第78話 平穏な日常

「ダーリンてばいつになってもなんか女関係だと自信がないよねえ。いくら相手がアレックスとはいえあーしがダーリン以外選ぶわけないじゃん」


「まあご主人様としては惚れられるようなことをしてないと思ってるからじゃないかな? 例え命の恩人だったとしても」


 冬休みも終わった高校のとある空いている教室。いつもの3人はいつも通り集まって昼食中である。

 

「多分旦那様は予防線を張ってるんだと思うよ」


「予防線?」


「旦那様は何かきっかけがあったら私らが他の男を選ぶ可能性があると思ってる」


「そんなわけないでしょ!!」


「でも旦那様はそれが普通だと思ってる。だから常日頃から別れることを念頭に入れて行動しておけば、実際別れる時になってもほらやっぱりって感じでダメージが減らせるでしょ?」


「あーそれって宝くじ買って外れて当然と思うのと似てるね」


「本当に外れて当然のことと比べられてもどうかと思うけど。最近はそんなこともなくなってきた感じだったんだけど、前あった香苗ちゃんが他の男に興味があるって話が、悪い方向に影響したのかもねえ」


「ああ、あれは完全にカナちゃんが悪いね。好奇心旺盛なのはいいけど、彼氏に他の男とやるのに興味があるなんていっちゃさすがにまずいっしょ」


「本当にやる前でよかったよ。あれで既に他の男と経験済みとかだったら、多分私らもひとくくりでそういう目で見られてた可能性だってありえる訳だし」


「ダーリン以外の男なんて振れられたくもないんだけど!?」


「私もそうかなあ。ご主人様以外は触られたくないな」


「私だってそうよ。でも1人でもやっちゃうと女はみんなそうだと見られてもおかしくないわ。特に裏切られた恋人当人からすればね」


「これがダーリンとのえっちがあんまり気持ち良くないとか、ダーリンが独りよがりで女を道具みたいに扱ってるとかなら、まあカナちゃんの言ってることもわかるかもしれないけど……」


「……毎回全員気絶してるもんねえ」


「あれより気持ちいいことって想像できないんだけど……」


 そういって武藤との行為を思い出し、3人は頬を赤らめる。


「そもそもあれだけ愛し合っておいて、なんでダーリンは自分に自信がないんだろうね?」


「旦那様はなんというか恩とかお金とか、そういうのを除外して本当に自分という存在だけで見た場合に自分に惚れる女がいるのか? って思ってるんじゃないかな」


「あーしは惚れてたし!!」


「でもそれって長い付き合いで得た感覚じゃないでしょ? その場合得られる情報って顔くらいじゃん。ならもっといい男が現れた時にそっちにいくんじゃない? 恐らく旦那様はそれが普通と考えてる」


「あーだから百合ちゃんだけは特別なのか」


「そう。百合ちゃんだけは長い付き合いらしいからね。だから私らは焦らず信用を積み重ねないと駄目ってこと。なんだかんだいって旦那様は情に厚いから捨てられるようなことはだろうし」


「そもそもお金も男の魅力の1つだと思うんだけど?」


「まあそうだね。実際そう思ってる人が大半だと思うよ。どんな不細工な男だったとしても年収100億とか言ったらすぐにすっころぶ女は大勢いるでしょうね」


「あーしは年収0でもダーリンがいい!!」


「はいはい、美紀が旦那様好きなのはわかったから。真由はどう? 旦那様が収入0でも大丈夫?」


「全然大丈夫、私が養うから。ギャンブル好きで借金だらけとかじゃなきゃ収入なんて気にしないよ。ご主人様は絶対そうならないタイプだし。っていうかご主人様ならプロゲーマーとしてもやっていけそうな気がする」


「……旦那様ってそこまでゲーム上手いの?」


「格闘ゲームは負けたところを見たことがないかな。絶対勝てるゲームはつまらんから飽きたとかいって最近はやってないみたい。あのFPS? っていう銃で撃つゲームは味方次第で負けるから面白いっていってた。がんばっても8割しかチャンピオンとれないって」


「それがどれだけすごいのかわからないけど、旦那様がすごいっていうのはなんとなくわかったわ。やっぱり女はどんな分野であれ才能を持った男に惹かれるってことね」


「お金を稼ぐのも才能ってこと?」


「それが自分で稼いだものならね。病院の院長の息子とかいっても全然そいつの力じゃないでしょ?」


「でも家の力ってのもその人の力にならない?」


「まあそれは確かにそうとも言えるわ。私としては家の力をさも自分の力のように自慢してる男はお断りだけど、確かに家の力ってのはあるわね。猪瀬の力を使ってる私がいうのもなんだけど」


「確かに家柄しか自慢がないってそいつになんにもないっていってるようなもんだからねえ」


「でも家同士の結びつきって馬鹿にできないもので、未だに本人に了承もなく、生まれた時から許嫁とか婚約者だとか普通にあるよ」


「マジ!?」


「うちは比較的自由だったからそういうのはなかったけど、財界のパーティーとか行くとそんな話がゴロゴロしてるよ」


「洋子そんなパーティーにでてるの?」


「男がいい寄ってくるからあんまり出てなかったけど、最近は許嫁がいるって断れるから偶にママに連れ出されてる。そういう経験を積まないと旦那様が将来後を継いだ時に困るからって」


