第2章:草原に立つ

第16話:正式な謝罪、感謝の気持ち

 第16話:正式な謝罪、感謝の気持ち


 教会での騒動の後、あたしたちは適当にブラブラと街を歩いていた。

 会話も少なく、どことなく暗い雰囲気が漂っていたと思う。

 そして噴水前に着いた時、どことなく居心地の悪さを感じてログアウトをした。


「あれ?」


 はずだった。

 しかし、本来目覚めるはずなのに白い空間に浮かんでいた。


「こんばんわ、マタタビさん。 先程ぶりです」


「あ! ネシア様!」


「ふふっ、猫路でいいですよ? 今は私達二人しか居ませんし配信も止まってますので」


「そうですか? それで猫路さんはどうしたんでしょうか?」


「はい、先の件の時に申し上げた通り、改めて謝罪をさせていただきたく思いまして」


「あ、なるほど」


「この度は本当に申し訳ありませんでした。 運営側の不手際でご迷惑をおかけしてしまいました」


 ふわふわと浮きながらもしっかりと頭を下げてくれる猫路さん。

 こういう時、逆に申し訳ない気持ちが湧くのはなんでなんだろう……?


「いえ、結果的に無事解決できたし……大丈夫です、謝罪を受け取ります」


「すまない、ありがとう。 いや若いのに大人のような受け答えをされてビックリしたよ」


「お父さんから、こういう時はそうやって返すんだよって教えてもらってて」


「なるほど、とても素晴らしい父君なのですね」


「えへへ、ありがとうございます」


 なんだか恥ずかしくって、顔が熱くなっているように感じる。


「ふふふ、それで、事の経緯を説明しようかと思うのですが」


「はっはい、わかりました。 よろしくお願いします」


「では……」


 それから、どうしてあんなことが起こったのか。

 どのように対処するのか。

 あたしの方ではどうしたらいいのか。

 そういった話を聞いた……ナビさんにそんなバグがあったなんて、思いもしなかった。


「はい、それでお願いします……突然すごく好かれる事もあるみたいですが、何も悪くないのに嫌われちゃうのは可哀想すぎるので……」


「では、マタタビさんの方でも専用クエストだった、ということで話しを合わせていただくようお願いします」


「はい、さり気なくそんな感じで視聴者さんには伝えます」


「ありがとうございます、お手数おかけします」


「いえ、ナビさんを守るためですし、最善の策だと思いますので」


「……大事にされてるんですね」


「え? あ、はい……まだそんなに一緒には居ませんけど、大事な家族です。 ユキさんもナビさんも……街の人たちも猫さんたちも、あたしは生きてると思ってます。 この街で生きて死んでいく、そこにたしかに存在している人たちです。 仲良くなった人だってたくさん居ます。 二人はたしかに特別大事ですけど、この世界の人たちみんな大事に思ってます」


「……っ! ありがとうございます、本当に、本当に嬉しいです! これからもこの世界の人たちと素敵な時間を過ごしてください、それを可能にできるよう我々も最大限の努力をしていきますので!」


「はい! これからもよろしくお願いします♪」


「マタタビさんが素敵な女性で本当によかった、猫聖女の衣を持つに相応しい方だと確信しました。 ……チェシャールさん、ライブーラさん、聞いていますよね?」


 ん? チェシャールさんとライブーラさんもここに居るの?

 猫路さんの両隣に光りが現れたかと思うと、二柱の神様が姿を表した。


「はいにゃ、ずっと聞いてたにゃ。 あちしは紫暗の飼い猫の知恵者チェシャにゃ。 マタタビさん、あちしからもこれからもよろしくにゃのにゃ!」


「はい、ここに。 私はGMゲームマスター長の火神生羅かがみ せいらと申します。 とても素敵な気持ち、しかと聞かせていただきました。 何かあれば迷わず私達を頼ってください、必ずお力になりますので」


 二柱はそういうと、とても優しい微笑みを浮かべてあたしを見た。

 チェシャールさんは本物の猫さんってことなのかな?

 ライブーラさんはゲームマスターだから平等を司る神様って立ち位置なんだね。


「あたしこそよろしくお願いします! あたしの家は動物を……猫さんを飼うことができなくて、この世界ならそれができるって思ったんです。 誕生日と発売日が一緒だったのでお父さんにねだって買ってもらって、こんな素敵な経験をすることができています。 だからとっても大好きで大切な世界です。 この世界を生み出してくれて本当にありがとうございます!」


「あぁ、こんなにも嬉しい気持ちになれるだなんて、本当に頑張った甲斐がありましたよ」


「本当にゃ、毎日毎日徹夜してるのを見てきたにゃ。 報われて良かったのにゃ」


「本当に純粋で綺麗な心を持った素敵なお嬢さんです。 これからも頑張りますね」


「あああなんか勝手に語っちゃってごめんなさい!」


「いいんですよ、嬉しい気持ちが伝わってきて私達も本当に嬉しいんです。 開発陣一同、これからも楽しんでもらえるよう全力を尽くしますので、よろしくお願いします」


「「よろしくお願いします」にゃのにゃ」


「はい♪」


 三柱は頭を上げると、優しい微笑みで手を振った。

 あたしも笑顔で手を振ると、徐々に視界が黒く染まっていく。

 そして一瞬の浮遊感の後、気が付くとソファの上に横たわっていた。


「好香? 好香大丈夫か?」


「ん……お父さん?」


「あぁ、良かった……全然戻ってこないからどうしたのかと思ったよ」


「ごめんね、ログアウトしようと思ったら開発者さんのところに呼ばれて……」


「そうだったのか。 こっちから見てたけど、映画のワンシーンを見ているようですごかったよ。 あれはゲームの演出ってやつだったのかい?」


「ううん、ナビさんにバグがあって想定外の動きをしちゃったみたいで、開発側の責任ですって謝られちゃった」


「ってことは演出とかじゃなくて、本当にナビさんが消される寸前だったってことかい!」


「えー! そんなの嫌だよ!」


「そうだったんだよね。 ナビさんに【好感度が極端に上下する】っていうバグがあって、チェシャール様の好感度が一気に1になっちゃったのが原因だったんだ……もしこれが好感度0になってたら……問答無用で即消されてたかもしれない……」


「1あったおかげで直接的な行動を取らなかったってことなんだね……あの時解決できて本当に良かった! 家族が消えてしまったら僕たちも本当に悲しいからね!」


「ハラハラしながら見てたわ、無事で良かったわね♪」


「やけに緊張感があると思ったら……演技じゃなかったなら納得だよ。 まったく作った人らはヒヤヒヤさせるねぇ」


「本当に消えちゃってたらほのか泣いちゃってたよ!」


「そうだね、本当に良かった」


「いやーしかし、好香にあんな勇気があったとはビックリしたよ!」


「そうね、お母さん感動しちゃった♪」


「あ、もー! やめてよー!」


 みんなニコニコしながらいじってくる。

 もう! 恥ずかしいんだからやめてよね!

 家族を守れたのはよかったけど、あんまり突っつかないでー!

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