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「わかった。2時間くれ」

「きっちり60分だ。ヘリを使えば間に合うはずだ」

 ここ本社と篠山にあるラボの距離を考える。ギリギリだ。計算づくでいやがる。 

人質も鷹峰の孫と知ってのことだろう。情報源は何処だ? コイツはいったい何と繋がってる?

 シュウはゼロ課緊急回線にアクセスしている。腕時計型情報端末リストデバイスのカメラは先ほどからアクティブにして、イブとのやり取りを送信している。各部所は動き始めているはずだ。鷹峰CEOにも詳細は伝わっている。

「ちゃんと通信してるか? 時間を無駄にするなよ」イブは念を押す。中継を承知で交渉しているのだ。

「EVEを使って何をする。仲間を増やすのか? じゃ寂しいものな」カマをかけてみる。

「ふん。の数が知りたいのか? オマエとて同類だろう。そのスピードで動けるのは人間じゃない。ただだけの、だ。

 人類ヒトはカンブリア紀に突入したのだ。新たな環境に適応するために、遺伝子がさまざまな形態を試し始めた。を乗り切るためにな」

 太古、カンブリアの海で、生物は爆発的に種類を増やした。陸に上がるための試作品が手あたりしだいに創られた。試されたカタチは多種にわたり、あまりの異形にカンブリア・モンスターなどと呼ばれる。続くシルル紀には、過酷な淘汰の果て、ついに生物は上陸を遂げる──

「250年後、太陽系はブラックホールに呑まれる。そこで生き延びる生物のカタチを遺伝子たちが模索しているのだ。EVEはその触媒にすぎない。どうだ、非人間のオマエ、ワタシと組まないか?」

「魅力的な提案だが、まず敵対を止めよう。未来に向けて話し合いのテーブルを用意させる」

 あはは。へたなジョークを聞いたとでも言いたげに、イブは笑う。「話し合いとは、力が拮抗する同士のものだ。格差は支配しか生まない。

 ある日、ヒトの群にヒトの能力を超える〈上位者〉が現れるとする。下位となった現人類の運命は、従属か絶滅のいずれかだ。生き延びたくば、労働力か食料になることだ」

「絶望的状況だな」

「この世は〈喰う〉事に始まる。生きものは他の命を喰わねば生きていけない。生まれた瞬間から、命は罪業を背負っている。上位が下位を喰うは摂理。ヒトが豚を喰うように、ワタシはヒトを喰う。旨いからな。とくに脳と心臓。とりわけ、性欲が亢進した、テストステロンたっぷりのオヤジは旨い」



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