化粧下手な元アパレル店員(2)
次の日、また彼女がやってきた。
そして、今度はカウンターに席を陣取った。
「うっ!」
一瞬私の身体は、一昨日のゴジラを思い出し硬直した。
「お疲れ様です!昨日は美味しいランチをありがとうございました。」と彼女が微笑みながら応えた。
彼女のこの言葉で、私の身体は柔軟性を取り戻した。
そして、ゆっくり息を吸い「いらっしゃいませ。お昼のランチ、楽しんでいただけたみたいで良かったです。」と私は嬉しそうに答えた。
彼女は再びカプチーノを注文し、こちらも笑顔で提供した。
「ここのカプチーノはやっぱり絶品ですね。他のコーヒーショップよりも美味しいと思います。」と彼女はカップを手に取り、一口飲んでから言った。
「ありがとうございます、そう言っていただけると励みになりますね。」と私はうれしそうに答えた。
「あっ! 私、明日香って言います。これからもちょくちょく来ると思いますのでよろしくお願いいたします。」と彼女は突然名乗った。
名乗ったことで、距離感が近くなったのか「ねえ、私、本当はあんまり化粧が得意じゃなくてさ。今日もなんか変でしょ。」と彼女は唐突に話し始めた。
「でも、アパレル店の店長をしていたなんて、すごいですね。きっと素敵な店だったんでしょうね。」と私は彼女の経験に感心しながら言った。
あ、まずい。『でも』って、彼女が化粧下手と言ったことに対して『そうですね』って、言ってないか。
彼女はにっこり笑って、「そう言ってくれると嬉しいわ。でも、やっぱりここでの時間が、今は一番楽しいかも。」と答えた。
私は、彼女の『今は』をあえて入れたところにちょっと引っ掛かった。それほど親しくもないのに「何か悩み事でもあるんですか」と、聞いてしまった。
彼女は少し寂しそうな表情を浮かべながら、「夫は弁護士で毎日帰りが遅いんです。私は、義母との関係も上手くいかなくて、わたも夜遅くまで家に帰らない日が続いています。」
私は「大変ですね。」としか、言えなかった。
「それに子供は授からないんです。夫の不妊症が原因で、一緒に子供を持つ夢は叶わないんですよ…」と、彼女は続けた。
「それは辛いですね…でも、明日香さんはいつも前向きな姿勢を持っているように見えますよ。」と私は励まそうとして言った。
すると、彼女はゆっくりと言葉を選ぶように話し始めた。「実は、3年前暇な時間を有効に使うために学び直しの大学院に入学してみたんです。そこで知り合った起業家と…」
「起業家ですか?」と私が興味津々に聞く。
「はい、その起業家と付き合ったんです。でも、彼の奥さんに二人の関係がバレてしまって、結局はむこうは離婚になってしまったんです。」
「うっ!」私は、この急な展開に言葉が詰まった。
・・・
もしかして、今度は弁護士絡みの・・・・
恐怖の展開になるのか・・・・
私の鼻は、コーヒーの香りを感じなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます