【19】一緒に寝ましょ、ネコちゃん。
私は、黒猫を寝室に招き入れた。黒猫は物珍しそうに部屋の中を見てきょろきょろしている。
私はベッドに腰を下ろして、両腕を開いて黒猫を呼んだ。
「おいで」
黒猫は甘えるようにひと鳴きすると、勢いよく私の胸に飛び込んできた。ずっしりした重みに負けて、そのまま押し倒されてしまう。もふっと柔らかな温もりに、私は顔をほころばせた。
「本当に大きくなったわね。すごくモフモフで気持ちいい……。枕にしたら安眠できそう」
「しゃっ」
頭の下に敷かれるのは、嫌だったらしい。不満そうな声を出して、耳をひくひくさせている。
「ふふ、冗談よ。痛くしないから、一緒に寝ましょ」
仰向けに寝転んだまま手招きすると、黒猫は私の顔のすぐ前までやってきた。私のおでこに自分のおでこをこすりつけ、甘えるような仕草を始めた。
「あなたが来てくれて良かった。……本当はね、ちょっと寂しい気分だったの。あなたの御主人様に、冷たくされちゃった」
にゃ? と首を傾げるような素振りをしている黒猫を抱き寄せ、私は横向きに寝転んだ。黒猫の可愛いおでこをコツンと
「ジェド様は、やっぱり私と距離を置きたいみたい。最初に『俺にかまうな』と言われていたのに、私があれこれ世話を焼いたのが良くなかったのね、きっと。……でも、お料理をもっと食べたいって言ってくれたのはジェド様のほうだったのに。最近はとても親しくしてくれて、毎日嬉しかったのに」
全部、社交辞令だったのかな。ジェド様の本音が、まったく分からない。
「ジェド様も、あなたと同じくらい素直だったら良いのにな。彼が何を考えているのか、全然分からないわ……」
泣きたい気分になっていたら、黒猫が私の指をそっと甘噛みしてきた。なんとなく、私を励ましてくれているような気がする。
「猫ちゃん。あなたは、私のことが好きでしょ」
「にゃ!」
「私も好きよ。すごく、すごく大好き」
黒猫を優しく抱きしめながら仰向けに寝転び、自分の体の上に黒猫を乗せてみた。重たいけれど、温かい。なんだかすごく癒される……。
「私、やっぱりこのお屋敷にずっと居たいわ。あなたと、離れたくない……」
「にゃぁ」
安らいでいたら、なんだか眠くなってきた。猫ちゃんも眠たそうにウトウトしている。温もりに甘えながら、私は眠りに落ちていった。
***
――翌朝。
ずっしりと重たいものに全身を押しつぶされていることに気づき、息苦しくなって目覚めた。『何か』が乗っかっているせいで、全然身動きが取れない。
(……何? この重たいモノは)
たぶん、私の体重より重い。この物体は何なのだろう? 昨夜は確か、猫ちゃんを抱いて寝ていたはず……。
(もしかして猫ちゃんが、さらに成長したとか? いいえ、いくら何でも猫の重さじゃないわ……)
それなら一体、これは何? 絶対に生き物だ、呼吸に合わせて全体が上下しているし。というかまさか、この感じは人間……?
おそるおそる、私は頭を動かして『物体』の全貌を確認することにした。私の胸の上に、人間の頭が乗っている。黒い艶やかな短髪は、やや癖のある猫っ毛だった。
――男の人だ。
折り重なるように私の上に乗り、男の人がすやすや寝息を立てている。
「ひっ!?」
悲鳴を上げようとした直前、体の上の男性がぴくりと動いた――どうやら目覚めたらしい。のそ、と顔を上げたその男性と、目線がバッチリ重なった。……というか、この男性は。
「ジェド様!?」
「ク、クララ!?」
うわぁあああ! と絶叫してベッドから飛び降りたのは、ジェド様だった。
「なんだこれは、どういう状況だ! なぜ俺は君と寝てる!?」
「わ。わかりません。いつから……というか、施錠していたのにどうやって入ってきたんですか?」
寝乱れた部屋着の胸元をおさえつつ、私はジェド様に問いかけた。
「ち、違う、これはつまり……おそらく、その……。絶対、やましいことはしていない。俺、ずっと寝てたし。でも、……ええと」
ジェド様は、赤くなったり青くなったりしてうろたえている。
「す、すまんっ――!!」
ジェド様が逃げた!! 弁明するのをあきらめたのか、全力疾走で部屋から出て行ってしまった。
「な。何なの……?」
屋敷の主人であるジェド様の前では、施錠なんて無意味なのかもしれない。だとしても、どうしてジェド様が私の寝室に!?
「――――――――――――――??」
意味不明すぎる。ジェド様が何を考えているのか、ますます理解不能だった。
私は顔から火が出そうなほど熱くなり、頭は真っ白になっていた。だから黒猫が姿を消していたことにさえ、気づく余裕はなかったのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます