第一章 異世界への適応

異世界転移!?キター!!

「明日提出の宿題終わったの?」

「……帰ったら本気出す」

「はぁ……」


 俺と、俺の幼馴染み……玲香は二人連れ立って帰路についていた。


「そんなんじゃ大学行けないわよ」

「ふっ…俺は小説で一当てして生きていくのさ!」

「文才ないくせに」

「グハッ!?」

「というか、あなたの場合スポーツ選手目指したほうが現実的じゃない」


 いや、まぁ確かに運動は得意だけどさぁ……ん?なんだその闇の深い顔は?


「ねぇ。地上最強のポケ……人間衣嚢いのう 弥有二ミュウツーさん?」

「お前それわざとだろぉおお!!!?」

「あら、ごめんなさい。わざとじゃないの。許して弥有ミュウ?」

「玲香ぁああ!!?」


 そう、俺の名前はDQNネーム、もといキラキラネームと言うやつである。

 ミュ〇ツーとはポケモンの最初期の出てくる最強格のキャラクターで、ポケモンファン……いや、狂信者と言っても過言ではない両親がつけやがった名前だ。許すまじ


 ちなみに親父は光宙ピカチュウ、母は 伊武威イーブイなんて言う名前のせいで外出先で名前を呼べないというやたらめんどくさいことにもなっていたりする。


「玲香、宿題をやってなかった俺が悪かった……だから、な?名前で呼ぶのはやめてください」

「わかってるわよ。……それであなた何を調べるの?私はLGBTQについて書いたけど」

「俺は相貌失認につい……なんだ、これ?」

「幾何学模様?」



 話している途中でいきなり下を見て絶句している玲香。それを見て俺も足元を見やるとそこには――淡く輝く幾何学的な文様。いわゆる魔法陣があった。

 そしてそれはどんどん輝きを増し――


「まず!逃げな――」

「ちょ――」


 俺たちの視界は白に染まった。


 §


 そして光が消え、回復した視力で当たりを見渡すとそこは


「森……?」

「どうなってるの……」


 日本が世界に誇る?ベットタウン千葉の住宅街ではなく、映画などでよく見る大森林が広がっていた。


「……これって、もしかしなくても異世界転移?」

「……異世界かはわからないけれど、〇〇転移って言えるのは確かね」


 弥有二ミュウツーは直前に自分たちの足元に存在した巨大な魔法陣と、今自分たちがいる明らかに千葉には存在しない光景を見て、まさかと思いながらソレを口にすると、一部分とはいえ信頼する幼馴染みに肯定され――破顔する。


「よっしゃ!まじかぁあ!?異世界転移きたぁああ!!」


 男子高校生らしく、この展開のテンション爆上がりする弥有二ミュウツー。だが、それとは対照的に玲香は「嘘であってちょうだい」と呟きながら頭を抱えていた。


「異世界だ!剣と魔法の世界きたー!」

「やめて。まだ異世界だなんて決まって――」


『GAAAAAAAAAA!!!』


 次の瞬間、人が、本能が、絶対に敵わないと、恐怖を覚える咆哮が鳴り響く。


「……認めたら?」

「……認めるわ」


 おそらく三階建ての一軒家くらいの大きさがあるであろう爬虫類……いわゆる西洋のドラゴンが空を吼えながら横切っていったのを見て口を閉ざした。


「それで?これからどうするのか教えてくれない?私こんな状況に類するもの経験したことないからわからないのよ」

「んーラノベだと適当に歩いてれば危機に瀕してる商人とか貴族の令嬢を発見して、異世界転移で手に入れたチートを使って解決!そのまま街まで案内してもらうっていうのが定番なんだけど……」

「確率が低すぎるわ……」

「だよなぁ……」


 見知らぬ場所、しかも文明と呼べる物が見える範囲の一歳見当たらない場所に突如飛ばされる、というのはやはり受け入れ難いのか玲香は目を瞑り黙り込んでしまう。


 それに対して弥有二ミュウツーはというとそこまで焦っていなかった。


(常に持ち歩いてるカロリー〇イトが一箱と、1L水筒の半分のお茶。ここはそこまで暑くはないし、三日くらいはギリいけるか?それまでに人に会えれば万々歳なんだけど……ここまでのピンチは久しぶりだなぁ)


 弥有二ミュウツーは空想家であり、将来の夢もコロコロ変わるような人間ではあるが現実が見えない馬鹿ではないのだ。だから元々空想家であるという下地があるお陰で、この状況をあっさりと受け入れついでに生存のための算段もつけられるのである。


「とりあえず歩こうぜ?ここでじっとしてても意味ないし」

「……ええ、そう、ね……とりあえず歩きましょう」


 とりあえず歩いきだした二人だが玲香は一人険しい顔をして何かを考え込んでいるため、必然的に会話はなくザッザッという草を踏み歩く音だけが存在する沈黙が広がる。


(玲香はまだ受け入れられないかー。まぁ俺とは違ってあっち地球に思い入れが強いだろうから当然だとは思うけど……出来れば早く復活してほしいなー。的確な判断っていう点じゃ玲香はずば抜けてるし)


 自分が現状を判断してその場における最適解を叩き出す、という能力において玲香に劣る事を自覚する弥有二ミュウツーは、早速彼女に話しかける。


「なぁ、ここって異世界じゃん」

「ええ、少なくとも地球じゃあないわね」

「じゃあ人がいないってこともあるんかね?」

「それは……ないんじゃないかしら」

「お、どうして?」

「だってさっき見た幾何学模様は魔方陣っていうんでしょ?だったら、それを行使した人間……人の形をしているかはともかく知的生命体がいるのは確実なはずよ」


 先ほどまでの弱り切った声とは違いある程度の力の籠った声を聞いた弥有二ミュウツーは少しだけ安堵する。もう帰れないかもしれない地球の事を考えるよりも、現状や未来の事を考えた方が気が紛れるのだろう。意識的かはわからないがそれに気付かされた玲香はとりあえず、自分達が生き残ろための最適解を考え始める。


「……とりあえず、あっちに行きましょう」

「理由は?」

「うっすらとだけど山、らしき物が見えるわ。山に行けば川をはじめとした水が見つけやすいし、木の実とか、水に集まってきた動物もいるはず」

「つまり食料の宝庫ってわけか。じゃ、決まりだな!」


 とりあえずの目的を定めた二人。そのうち一人は快活な笑顔を浮かべ、もう一方はマシになったとはいえ眉間に皺を寄せながら歩を進め始めた。


 こうして、ご都合主義など存在しない二人の異世界における旅が始まったのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


弥有二ミュウツーは異世界に来た事をチャンスと捉え、すぐに改名します。

違和感のない名前になるのでご安心を


尚テンプレ展開は存在しませんのでご容赦を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る