん?」
「できるけどそれお前の作品である必要ないよね?」
「あっ」
「お前はただ高く売れるものを作りたいのか、それともお前のデザインを求めて買ってもらいたいのかどっちだ?」
「うちは……」
「あの、ちょっといいかな? 旦那様?」
「ん?」
「そんなもの作られるとうちの薬が非常にまずいことになるんですけど」
「あっ」
武藤は完全に忘れていた。猪瀬から一定期間だけ若返る薬を販売する計画があったことを。
「あれ、もう試供品として配ってるから。そんなアクセサリー売られたら大変なことになるから!!」
涙目ですがってくる洋子に武藤は何も言えなかった。
「……というわけでこの話はなかったことに」
「できるかい!! ここまで深く踏み込んどいてなかったことにできるとおもうとるんか!!」
「でもどっちにしろ俺とえっちなことをしないとどうにもならないんだけどどうするの?」
「それは!?」
「まあそんなことしなくても苦学生を応援することはできるから。とりあえずここにあるやつ全部くれ」
「全部!? ええのん?」
「ええで」
「そうか、初回限定のお客さん特別サービスや!! 全部で100万ポッキリでどうや!!」
「ほい」
武藤は無造作に100万の束を津雲に渡した。
「ほぎゃあああああ!? な、何渡しとん!! 冗談に決まっとるやないか!!」
「あっそうなの? まあいいや、それで親孝行でもしとけ」
「!? あ、あかん、こんなもの恵んでもらう程うちは落ちぶれとらんわい!!」
「恵むというよりは先行投資ってことで」
「どういうこと?」
「後で、俺の注文通りのアクセサリーを作ってくれ。それの前金とでも思ってくれ」
「……わかった。先に預かっとくわ。連絡先教えてくれへん? こんままじゃ持ち逃げみたいで嫌やねん」
そういって津雲は武藤と連絡先を交換した。
「ちゃんと連絡しいよ。絶対代金分以上の仕事したるさかい」
そんなことを叫ぶ津雲を残し、武藤達はその場を後にした。
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