「完全にダーリンを囲い込む気満々じゃない」


「まあ婿じゃなくても私の子供が後を継げばいいからね。その間は親父ががんばってもいいし、私が社長代理でもいいし。でもそれだと高校卒業と同時に妊娠は大学行けなくなっちゃうから厳しいのよねえ」


「!? そっか。私大学なんて考えてもいなかったわ。卒業と同時に直ぐにダーリンとこに転がり込んで毎日イチャラブ新婚生活しか考えてなかった」


「美紀らしいわ。でも美紀は将来どうするの? このまま芸能界に進むの?」


「今のお仕事楽しいし毎日充実してるし、すごい好きなんよねえ。なんか私に向いてる感じ。だから出来るところまで続けたいとは思ってるけど……」


「忙しくなると会えなくなると?」


「そう!! それが心配なの!! ダーリン成分が足りなくなったらあーし死んじゃうかも……」


「そこまで!?」


「前は結構平気だったんだけど、最近2日会わないともう手が震えてくるの」


「それもう完全に中毒症状じゃん!? ヤク中と同じこといってるよ!?」


「あっだから最近よくご主人様の家に来るんだね」


「ダーリンラブ過ぎて生きるのが辛い……そんな私に推しと自分比べてどっちがいいなんて普通聞く!?」


「あーそれはきついね。でも即答できなかったじゃん」


「ぐっ!? それは付き合うとかじゃなくて実際会えたらサイン貰えないかなあって考えたくらいで、例え想像の中でも隣にいる男はダーリンだけだもん」


「おー愛しちゃってるねえ」


「そういう洋子はどうなの? アレックスじゃなくても、もっと稼ぐ人がいたらそっちに鞍替えする可能性ある?」


「私? あるわけないでしょ。例え旦那様が今の力を失ったとして、猪瀬の家が旦那様を捨てるなら私が猪瀬の家を捨てるわ」


「!?」


 洋子にとって猪瀬の家は全てである。それを捨てるという覚悟に美紀も真由も驚いた。


「こんなに稼がせてもらっておいて用済みになったらポイって、人としての仁義にもとる。そんなことをしたらさすがにお母さまにでも反抗させてもらうわ」


 洋子にとって絶対である母に逆らうというのは余程のことである。

 

「まあ、例え親父が捨てようとしてもお母さまが止めるでしょうけどね。寧ろその辺りはお母さまの方が情に厚いところがあるから」

 

「その覚悟をご主人様に言えばよかったのに」


「いやよ恥ずかしい」


 そういって洋子は頬を赤らめて顔を逸らした。


「そういう真由はどうなの? 旦那様よりいい男がいて口説かれたらどうする?」


「んーそもそも旦那様よりいい男を見たことがないからなあ」


 既に3人とも武藤に恋するあまり脳内に武藤フィルターがかかっている。このフィルターは装着されると対象の男と武藤を自然と比べるようになり、顔、身体能力、金銭能力で比較するが、顔ですらかなり大幅に武藤側がプラスされる為、そのフィルターで弾かれないのは至難の業である。

 

「じゃあさ、真由ッちのタイプの男ってどういうの? ダーリンとか個人じゃなくてタイプとして」


「そうだねえ、体は大きい方がいいかな。後は身体能力が高い人。それと優しい人」


「……ダーリンじゃん」


「あっ!? 確かに」 


 偶然ではあるが、真由の好みを全て武藤は満点で満たしていた。

 

「結局、私等3人は旦那様一択ってことなのね」


 そういって3人で笑いあった。

 

「そうだ、さっき他の男とダーリン比較する簡単な判別方法思いついた!!」


「なに?」


「その人のお尻を舐められるかどうか」


「ブフォッ!?」


 ちょうどジュースを口にしていた洋子は思わず噴き出した。

 

「ちょっと洋子汚いでしょ」


「あんたが変なこと言うからでしょ!! 何よお尻って!!」


「あー確かに美紀舐めてたねえ」


「ふふふっこれでダーリンの体表面で私の舌が触ってないのは眼球と頭くらいよ」


 何故か美紀は自慢げに胸を反らした。

 

「あんたねえ……でも舐められるかどうかでいえば旦那様のなら全然嫌じゃないわね」


「私も全然平気ね」


 武藤の知らない所で武藤が戦慄するようなことを語る3人。ちなみに武藤がお尻を舐めろと命令した訳ではない。洋子の上で腰を振っている時に美紀に後ろから襲われた形である。武藤としてはくすぐったいだけで、集中できなくなるのでやめてほしかったのだが、途中でやめるわけにもいかず、美紀にされるがままだったのは武藤の苦い記憶である。


「でしょう? 例えあーしがアレックスのファンといってもお尻は無理だもん」


「……確かに旦那様以外は無理だわ」


「無理ね」


「今度3人でそういって迫ってみようか? 愛してもいない人のお尻を舐められるの!! って」


「あーそれいいかも。明確な証明があると旦那様って意外といけそう」


「次会うのが楽しみね」


 こうして知らない所で武藤は美少女女子高生3人に性感帯でもないお尻を狙われることが決まった。


 武藤の運命は……3人次第である。

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