夏が、キーンと

ムネヤケ

みmみm蝉

扇風機がぐるぐる。


私に風を送る。




私がグルグル。


世界が回る。




やがて疲れ果てて私は意識を失う。


夏の日差しが眩しい頃。それは私にとって地獄の日々だった。








ミーンミンミン


蝉が騒がしい。




魅~ン眠眠。


眠れない。




やがて疲れ果てて意識を失う。


夏の叫びがうるさい頃。それは私にとって地獄の日々。








ゆらゆらゆら


蜃気楼が見える。




揺ら揺ら揺ら


地面が揺れる。




やがて蒸発して意識を失う。


夏が汗を流している頃。それは私にとって自国の日々。








シャカシャカシャカ


スプーンを持って、




シャカシャカシャカ


かき氷を食う。




やがてシロップと共に口の中に広がるは幸福。


暑い夏に注ぎこまれた冷気。それは砂の海を旅する旅人がオアシスにありついた如く、夏の私を救ってくれる。私の大好物だ。




キーン


耳鳴りがする。




やがて一抹の不安が的中する。


かき氷の反撃にあい、私は悶絶する。これが嫌いだ。






夏はキライだ。


しかし私がどれだけ嫌がろうと夏はやってくる。


ほら、夏がすぐそばまで


扇風機を納屋の奥から出し始めたことが、窓の外から聞こえる蝉の声が、ニュースで天気が上がり始めたことがそれを証明している。




憂鬱だ。


あんな疑獄の日々待っているなんて


でも、かき氷は食べたいな。


他の季節に食べるかき氷よりも、夏に食べるかき氷たちが私は好きなのだ。格別なのだ。




夏の熱さを乗せた風がモアッと南から吹く。


風がゆらりと私のワンピースを持ち上げる。


夏だ、そう予感する。




幼少期の私は夏が「大」がつくほど嫌いだった。


昔は今ほど冷房はついてなかった時代だ。すぐに熱中症で倒れるなんてよくあった話だ。


今は違う。


ただ、夏が嫌いなことには変わりない。


夏は暑いし、蝉はうるさい、かき氷も高いお金を払えばあの「キーン」とした痛みから逃れられるという高級かき氷が売りに出されたようだが、依然としてあの痛覚が伴う市販のかき氷が主流だ。




変わったことと言えば


「ビールがキーンとする」


大好物がかき氷からビールに変わったことだろう。






私は青い空を見上げて、横に置いてある保冷バックからビールを取り出す。




ごくごくごく


キンキンに冷えたビールが




ごくごくごく


乾いたのどを潤す




乾いた大地の注がれた冷水。それはまるでワジに沿って流れる雪解け水の如く砂漠に命を吹き込み、大地を緑豊かなものにする。


私の夏を豊かにするもの。それがビールなのである。


他の季節に飲むビールよりも、夏に飲むビールは格別にうまいのだ。




ごくごくごく


止まらない腕の傾き。そうしてビールを飲みほした。


熱さのせいなのか、少し汗をかいている。私は汗を拭う。


外気の暑さとビールの冷たさが矛盾を生み、私に頭痛を与える。




夏がキーンと




夏も、ビールも神様の与えてくれたものだ。ならばこの頭痛も神様が与えてくれたものかもな。そう思いながら私はこの場を去った。


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夏が、キーンと ムネヤケ @muneyake

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