第45話 お金

「武藤君今回は助かったよ。信じてはいたが、正直終わるまで不安でね。これで安心して仕事の手を広げられる」


 恐らく人脈構築の切り札として武藤の力を使うのだろう。社長の言葉から武藤はそう感じ取った。


「あの爺さんには貸しにしたが、勿論君には報酬を払わせてもらう」


 そういって社長は銀色のトランクケースを取り出した。


「1億ある。足が着かないように現金にした」


「いちっ!?」


「本当なら倍でも安いんだが大っぴらに渡せんし振り込むと税金がかかるからな」


 脱税前提の現金手渡し。さすがは裏の世界に生きる男である。


「これから口コミで清明の噂は広まっていくだろう。君となら世界をとれる。これからもよろしく頼む」


 そういってご機嫌で両手握手をしてきた。武藤は若干引きながらもそれにこたえる。何せ予想外に1億も貰えたのだから。実は貰えないか多くて100万くらいの見積もりだったのだ。それが100倍である。たった半日で1億。武藤の機嫌も良くなろうというものだ。



 そして車は武藤の家へと到着した。皆上機嫌のまま別れ車は戻っていた。


「さあ、中にはいろう」


「……なんで君まで降りるの?」


 何故か洋子も一緒に車を降りていた。


「……駄目?」


「うぐっ……まあいいけど」


 おっぱいを強調しつつ上目遣いで頼む。あざとさマックスだが男には特攻だった。おっぱいは男の防御を貫通するのだ。


「ただいまー」


「「「おかえりー」」」


 美少女3人の出迎えに武藤は新婚みたいだと顔がほころぶ。


「あれ? 洋子? どったん?」


「武藤君の仕事についてってたんだよ」


「ああ、なるほどね。それでどうだったん?」


「すごかったよ!! 動画とったから見せたげる」


 そう、実は洋子はこっそりとスマホで撮影していたのだ。


 リビングに移り、武藤が着替えている間、洋子は件の動画を再生していた。


「すごっ!? なにこれ!? ダーリンがやってるの!?」


「さすが武くんだ。演出が凝ってる」


「武かっこいい……」


 三者三様に驚き、ほめたたえていた。そして女の子が母親と抱き合っている場面は3人とも涙ぐんでいた。


「よかったねえ」


「ああ、さすがは武くんだ。ますます惚れ直したよ」


「武は私のだからね!!」


 3人供ますます武藤への思いを募らせているようだ。


「そういえばそのトランクケースは何だい? 行きには持ってなかったよね?」


「ああ、報酬が出たんだ。開けてみていいよ」


 武藤にそう言われ、香苗はトランクケースを開けてみた。


「!?」


「うわあああ!!」


「こんな札束初めてみたよ。いくらあるの?」


「1億」


 武藤はそっけなくそう答えた。



「いっ!? 一億!!」


「あの半日で1億稼いだのかい!?」


「ダーリンやばすぎ!!」


 こんな短期間に億を稼いでくるとは、さすがに少女たちも想像していなかった。


「奥さんと子供達に楽をさせる為にはもっと稼がないとなあ」


「!?」


 とても中学生の台詞ではないが、何気なく武藤が考え無しに呟いたその言葉に、4人の少女達は過敏に反応した。


「子供を育てる学費だけで私立なら大学までに多めに3000万はあったほうがいい。つまりこれで私、百合、美紀の子供を大学まで行かせることが出来る訳だ」


「えー一人だけ?」


「もちろん公立なら半分以下で済む」


「ならうちは公立でいいんで2人欲しい!! 男の子と女の子!!」


「なら私は3人で。1千万あまるから行けるよね?」


「ず、ずるいぞ百合!! それは私が考えていた作戦だ!!」


 やいのやいのと騒ぎ出す3人に傍で見ていた洋子がドン引きする。


(中学でもう子供含めた将来設計してんの!?)


 男の手も握っていない女では想像もつかない次元だった。洋子は戦う以前に舞台に上がれていないことを悟った。



「そ、それで武藤君は美紀のこと、もう嫁として認めてるの?」


「!?」

 

 洋子のその言葉に美紀が目を見開く。


「ダーリン?」


「正直言ってギャル子とのことは考えていない」


「!! 嘘……うちのこと嫌いになったの? うちとは遊びだったのねええ!!」


「遊びも何もデートすらしたことねえだろうが!!」


 そうである。まだ会った回数すら片手で足りるのである。


「殆ど会ったことないんだぞ? お互いの事全く知らない訳じゃん? それで結婚とか幾らなんでもおかしくね?」


「出会った回数なんて関係ない!! うちはダーリンを愛してるから!!」


「ストーカーみたいな理論やめろ!!」


「やっぱりか。美紀、それはさすがに武藤君の方が正しいよ」


「洋子……」


「武藤君がいい男だってのはわかる。助けられたってのも知ってる。でもそれで思いを強要したらだめだよ」


 洋子のあまりの正論にさすがの美紀も黙った。


「でも武藤君。美紀の気持ちもわかってあげて欲しい。絶望の状況からたった1人で、なんの見返りもないのに助けてくれたんだよ? 惚れるなって方が無理でしょ」


「洋子……」


「だから美紀にチャンスをあげて欲しいの。知らないのならこれから知っていけばいいだけでしょう?」


「洋子!!」


 美紀は思わず洋子に抱き付いた。洋子自身も不思議だった。自分は何故ライバルである美紀を助けるようなことを言っているのか。


(そうか。利益や打算なんか関係ない。自然と相手の事を思って行動するのが友達なんだ)


 洋子は自身の行動をそう分析する。


「だから明日美紀とデートしてあげて欲しいの。少しづつわかりあっていけばいいでしょ? 山本さん、間瀬さんどうかな?」


「……まあいいわ。確かに美紀はあまり武と接点がないものね」


「私も賛成だ。明日は夏休み最終日だから最後に色々としたかったんだが……まあ仕方ないか」


 百合と香苗の許可が下りたことに洋子は安堵する。


「洋子も」


「え?」


「洋子も一緒にデートしよっ!!」


「えええ!? な、なんで私まで……」


「ねえ、ダーリンいいでしょ?」


「……宿題も終わったから別にいいけど……俺といても楽しくないかもしれないよ?」


「ダーリンと親友と一緒にデートなんて楽しいに決まってるじゃん!! よーし、予定たてよう!! 洋子夜また連絡するね!!」


「ええ……」


 いつの間にかなし崩しに洋子もデートに参加させられることになっていた。


(なんでこんなことに……)


 友人のフォローのはずがいつの間にか巻き込まれていることに戸惑いを隠せない洋子だった。

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