黒猫にスカウトされたので、呪われ辺境伯家に嫁ぎます!〜「君との面会は1日2分が限界だ」と旦那様に突き放されましたが、甘えん坊の猫ちゃん(旦那様に激似)がいるから寂しくありません
【27】夫視点「俺はもう、仔猫じゃないんだ…」
【27】夫視点「俺はもう、仔猫じゃないんだ…」
ニール自然公園で話した後、俺とクララは転移魔法でカフェの前に戻った。ぶつくさと文句を言うリンデルを適当にいなして、馬車で屋敷に帰ってきたのだった。
自分の部屋に戻った俺は、うなだれていた。
「…………猫、か」
クララは霊獣化した俺を『ペットの猫』だと思い込んで、溺愛している。かつての俺は霊獣化を制御できず、仔猫みたいな姿になってクララに甘えまくっていた。
だが、今は。
俺は鏡の前に立ち、深呼吸をした――黒く雄々しい獣の姿を脳裏に描く。一瞬のうちに、俺の体は巨大な『黒豹』へと変貌した。
『……すまない、クララ。俺はもう、仔猫じゃないんだ』
普通の黒豹の二倍近い大きさで、体動に合わせて魔力由来の金色粒子が舞う――これこそが、ウェルデア王国の守護霊獣『黒豹』のあるべき姿なのだ。
『君の大好きな『猫ちゃん』じゃあ、なくなったんだよ。俺は』
鏡に映った自分の姿を見て、俺は溜息をついていた。喜ばしいことのはずなのに、ひどく心が沈んでいる。
今では完全に霊獣化をコントロールできるから、理性を保ったまま姿を自在に切り替えることができる。魔力回路の正常化に伴って、黒豹としての外見も立派な成獣へと変化した。
だから『猫ちゃん』は、クララの前に現れなくなったのだ。
俺がレナス辺境伯領に戻るのは、霊獣化を完全に制御できるようになったことを祖父に証明するためでもある。これまでは次期当主になることに消極的だった俺だが、今後は全力で継承準備を進めていく――そう宣言するのが、帰省の主目的だ。
そして辺境伯の地位を継いだ暁には、クララに正式な結婚を申し入れたいと思っている。
今回の帰省にクララを連れて行かず、王都のタウンハウスに置いていくことにしたのは諸々の事情を受けてのことだった。俺の霊獣化についてはまだ秘密のままだし、あの『魔境』を見たらクララが嫌がるかもしれない……そんな不安があったことも確かだ。
『……俺はまた、知らないうちにクララを傷つけていたのか』
クララにふさわしい男になりたくて、成長しているつもりだったのに。まさか泣かせてしまうなんて。
『どうやったら、クララを安心させられるかな。少しの間だけでも、元気な姿を見せてやれたらいいんだが』
だが、こんなデカい豹では無理だ。どこをどう見ても、猫には見えない。さすがのクララも怖がるだろう……。
鏡を睨んで考え込んでいた俺は、ふと妙案を思いついた。
『……そうか。魔法をかけ合わせれば、可能かもしれない』
『肉体遡行』という魔法がある。短時間だけ若返る魔法だ。霊獣化と肉体遡行を併用すれば、仔猫の姿に戻れるかもしれない。
俺はさっそく、肉体遡行の魔法を使おうとした。――だが、やめた。
『……ダメだ。こんなのは、クララを騙しているだけじゃないか』
俺は霊獣化を解いて、人間の姿に戻った。
「バカだな、俺は。これ以上嘘を重ねてどうするんだ」
クララに猫の正体を、正直に打ち明けるしかない。実は俺だったと知れば、クララは驚くだろう。軽蔑されるような行為も、少なからず働いてきた……だから、嫌われる可能性は高い。それでも、言わなければならない。
クララに対して、誠実な男であろうと決めたのだから。
覚悟を決めた俺は、部屋を出ようとしてドアノブに手をかけた。
こん、こん。というノックの音が響いたのはそのときだった。ドアを開いてみると、クララが目の前に立っていた。
「!? クララ、なぜ俺の部屋に……」
「……ジェド様」
クララは真っ青な顔をしている。目に涙を滲ませ、小刻みに肩を震わせていた。
「どうした。何があったんだ?」
彼女は震える手で、俺に手紙を差し出してきた。
「実家から手紙が届いたんです。……父が、危篤だと」
「マグラス伯爵が!?」
俺は愕然としながら、手紙の文面に目を落としていた。
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