化粧下手な元アパレル店員(3)
また、恐怖の展開になるのかと思った。
相当昨日の一件で私は、臆病になっているようだ。
明日香は静かに続けた。「彼がお金で上手く処理してくれたから、奥さんからの慰謝料請求もなかったわ。結局、そんな事もあって起業家の彼とは別れたの。私達夫婦も、多分近いうちに離婚することになると思うわ。」
「多分、夫は起業家とのことを気づいているらしいの。」と、彼女は悲しげに言った。
「でも今は、夢だったカレー屋さんをやるために勉強中なんです。料理の腕を上げるために、試行錯誤を繰り返しているんですよ」と続けた。
「だから、昨日ここのカレーを食べて感動しちゃった。」
「カレー屋ですか! 早く実現するといいですね。」と私が興味津々に聞く。
明日香は目を輝かせながら、「美味しいカレーを提供する小さなお店で、口コミで広がって、たくさんのお客様に愛されるようなお店に出来たら良いななんて思ってます。」
「いいですね~」
「頑張って下さい。 できる範囲で応援しますよ。」と、俺の口は無責任な言葉を吐いた。
あ〜、また、やっちまった。いつからだろ、素直に人を応援したり、協力できなくなったのは。安請け合いしないために『できる範囲で』を発動してしまう。
それが、怪し人に対してなら分かるが、こんなに素直に自分の弱みを見せる人に対してもやってしまうなんて。自分の小ささを露呈してるだけなのに、ダラダラと続けたサラリーマン生活がそうさせたのか。いや、サラリーマンが全てそんな訳はない・・・
「嬉しい」明日香は私の薄っぺらい言葉にも喜んだ。
「それから、最近流行りのサウナにもはまっていて…自分をリラックスさせる時間が持てるようになりました。」と嬉しそうに語った。
喫茶店の時間はゆっくりと流れていき、彼女が帰る頃にはもう夕方になっていた。
でも、私の脳ミソは、さっきの無責任な言葉を挽回しようとずっとフル回転していた。
それで、やっと出てきたのが「良かったら、この店の空いてる時間に間借りカレー店でもやってみる」だった。
私は、調子に乗り続けた「明日香さんのカレー屋さんだから、店の名前は『明日カレー』かな」
「えっ!」
「いいの〜」
「嬉しいです。前から一度やってみたいなと思ってたの」と、明日香は喜んで私の目をダマになったマスカラの目でじっと見つめた。
その、真っ直ぐな眼差しに私は少したじろいた。
「あっ! もうこんな時間。」
「今日も楽しい時間を過ごさせてくれて、ありがとう。また来るね!」と彼女は笑顔を見せ、小走りで店を後にした。
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