【短編】高嶺の百合の咲かせかた

佳奈星

第1話

 あたしの名前はたてはなもみ。何処にでもいる普通の女子中学三年生……だったら良かったんだけど、実際には仕事の忙しい両親の代わりに妹二人の世話をしているちょっとお姉ちゃんレベル高めの大人びた女子中学生。背が低く童顔である部分に突っ込んではいけない。

 もちろん妹達のお世話は好きでやっている事だし、彼女達はあたしと違ってそれはもうキャワイさの権化なので、苦じゃない。


 そんなあたしは今、究極の選択を迫られていた。


「ピークスリリエン女学院に入学するか、地元の高校を選んで妹達のお世話を続けるか……どうしよ〜!?」


 そう――なんとあたしは、隣町にある格式の高い超々お嬢様学校の特待生に選ばれてしまったのである。えぇ〜っ!?

 合格通知が来た当初は沢山の何故Why何故Why妖精さん達が頭の中を飛び回っていた。

 それもそのはず。あたしの学力は確かに良いけどずば抜けている訳ではない。

 それに受験で受かったとしても、ピークスリリエン女学院は学費が高過ぎて入れない学校なのだ。


 では何故受験したのかというと、ちょっと同級生のお嬢様というものを見たいという下心があったからである。まあ試験を除けば女学院の洗面所内が良い匂いだったことしか憶えていないけど。


(まさかっ、難問らしき選択問題を適当に回答したのが逆に吉と出てしまうなんて……)


 そんな事に幸運発揮してくれるなら、試験前日に合格祈願で引いた宝くじが当たってくれればよかったのに……っ!

 人生中々上手くいかないものらしい……とほほ。


 地元のお婆さま方はみんな褒めてくれて、最初こそ気分は良かった。


『紅葉ちゃんすごいわねぇ』『ピークスリリエン女学院に受かったって本当?』『しかも特待生だなんてすごいわぁ!』


 あたしは正直者なので、言いふらして自慢した。嬉し過ぎてスキップしてたら道端で転けてしまうくらいにはウハウハだった。

 まあそんな幸せも束の間だと知る事になったのだけどね。


 ピークスリリエン女学院は全寮制。

 現実的に考えて妹達の世話が出来なくなってしまう。

 なんとか理由を付けて実家から通うにしても、隣町までの交通費があるし、移動時間を考えれば家事どころではない。


「紅葉姉、私達の心配なんてしないで!」

「ピンクピエンピエン学院でビックなお姉になって欲しいの!」


 悩んでいるあたしのぼっち相談会へ、愛しの妹達……あおしろが参入してきた。

 由緒ある女学院をそんな酷い名前で呼び間違える妹の方がもう既にビックだとお姉ちゃんは言いたい。

 でもまぁ妹達はまだ子供。厳しくしすぎるのは良くないので叱る選択は避けた。


「じゃあピークスリリエン女学院、入学するかぁ」


 正直、あたしは入れるなら入りたい。

 だってお嬢様達の花園だよ? あたしみたいな地味な庶民は三年間ぼっちかもしれないけど、近くで観察できるだけで最高じゃん。


「流石紅葉姉チョロい〜」

「うるさいやい! 青葉達はあたしがいなくて大丈夫なの? お姉ちゃんは心配だよ」


 あたしの教育のお陰で、妹達もそれなりにしっかり者に育った。このようにちょっと棘はあるけど、根は良い子なのだ。

 一応お母さんの長期出張が終わるらしいので保護者には困らないけど、あたし自身が心配なのである。

 しかし――。


「お姉こそ、思い込み激しいんだから気を付けてね?」

「喧嘩しちゃダメだよ!」


 お母さんの代わりに数年間お世話してあげたのに、姉に対する印象が酷い。

 とはいえ、こんな生意気言うのは、あたしに自分達を心配せず女学院へ行ってほしいという意味なんだろう。きっとそう思ってくれているに違いない。あたしは姉として誇らしいよ。


「お姉ちゃん、ビッグな女になってくるよ!」


 こうしてあたしはピークスリリエン女学院へ進学する事を決意したのである。

 何故か妹二人は苦笑いを浮かべて送り出してくれたけど、言葉には出してくれない期待をあたしは察した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る