異形化する世界で・・・
天晴 大地
序章
一般家庭の一般的な住宅の一室。
真夜中の住宅街は真っ暗闇。にも関わらず、灯りの付いた部屋が一つ。その部屋の主である一人の青年がスマホに向かっていた。部屋の中は酷く乱雑に散らかっていて、足の踏み場が辛うじてあるかどうか、と言う現状。唯一ベッドの上だけが綺麗にされており、物一つ落ちていない。この場においては『異様』なそのベッドに青年は寝ころびながらスマホを横持ちの状態で両手操作をしており、熱中していた。
「うっし!へっへ~ん。な~にが最強プレイヤーだ。そんなの俺を倒してから言え、っつうの!馬鹿が!」
青年がしていたのはスマホ用のゲーム。【天上への塔】と言うゲームをプレイしている。
【天上への塔】はゲームタイトル通り天上へと続くと伝えられる塔を延々と登っていき、天井を目指す事が目的となるゲームだ。塔の中にはモンスターが蔓延っており、プレイヤーを排除しようとしてくる。それらを逆に排除しつつ探索していく。更に、一の桁が0の階層にはボスと呼ばれるモンスターがおり、プレイヤーの行く手を阻んでいる。
因みに死んでしまった場合、特殊アイテム以外をロストする。基本的には全ての所持品を無くしてしまうが、アイテムを使用して別のアイテムを『ロック』する事で、特殊アイテムと同じくロストしなくなる。が、このロックするアイテムは希少であり、中々手には入らない
そんなモンスターを排除しつつ、時には様々な罠を掻い潜り、塔を登っていくアクションRPG。基本的には一人用ではあるが、一月に一週間だけ設けられたPVPイベントの間だけ、他のプレイヤーとリアルタイムで対戦する事が可能である。
そして、今まさにそのイベントが開催中であり、青年は相手プレイヤーのプロフィール欄に「最強」の文字を発見。一人で勝手に憤りを感じ、『最強』を宣っていた者を撃退する事に成功していた。
「でも、まぁ、最強を言うだけはあった。俺が居なければ確かに最強だったかもしれんな!はっはっはっ!」
青年は仕事もせずに部屋に籠りっぱなしの20歳。
四六時中暇さえあればこの【天上への塔】をプレイしているニートである。
高校を卒業後、就職先で人間関係に悩み、ギブアップ。
パワハラが原因であり周りは同情的であったし、慰謝料を支払わせる事も出来た。しかし、それまでは良かったのだが、極度の人間不信、それこそ親を含めた身内、友人でさえ恐怖の対象となってしまった青年は、引き籠りにジョブチェンジしてしまったのだった。
周りのケアも空しく、青年は人と接する事自体に苦痛を感じ、少しするとパニックに陥る事もあった。その為、周りは放置するしか方法が浮かばず、事件から1年と半年経過した今現在まで放置が続いている。
そうして学生時代からドはまりしている【天上への塔】をこれ幸い、と言えるのかはさておき。青年はこの1年半の間にやりにやり込み、『最強』を自称するレベルの強さのプレイヤーを倒せるまでに成長していた。
青年自身は自分が実際にどの程度の強さを持っているのかわかってはいない。上位に居るであろう事は疑ってはいないが、ランキングとした場合にどのくらいかまではわかってはいない。
それはこのゲームにランキングシステムが実装されていないので当たり前ではあるが、もし実装されていたとした場合。彼のランキング順位は13位。
一桁のランキングではないし、最強とも言えない順位ではある。が、費やした時間とそれなりの課金によって最上位の強さを手にしているのである。
「さて、今回のイベントポイントはこれでMAX。明日までしかイベントは開催されてないからちょっとギリギリだったな…」
それなりに集中していた先程のPVPから疲れを自覚。
ベッドの上で大の字になり、プレイを一時中断。してはいるが、スマホの画面は起動したままである。
「イベントはもう気にしなくていいから、また上を目指すとしますか」
イベントはこのゲームでなくても時間制限はある。
その時間制限を気にする必要がなくなった彼は、また塔の上を目指そうかと想像を巡らせる。
他にやる事はなかったか?
先にやるべき事はなかったか?
今の戦闘力で上を目指して大丈夫か?
今よりも強くなるのに必要な事はなにか?
色々と考えて下した決断は、進む事であった。
「行きますかな」
投げ出していた両腕を再び眼前に引き戻し、手に握ったままのスマホを両手でまた操作し始めた。
彼が眠ったのは、太陽が昇り、世間が一日の始まりに賑わい始めた頃であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます