第34話 謎に迫る
「皆さん。このイレギュラーはただの自然現象じゃないかもしれません。今日はその真実を――俺たちが暴きます!」
俺はカメラの前でそう宣言しながら、一ヶ月前の特務秘書課での作戦会議を思い出していた。
ヨル社長から新宿ダンジョン探索の目標を聞いた後、皆で今後の配信アイデアを話し合っていたときのことだ。
「実はひとつ……気になっていることがあって」
俺はおもむろにそう切り出した。
「気になっていること? なんだいクロウ?」
「ああ、いや。気になっているといっても、配信のネタとか……そういうところからはちょっと外れた話になっちゃうかもしれないんですけど」
「どんな些細なことでも構わない。話してみてくれ」
ヨル社長のその言葉に背を押され、俺は話を続けることにした。
「違和感っていうのは、ここ最近のイレギュラーの発生スパンのことです。今データをお見せしますね……」
俺は手元に置いたノートPCの画面を、会議室前方のホワイトスクリーンに映し出した。
画面にはダンジョンポータルから引っ張ってきたイレギュラー発生履歴の一覧が表示されている。
――――――――――――――――
5月11日。渋谷ダンジョン中層――ファイアオーガ発生。
人的被害:ダンチューバー掛水リンネ、軽傷。
6月18日。渋谷ダンジョン中層――ミノタウロス発生。
人的被害:ダンチューバー雛森ミクル、重体。
6月29日。六本木ダンジョン上層――オーガ・ベルゼブブ発生。
人的被害:なし。
7月9日。池袋ダンジョン上層――ダイオウガザミ発生。
人的被害:ダンチューバー風間シオリ他3名、死亡。他負傷者多数。
他、報告多数……
――――――――――――――――
「このデータは今年の四月以降、東京都内のダンジョンで発生したイレギュラーの被害をピックアップしたものです。見てのとおり……イレギュラーモンスターの発生回数が著しく増加しています。ちなみに通常、イレギュラーモンスターの発生は全国で年間10〜20件程度です。これはあくまでも報告ベースの件数なので、実数はもっと多いと思われますが……」
こうして改めてデータとして整理すると、その異常性が際立つ。
「このように都内のダンジョンだけに連鎖的にイレギュラーが発生しているんです。特異性はこれだけじゃない。発生エリアは上中層のエントリーゲートやセーフティルーム周辺に限定されていて、しかも発生時には必ず近くでダンチューバーが配信活動を行っている」
「私がイレギュラーに巻き込まれたときも……クロウさんがいなければきっと死んでました……」
リンネさんはその時の恐怖を思い出したのか、少しだけ顔を青くしてボソリとつぶやいた。
「一連のイレギュラー発生は偶然じゃない……キミはそう言いたいわけか?」
ヨル社長の問いかけに俺は頷く。
「確証はありません。だから違和感でしかありません。ただ、偶然として片付けるには不自然な点が多すぎる気がします」
ちなみにこの状況に俺が気づけたのは、毎日必ずダンジョンポータルにアクセスして、ダンジョンの情報収集をしていたためだ。
それは探索の危険度を少しでも下げるために、ブラックカラー時代から行なっていた長年の俺の習慣だった。
「つまりこの連続イレギュラーは人為的に引き起こされている"事件"であると……」
「その可能性は否定できないかと。だとしたら、俺は……見過ごしたくありません。放っておけば今後も被害者が増えるかもしれない」
俺の脳裏に一瞬だけ、ミクルのクソ生意気な顔が浮かんだ。
「……面白い」
ヨル社長がニヤリと微笑む。
「都内で異常発生する連続イレギュラー。その裏にある真実を暴く。悪くない配信テーマだ。実にドラマチックだよ。リンネとユカリはどう思う?」
「はい、私も……イレギュラーを意図的に引き起こしている人がいるとしたら、絶対に許せません。クロウさんと同じ気持ちです!」
「いいんじゃな〜い? 仮にイレギュラーが人の手によるものなら……ボクはその方法が気になるねぇ。スキルによるものか、それとも特別な装置を利用しているのか? ぜひとも犯人をひっ捕らえて、その仕組みをくわし〜く調べてみたいなぁ。むふふふ……」
「決まりだな」
二人の同意を受けて、ヨル社長は大きく頷いた。
こうして、俺とリンネさんによる『イレギュラー事件の真相に迫る』という、いわば配信の裏テーマが決定したのだ。
***
そして、
俺たちの身にイレギュラーが発生した。
それは、身に迫る危機であると同時に、真相に迫る絶好のチャンスでもあった。
俺が敵の襲撃に備え、ナイフシースからククリナイフを引き抜いた次の瞬間。
ガシュ、ガシュ。
金属的な響きを孕んだ足音が聞こえてきた。
俺はその音の先に視線を移す。ついでダンジョンドローンのカメラアイもその方向にフォーカスした。
《イレギュラーモンスターのお出ましか!?》
《なんだアレ? 甲冑? 持ってる武器は……斧?》
《首がない》
《首なしの甲冑って・・・デュラハンか?》
『クロウ、リンネ、イレギュラーモンスターの種類解析が完了した――』
耳に繋いだインカムからザザッと短いノイズが走り、次いでモニタリングをしているヨル社長の声が届いた。
『敵は断頭台の騎士、スリーピー・ホロウ。気を抜くなよ二人とも』
《スリーピーホロウきたー!!!!!》
《強いの?》
《深層をナワバリにしてるデュラハン種のS級モンスター。ぶっちゃけ確認されてるデュラハン種の中で最強レベルの個体》
《その姿を目にしたダイバーはもれなく首なしにされるから、ついた二つ名が断頭台の騎士やで》
《うわあ……ヤバそう(;^ω^)》
《一説では甲冑の硬度はダイヤモンド並。正直物理攻撃で戦うのは無理ゲーレベル》
《モンスター博識ニキいいぞ~》
「モンスターの解説、助かります。正直戦いながらだと解説がおろそかになりがちなので、できれば今後も視聴者の方で補足説明のコメントをいただければありがたいです」
俺は目についた解説コメントにお礼の一言を返しつつ、ククリナイフを構えて戦闘態勢に入った。
「リンネさん……」
「大丈夫です! 犯人の捜索は私に任せてください! クロウさんは敵の討伐に集中をッ!」
俺がリンネさんに声をかけると、皆まで言う前に力強い返事が帰ってくる。
頼もしい限りだ。
ならば、俺も俺の役割を果たそう。
「スキル発動。魔眼バロル。
俺はスキルを発動し、地面を蹴り上げ一気に敵との間合いを詰めた。
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