俺が勇者で幼馴染が魔法使いなんて俺は認めない~へたれ勇者とおてんば魔法使いの旅〜

桜桃ナシ

第1話 旅立ち

「勇者、遊人よ、どうか魔王を倒すために旅立つのだ」


 王様はゆっくりとはっきりと面と向かって私に告げる。


「へ?」


 数日前までは学校に通って充実した学園生活を過ごしていた。だが、気づけば俺は勇者になっていた。何を言っているかわからないと思うが、俺もなにが起こっているかわからない。頭がどうにかなりそうだ。というか俺死んだのか? 確か、幼馴染の魔子を助けようとして、それで……


「勇者、遊人よ、どうか魔王を倒すために旅立つのだ」


 目の前の王様は再度告げる。


「というか、なんで俺が選ばれたんですか」


「勇者、遊人よ、どうか魔王を倒すために旅立つのだ」


「いや、王様。ですから……」


「勇者、遊人よ、どうか魔王を倒すために旅立つのだ」 


 この国の王様は、魔物に親か娘でも殺されてるのか? 頭おかしくなっちまってるよこれ。断れそうにない。


「あーはいはい。分かりました。分かりました」


「勇者、遊人よ。今からお前は西の洞窟へ向かうのじゃ」


 唐突すぎるし、人の話を聞かない。誰だこんなやつを王様にしたやつは。


「分かりました。向かえばいいんですね。むかえば!」


 かくして、俺、小鳥遊 遊人は勇者となり西の洞窟へ向かうこととなった。


「遊人君! 私、魔法使いとしてあなたをのお供をすることになったの。よろしくね」


 振り向くととても可愛い衣装を来た。幼馴染の破魔 魔子が立っていた。杖を持っている。どうやら魔法使いの衣装のようだ。


「コスプレ?」


 ちょっと理解が追いつかない。どういう事だ。彼女は助からなかったのか? 俺、無駄死にしたのか?


「俺たちって……異世界転生でもしたのかな?」


「え? いせかいてんせいって、なんのこと?」


 ああ。どうやら彼女は前世の記憶がないらしい。でもこの立ち振る舞い。間違いなく魔子さんだ。


「ねえねえ。私、魔法使いになったんだよ! 遊人くんは勇者になったんだよね?」


「ああ、そうなんだけど……まだ全然実感が無いというかなんというか」


 いや、まて。まてまてまて。よく考えたら幼馴染の魔子さんは魔法使いの装備してるのに俺は布の服にえっと、なんだこれ棒きれだけだ。


「あのやろう……」


「どうしたの遊人くん?」


「いや、王様に勇者になって西の洞窟へいけっていわれたんだけど、武器とか鎧とかそういう勇者っぽいもの何ももらってないというかなんというか」


 あの王様まじ許さねえ。魔物にやられた事にして、この棒きれで撲殺して、どこか別の国に逃亡するか。いや、早まっちゃいけない。多分何か理由が……理由が……いや、ないな。あの王様に限ってそれはない。


「大丈夫だよっ、遊人くん。私がついてるから」


「何が大丈夫なんだよ。西の洞窟に何があるのかすら聞かされてないんだぞ」


 俺がそう言うと、幼馴染は首を傾げて言った。


「あれ、遊人くん聞かされてないの?」


「ああ。一切聞かされていない」


「魔子は知っているのか?」


「うん。知らないよ」


 満面の笑みで魔子さんは言った。


 かくして俺、小鳥遊 遊人と破魔 魔子との旅が始まったのだった。

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