第8話   アンタレス星人とベガ星人      


私は目を覚ますとゴーレムが2体、私達を覆うように朽ち果てていた。

「ハルト」

「メタン」

2人とも寝息を立てていて、私は這いつくばった姿勢で首をうなだれ安堵する。


ゴーレムの体から抜け出て、制服の土を手で払いながら大地に立つ。

そこには無限の宇宙と、変わりゆく雲の景色が変わらずあった。


(夢の続き・・・)


私はハルトとメタンを抱えると、地面に刺さるアクシオンの剣が目に入る。

私が手に取ると、それは小さな木の棒に変わった。

なんとなく木の棒をスカートのポケットに入れて飛び立った。



そびえる積乱雲の頂上から世界を一望する。

ハルトをおんぶし、左腕には深く眠るメタンを抱えていた。

下から風が吹き抜け、私は咄嗟に切れ長の目を閉じる。


前方の雲の山が、溶けるように流れていった場所に町が見えた。

「カノン見て見てー」

目を覚ましたハルトも背後から町の方を指さす。

「町だね。行ってみようか」

「うん」

私は積乱雲から大きくジャンプし、スカイダイビングのように落下していく。

風を受け、頬がブルブルと震え、制服の全面がピタリと体にくっ付く。


紫や黄色といった雲の固まりをすり抜けていくと、遠くに見えていた町は徐々に近づいてきていた。

「ぶつかるーー!」

セーラー服の後ろ襟にしがみつくハルトが叫んだ。


私は氷彫刻刀のように大気を削りながら速度を落とす。

ふわふわと私達は、噴水のある田舎の町の中央広場へ降り立った。

「あーおもしろかったねー。もういっかい」

ハルトは笑っている。

「病院探そう。メタン怪我してるかも」

「びょういん?」

「おいで」

私はハルトの手を引き、辺りを見回した。

広場の入り口には”ようこそ!アシュバールへ”と表記されたアーチがあった。


散歩道をジョギングしている人や木陰で読書をしている人、カフェテラスで談笑している人など広場で過ごす人達がいて私はのどかな雰囲気に安心した。


私は目の前を通りかかる青年に声をかける。

「すみません。あの」

「はい」

声をかけられた青年は紫の短髪で耳は尖っていた。

セーラー服を着た高校生と半人半兎の幼児に、脇に抱えられて眠っている小さな子供。

(どう思われるかな)


カノンはハルトの手をキュッと握り言葉を続けた。

「あの、この子が怪我をしているかもしれなくてですね」

「怪我?ああ、天使さんか。えーと」

青年は少し驚いたように私をじっと見た。

「君は・・・僕が見ようか。天使さん下ろしてくれる?」

青年に言われたように、私は抱えていたメタンを芝生の上に下ろした。


青年の目が赤く変化すると、メタンの体の周囲で手を上下させていた。

「良かった。大丈夫だよ」

(何が・・・?)


笑顔の青年の瞳は元の茶色に戻っていた。

「特に悪いところは無さそう。ゆっくりと眠り静養をとればすぐに元気になるよ」「病院は行かなくて大丈夫ですか?」

笑顔の青年は首を傾る。

「ん?ビョーイン?今なんて言ったの?」

「病院です」

「ごめんビョウインがなんなのかわからないや」

「えっ?えーと、病気がないか検査したり、怪我や病気を治療する施設の事です」

「君はガイアの子だよね。大丈夫だよ。とりあえず、天使さんを休ませてあげないといけないけど、君はこの町の人じゃないね。何処か休む場所のアテはあるのかい?」「特に・・ないです」

「じゃあ僕の家においで。妻と2人暮らしで彼女は今、夕食の支度をしてるはず」

青年は数秒目を閉じた。

「さあ、行こっか」

そう言って、青年はハルトと手をつないで歩き出した。


青年の名前はスイと言った。

奥さんはアンナで1年前に一緒に暮らし始めたのだと。

スイはアンタレス星人で、アンナはベガ星人なのだそうだ。

話を聞きながら私は日本の七夕を思い出した。


スイの家は小さな古民家風の一軒家で、玄関までのアプローチに綺麗な花壇があり、花が瑞々しく咲いていた。


いきなり玄関のドアが勢いよく開く。

「こんにちは。ようこそ。貴方がカノンさんね」

青年と同じくらいの年の女性が、明るく私達を出迎えてくれた。

温かい夕食を用意してくれていて、テーブルをみんなで囲んだ。

ハルトはすっかりアンナを気に入ったようで膝に座り、夕食をおねだりしている。


「それにしてもガイアの子と、天使さんと、月の民の組み合わせには正直驚いたよ。メタンさんが元気になるまで家にいたらいいよ。ねえ」

「ええ、賑やかで楽しいわ」

2人は顔を見合わせ微笑み合っている。


(見た目は私とほとんど変わらないけど、アンタレス星人って超能力がつかえるみたい。ハルトも懐いてるし、信用していいかな)

「すみません。よろしくお願いします」

私は頭を下げた。


「大丈夫だよ、気楽にさっ、僕たちはいつもお互い様だし」

「あの、アンナさん私の名前知ってましたが、どうしてですか?」

「ああ、さっきはアンナに知らせを送ったんだ。そうだな、翻訳機能を使わないと」

スイは胸から光のコードをつまみ出し、私に繋げるとコードは枝分かれしてアンナにも繋がった。

「これでOK」

(何がOKなの?)


「ここアシュバールは、ガイアとは異なる文化だと思うから、わからないことは何でも聞いてね」


 




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