3章 悪をぶちのめしてバズる

第29話 ヴィラン《side九頭田フトシ》


※暴力、不快表現を含みます





『次のニュースです――本日未明、池袋ダンジョンで発生した大規模なイレギュラーの影響により探索者ダイバーへの被害が発生しています』


『発生したイレギュラーモンスターはダンジョンギルドが派遣した討伐隊により排除されましたが、この事故により当時ダンジョン配信をしていた人気ダンチューバー風間シオリさんを含め3名が死亡。他多数の負傷者が発生している模様です。繰り返します……』



 ふひっ。

 ふひひひっ。

 

 おめでとう。

 本当におめでとう、シオリちゃん。


 さあてシオリちゃんはどんな輝きを残してくれたのかな〜。

 事故配信動画をチェック、チェック〜♪

 

 おっほぉ、ランキング1位じゃんか。最後に皆に注目してもらえてよかったねぇ。キミの力になれてボクも嬉しい。

 

 さっそくその勇姿をご拝見。

 動画を再生。シークバーをスクロールしてお目当てのシーンまで早送りっと。



『や、やめてッ! こないで……! い、いや……!』


『いやッ! 死にたくない! 死にたくないよ! 助けて……! 誰か助けてよッ!』


『助けて! ママ……ママぁ……マ°――』


『ゴシャッ。ベキボキメキメキョ』


 へは、へははぁ、うひゃひゃ。

 

 ああ、ああ……!

 最高だ。最高だよシオリちゃん。

 

 最期の甲高い断末魔。

 イレギュラーモンスター・ダイオウガザミのハサミに掴まれて無慈悲にちょん切られる細い胴体。ほとばしる鮮血。ピンク色でプリップリの中身。

 

 ビューチホー。

 あゝビューチホー。


 光を失ったキミの瞳。ソー・スウィート。

 お願いだからそんな目でボクちんを見つめないで。


 そんな目で見つめられたら、ボクちんは……


 切なくなっちゃう。

 オチンチン切なくなっちゃうよぉッ!

 

 ハァハァ。

 フゥフゥ。

 

 ボクちんは!

 ハァハァ……!


 ウッ――!


 ア……は……


 はふぅ……



***



 はあ、最高だったよシオリちゃん。


 ごめんね。 痛かったよね? 怖かったよね? 

 本当はボクちんももっと楽な方法でシオリちゃんを解放してあげたかった。

 でもこれは必要な試練だったんだ。


 なぜならキミの魂は自分でも知らないうちに汚れちゃっているから。取り返しがつかないくらいにね。


 実はダイバーライセンスを取得するときにね、ダンジョンギルドは探索者ダイバーの体内にマイクロチップを埋め込んでいるんだ。

 このチップからは常に毒素を孕むマイクロ波が放出されていて、その影響でキミの思考が管理されてしまう。


 しかもね、それだけじゃないんだ。

 このマイクロ波は体内に蓄積を続けて、やがて周囲へ放射してしまうやっかいな性質を持つ。

 特にチップを埋め込まれた人がダンジョン配信を始めたら本当に大変なことになってしまう。なぜならマイクロ波はネットワークを巧妙に利用してモニター越しの視聴者にも届いてしまうからね。



 許すまじ。闇の政府ディープステートの手先・ダンジョンギルド!



 そう、シオリちゃん。

 残念ながらキミはもう取り返しがつかないところまで、マイクロ波による汚染が進んでしまっていたんです。


 この汚染を浄化する手段は一つだけ。本人の魂を肉体から切り離すことが肝要です。


 そのためにはどうすればよいのか。

 高濃度の魔素を体内に取り入れることで、魂ごとゼンブ浄化してしまえばいいんだ。


 でも魔素を取り入れるって、言葉で言うとシンプルだけど実際にコトに及ぶのは簡単じゃない。

 ダンジョンの深層まで立ち入るのは容易じゃないし、D2スーツも魔素の干渉をジャマしてくる。



 そこで、ボクちんに与えられたハイスキル

 《剛力招来イレギュラー・コール》の出番ってわけ!



 実は魔素と交わるのにモンスターに攻撃してもらうのはとってもポピュラーな手段の一つなんだ。


 モンスターの攻撃がダイバーの体内に届くことで、その瞬間、魔素がその人の中身に効率的に行き渡り、蓄積された毒素をキレイに取り除いてくれる。

 ダンジョンギルドが仕込んだ小賢しいマイクロ波なんか、ダンジョンが生み出した偉大なる魔素の力の前では無力だ。

 モンスターランクは高ければ高いほどいい。深層をナワバリにするSランクモンスターなら申し分なし。


 これで一安心。魂はマイクロチップの制御から解放される。

 魂の解放の前では肉体の生き死になんて重要じゃない。

 死に至る苦痛だって、ほんの些細なことだよね。


 だから、シオリちゃん。安心してね。

 キミの心は、ボクちんが守ってあげたのだ!


 …………


 おっとそうだ。

 大切なこと、忘れてた。

 シオリちゃんの魂が無事に解放されたこと、きちんとファンの皆に報告してあげないと。


 かちゃかちゃ。


 えっと、いつものように、個スレに飛んで……


 かちゃかちゃかちゃかちゃ。


――――――――――――――――

239: ダンジョンに潜る名無しさん

風間シオリ

無事に解放されました

――――――――――――――――


 これでよしと。


 ああ、どうしよう。またオチンチンが疼いてきちゃった。

 もう一回動画を見返して……

 


『――続いてのニュースはダンジョン関係でひさしぶりに明るいニュースです』


 んん?


『――先日六本木ダンジョンで行われた掛水リンネさんの配信がSNSを中心に大きな話題を呼んでいます』


 リンネたん。

 ああ、リンネたん。


 ボクちんにはわかる。キミの魂が叫んでいることを。

 どうして誰もわからないんだろう。どうして誰も彼女の心の悲鳴を無視するんだろう。


 彼女の体も心もマイクロ波の汚染でズタボロだ。

 もう取り返しのつかないことになってしまっているのに。


 リンネたんの解放は、もう二度も邪魔されている。


『配信では《謎リーマン》として巷をにぎわせていた探索者ダイバー・皆守クロウさんがリンネさんのバディとしてサプライズ参加しました。二人は途中イレギュラーに遭遇するなどの予想外のトラブルにも見舞われましたが無事に――』


 わかってる。原因はコイツだ。

 皆守クロウ。


 コイツがリンネたんを縛ってる。

 リンネたんはコイツのせいで苦しみ続けている。


 オチンチンを握る手に怒りがこもる。


 でも大丈夫。

 ボクちんは絶対に諦めないよ。



 ボクちんは光の戦士、九頭田くずだフトシ。



 キミを、絶対に救ってみせるからね――……








――――――――――――――――


3章開始です。

章タイトルのとおり、ヴィランとの戦いがテーマになります。


ダンジョン配信は33話から開始です!



 

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