NARU‐ナル‐ 冒険の始まり
青川 友之新
第1話 旅立ち
上部が扇のように広がる巨大なタワー。
そのタワーの周囲には、
たくさんの高層ビルやタワーマンションが建ち並ぶ。
国中の富者が集まり、世界からも注目される大都市エルム。
そこでは日夜、ビジネス・ギャンブル・様々な娯楽が行われている。
なかでも今一番流行っているのが、バーチャル空間でのMake New Battle-メイクニューバトル-。
Make New Battle-メイクニューバトル-とは、
アイデア・技術・肉体 すべてを使い、一対一で行われるバーチャル空間での戦闘である。
別名【MNB(エムエヌビー)】と呼ばれている。
多くの人が熱狂し、
MNBの覇者には富や名声、人々が求めるすべてのものが与えられる。
そして、
その街で出される大量のゴミ・廃棄物はその少し離れた貧しい村、ナマシナへ――
◇
「おいおい、今日もまたすごい量だな」
ゴミで組まれたイスから重たげに腰を上げ、
運ばれてくる廃棄物へと向かっていく。
その大量の山の向こうに、大都会のタワーが見える。
「そういえば知ってるか?この村から今年挑戦する奴が出るらしいぞ」
「そんなやついんの」
◇
ゴミだらけの街で人々が仕事をしている。
何人かの子供たちも仕事をしている中、帽子を深くかぶりうつ向いている女の子。
「お姉ちゃん・・・」
真っ黒に日焼けしたか細い手でナルの腕をつかみ、涙目で見上げるナユ。
ナルは振り返り、
「大丈夫だよ」
妹ナユのチリチリの髪を優しくなでる。
「これ、電車の中で食べて」
ボロボロの風呂敷に包まれた弁当を手渡す母カイラ。
「ありがとう、ママ」
少し悲しい気持ちを抑えつつ、頑張って笑顔を作るカイラ。
「じゃ、行ってくるね!」
ナルの背中は太陽の日差しを受け、12歳には見えないくらいに大きく輝いていた。
◇
「本当にいかなくていいのかよ、ナル出発だろ」
「大丈夫。ナルはやるさ」
ゴミを拾いながら、マーサはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
<回想>
家の中で食事の片づけをしながらナルに話しかけるマーサ。
「いよいよ明日だけど、どんな気分?」
木でできたボロボロの棚からマーサは切符とチケットを取り出しナルに渡す。
「ナルね、なんかいけそうな気がするんだよね」
なるは自分に言い聞かすように明るく答えた。
「俺もナルならできると思う。世界は広いし色んな奴がいる。最高に楽しい経験になるさ」
ナルはマーサの言葉を素直に受け取る。
マーサが片づけに戻り背中を見せるとナルはなぜか不安は消え、
自然にニンマリと笑いが出てくる。
◇
木造のボロボロの駅。
周囲はギザギザの鉄線で覆われており、進入できないように囲われている。
脱走するものを許さないと書かれた看板が貼り付けられている。
「エルム行き 8時15分発 まもなくの発車です」
アナウンスが流れる。
「君、切符は?」
青いスーツを着たガタイの大きい駅員が不機嫌そうに聞いてくる。
「はい」
笑顔で切符を手渡すナル。
無言のまま切符にハンコを押し、駅員は顎で電車の方を指す。
「ありがとう」
ナルの満面の笑みでのお礼の言葉に少し表情が緩むも、
「早く行きな」
冷たい口調で言い放つ。
◇
オレンジ色に緑のさし色が入った電車。
車両の後ろの方は人がごった返していて乗り込み口にまで人が座り込んでいる。
《この辺はすごく混んでる なんでだろ》
ナルは中央付近まで歩いて行き、割と空いている車両に乗り込んだ。
座席と座席の間の中央通路を歩いていると、
「なにあの汚い子」
と多くの視線を感じるナル。
席はまばらに空いている。
中央付近まで歩いた時、
ひげが白く、髪をジェルで固めた小太りの中年男性が前方の席から立ちあがり、
ナルに近づいてくる。
「おいおい。なんでこんな汚いドブネズミがこの車両にいるんだ」
嫌味ったらしく発せられた言葉にナルは困惑している。
「ママ。あの子ナマシナの子でしょ?なんでここにいるの?一番後ろの車両に行かないとなのに」
「ほんとね。ネズミさん迷い込んだみたいだから駆除しないとね」
その車両はナルを見る冷たい目線であふれていた。
「そうなんだ」
ナルは泣きそうになりながらも歯を食いしばり、笑顔で答える。
中年男性はナルの頭を鷲掴みにし顔を近づけ
「はやくアッチ行け」
と耳元で凄む。
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