現代魔法使いの爛れた日常

コアティー

中学生編

恋人と友人編

第1話 異世界

「武藤くん、一緒に遊ばない?」


 そう声をかけてきたのは誰だったか。顔も名前も覚えていない少女にそう言われて一緒に遊び、気が付けばその娘がイケメン幼馴染の浜本と一緒にいたことを武藤は覚えている。

 何故覚えているかといえば、そんなことが数えきれないほどあったからだ。なのでその記憶がその少女のものだったのかは記憶に怪しい。

 ただ、イケメン幼馴染に近寄るための踏み台。それが周りから見た武藤武の評価だった。近寄ってくる女性はみんな浜本目的。そんなことが続けば女性を警戒するもの当然の結果だ。

 気が付けば武藤武は立派な女性不信になっていた。自分に近づく女性は自分を見ていない。それが武藤から見た真実であり、また事実でもあるからだ。

 武藤自身に本格的な恋心が芽生えるより以前からの日常であった為、武藤自身からすれば恋人という存在に興味がなくなるだけで、失恋等の感情がわかなかったことは不幸中の幸いであると本人は思っている。

 

「な!?」

 

 そんな日々が続いたある日。交差点で信号待ちをしている時、武藤は突然足元の光に吸い込まれた。偶然近くにいた武藤と同じ中学生の二人とともに。


「おおっ!! 勇者様が来られたぞ!! これでこの世界は救われる!!」


 気が付けば石造りの建物の中で近くにいた中学生とともに倒れていた。それを見るように大人数の騎士らしきものたちが囲っている。

 そこから先はまさにテンプレ通り理の展開であり、召喚された二人の男女が勇者と聖女と呼ばれる存在であり、自分は全く関係なく巻き込まれただけの存在だと知る。

 大した力が無いと判断され案の定、城を追い出された武藤は偶然にも世界最強の魔闘家と呼ばれる男に拾われ、そこで修行の日々を費やすことになる。


 生死の境目を反復横跳びするような修行の日々が続く数年後のある日。どこで嗅ぎつけてきたのか、城からの使いが武藤の元にたどり着いた。


「勇者が死んだ?」


 まともに訓練もしないままでも十分に強かった勇者は、その驕りの為かあっさりと死んだらしい。聖女はどうしたのかといえば、さすがに即死したものまでは助けられなかったらしく、現在は城に引きこもっているそうだ。


 折角召喚した勇者をむざむざと死なせたとあれば、国家の威信も何もないということで、急遽追い出した武藤のことを思い出し、勇者としての代わりにすることを考えたのだろう。

 武藤からすれば、変わりなんて別に自分じゃなくて誰でもいいじゃないかという思いだが、勇者と聖女は黒髪黒目という情報が出回っている為にその辺りのごまかしが難しいらしい。


 己に全く利点がないと断ると、兵たちは無理やりにでも連れて行こうとするが、魔闘家として既に師をも超える存在となっていた武藤はあっさりと撃退。その後、何度か騎士団すら派遣されるもすべてを退けた。


 武力では勝てないと判断した国は人質を取ろうとするも、聖女は同郷なだけの赤の他人。親しい人は世界最強の魔闘家といわれる師匠のみ。人質として価値のある人物がいなかった。


 困った国は同郷である聖女に説得を頼んだ。


「武藤さん、お願いします。魔王討伐に協力してもらえませんか?」


「死ぬこと前提の状態なのにあっさり城を追い出したあげくに、困ったから助けてくれはさすがに人としてどうよ?」


 聖女の説得は問答無用の正論で一刀両断された。


「そもそも誘拐しといてなんで魔王を倒さないといけないんだ? しかも俺は特別な力も何も貰ってないんだぞ?」


 異世界転移ものでおなじみのスキル等は武藤には与えられなかった。もちろん勇者と聖女にはある。武藤が得た力は極限まで鍛えた中で、己の才能を完全に引き出しただけなのだ。


「でも魔王を倒さないと帰れないんだよ!?」


「……なあ、なんで魔王を倒すと帰れるってわかるの?」


「え? だって王様にそういわれたから……」


 聖女のあまりの馬鹿さ加減に武藤は頭を抱える。


「魔王が本当に異世界に返す方法を持ってるとしたら、別に倒さなくても率先して帰るのに協力してくれないか? わざわざ強力な敵が自分から帰ってくれるっていってるんだから」


「え? あっ……」


「それができないっていうのなら魔王が死んだときに発生する何かがいるとか、そういうことなのかもしれん。でもそれだとなんでそれを知っているのかってことになるんだが」


 はるか昔から勇者と魔王の対立があってそれを繰り返しているっていうのならまあわかる。そうだった場合、明らかに盤上を見て楽しんでいる存在がいるのだが。


「そうだよね……王様に聞いてみる!!」


「どあほう!! そんなこと言って答えてくれるわけねえだろが!! 答えがあってそれを教えてくれるつもりなら最初から教えてくれとるわ!!」


 言えないのには後ろめたい理由があるからに決まっている。


「はっ!? 確かにそうかも!?」


 武藤は聖女の天然ぶりに再び頭を抱えた。


「可能性として大きく二つに分けると、元々帰る方法なんて存在しない。帰るのに複雑な条件があるのでやれないの二つだ。帰る方法がないをさらに細分化すると最初から返す気がないとかもある。その中でも国に取り込むとか、魔王討伐が終わったら消すとかにも分かれる。まあ問答無用で誘拐する奴らにまともな対応を求める方が無理があるけどな」


 武藤のその言葉に聖女の顔が青ざめる。


「え、それだとほとんど帰れないってことじゃ……」


 今更の感想に武藤は心底呆れた。武藤自身は超越的な力で誘拐された時点で帰れるとは思ってない。帰れたらラッキー程度の感覚である。それくらい武藤は現状認識と感情の切り替えが早かった。


 結局聖女は落ち込んだまま帰っていった……かに見えたが、翌日、すぐに武藤の元へと帰ってきた。


「昨日夢で女神様が言ってたの!! 魔王倒したら元の世界に帰してくれるって!!」


「……等と少女は意味不明の供述をしており」


「意味不明じゃない!! 犯罪者を扱うニュースみたいなこといわないでよ!!」


 ぷんぷんっといかにもというあざとい怒りを表しながら聖女は憤っている。どうやら元々勇者と聖女はこちらに来る際に女神と会っていたらしく、そこで力を与えられたそうだ。その女神が再び現れて帰ることができると教えてもらったということらしい。武藤からすれば胡散臭いことこの上ないのだが、実際異世界にさらわれている身としてはすべてを否定できないところが悩みどころである。


「だから武藤君、協力して!! 地球に一緒に帰ろう?」


 自分は女神にあったことないし、帰れるとしても聖女だけじゃないのか等と思いつつも武藤はそれを口には出さなかった。そんなことで落ち込んだ美少女が元気になるのなら言わなくてもいい、と武藤は思ったからだ。一応空気は読める男なのだが、普段は読む気がないだけなのである。

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